まるでカンブリア爆発だ
百花繚乱というべきか、役者が揃ったというべきか。ここ数年で、SUVのバリエーションは実に豊かになった。
サイズでいえば軽自動車やコンパクトカーのサイズから、フルサイズと呼ばれる大型SUVまで。タイプでいえば、本格的なオフローダーから実用タイプ、さらには運動性能を重視したスポーティSUVやラグジュアリーを極めたプレミアムSUVまで。それぞれのサイズに、さまざまなタイプのSUVがラインナップされている。
現在のSUV市場を見ながら頭に浮かぶのは、カンブリア爆発という言葉だ。諸説あるけれど、約5億4000万年前のカンブリア紀に爆発的に多様な生物が誕生し、現在の生物の祖先がほぼすべて出現したとされる。
なぜカンブリア紀にたくさんの種類の動物が誕生したのか?酸素濃度が上がることで他者を捕食する強い生物が生まれたなど、さまざまな説が唱えられているけれど、まだ議論は続いている。
一方で、なぜ現代に“SUV爆発”が起きたのかは、比較的容易に説明することができる。その理由は、価値観の変化と、自動車テクノロジーの進化だ。
価値観の変化とは、主役の座がクルマから人に移ったことだ。
かつてのクルマは富や権力の象徴で、つまりステイタスシンボルだった。けれどもクルマがあたりまえの存在になると、クルマそのものよりも、クルマを使ってどう楽しむか、どのように暮らしを豊かにするかがポイントになる。
アルプスの峠に由来する名が体を表す
すると黒塗りのセダンよりも、天候や道路事情を気にせずに、仲間や遊び道具を積み込んで遊びに行けるSUVを選びたくなるのは当然の成り行きだろう。
そして、かつては重くてうるさくて、乗り心地と燃費が悪かったSUVであるけれど、自動車テクノロジーの進化によってそうしたネガはほぼ完全に消え去った。
かくして、“SUV爆発”の時代になったのだ。
さまざまなタイプのSUVのなかでも、異彩を放っているのが今回試乗をしたアルファ・ロメオ・ステルヴィオだ。ワインディングロードを気持ちよく駆け抜けることができる、フットワークの軽さをウリにするという、唯一無二の存在なのだ。
イタリアとスイスの国境、アルプスに位置するステルヴィオ峠を車名に冠するあたり、アルファ・ロメオは企画段階からミドルクラスのスポーツカーのようなSUVを意図していたのだろう。また新型ステルヴィオ 2.2ターボ ディーゼル Tiの「Ti」はTurismo Internazionaleの略称で、文字通りアルファ ロメオのスポーティなグランドツーリングモデルに与えられる名称でもある。
興味深いのは、2.2ℓのディーゼルターボエンジンの特性だ。低回転域からドスンというトルクがある、静かでスムーズに回転を上げる、というのが最新のディーゼルエンジンの特徴だ。それは、このエンジンも備えている。
ただし、それだけではない。回転の上昇とともに盛り上がるパワー感や伸びのよさなど、心地よさも提供してくれるのだ。ディーゼルなのにスポーティ、という特性には、ちょっとした歴史的背景がある。
アルファ・ロメオにはかつて、ステファノ・ヤコポーニというエンジニアがいた。アルファに移る前のフィアット時代に、131アバルトのエンジンを手がけ、WRC(世界ラリー選手権)のマニファクチャラーズ選手権を3度も制した「エンジンの神様」だ。
ヤコポー二の功績のひとつが、現在のクリーンディーゼルエンジンの礎となる、コモンレール式直噴ディーゼルを開発したことだ。このエンジンはアルファ・ロメオ156 2.4JTDに積まれ、世界で初めて実用化された。残念ながらこの特許は資金難からボッシュに売却されたが、アルファ・ロメオにディーゼルエンジン開発の輝かしい歴史があることは確固たる事実なのだ。敏捷な身のこなし、そして経済性だけでなく官能性も備えたディーゼルエンジン。多様化するSUVのなかで、このクルマは新しい時代のスポーツカーという独自のポジションを確立している。