秋山都 MIYAKO AKIYAMA

文筆家、編集者。女性ファッション誌編集部を経て、富裕層向けライフスタイル誌「SEVENSEAS」、「Harper’s BAZAAR」、「東京カレンダー」編集長を歴任。おいしいもの、楽しいこと、すてきな人を追い求め、日本と世界を取材。自身が住まう東京のダウンタウン発信の地域メディア「rojiroji」を主宰。インスタ@miyakoakiyama

旅に出る目的は人によってさまざま。シンプルに景観を楽しみたい、温泉に入りたい、など百人の旅人がいればその旅も百様でしょう。では私は? 私の旅はいつも食欲オリエンテッド。話題のレストランがあると聞けばすぐ駆けだしたくなりますが、最近「デスティネーション・レストラン」といわれるような地方のレストランは数か月先、数年先まで予約がいっぱい。シェフやオーナーの知り合いじゃないと連絡すら取れないというケースも多々あります。そのようなスペシャルなお店は別の機会に譲るとし、今回は予約不要、誰でも行けるお店を旅のハイライトに据える旅程を組んでみました。

「ラーメン ル・デッサン」のラーメン。このように美しい麵の並び方を業界用語で「麺線」というらしいです。

予約不要で、誰でも行ける……それはずばり、ラーメンです。でも、ただのラーメンではありません。ミシュラン2つ星のフレンチレストラン「フロリレージュ」川手寛康シェフが「すごいラーメン店があるんですよ」と教えてくれたラーメンです。ラーメン界では全国に有名店がありますが、いわゆるラーメンクラスタに評価されるのではなく、フランス料理のシェフが推すラーメンというところに心惹かれました。

ただこのラーメン店、ひとつだけ難点がありまして、それは朝7時に開店してお昼過ぎには売り切れ御免になってしまうという短い営業時間。確実に食べるためには朝10時には到着していたいし、そのためには東京を何時に出れば……と思い悩むうち、前日から静岡で宿泊し、ゆっくり出かけようと決めました。そして、どうせならその前後にも美味しいモノを探してみよう、と。ラーメンをハイライトに据えた1泊2日のグルメ旅の模様です。

念のため、同じ静岡エリアにある有名なデスティネーション・レストランを本記事の末尾に記しておきます。どれも予約はなかなかに困難ですが、ご参考までにどうぞ。

まずは蕎麦で調子を整える

手打ちそば処 ふじ花(てうちそばどころ ふじばな)

樹々が茂り、心地良い駐車場から入口までのアプローチ。

普段、ラーメンをあまり食さない私。前日の昼は軽めに蕎麦で調子を整えたい、と探したのがこの「ふじ花」。野中の一軒家といった趣の店は無垢材が多く使われた山小屋風。本来は予約制のようでしたが、この日は予約が少なかったのか、なんとか入れてくれました。ラッキー。

駒形(東京)の名店「蕎上人(そばしょうにん)」で修業したという店主の打つ蕎麦は「ざる」と「田舎」の2種類。「ざる」は「蕎上人」と同じく国産そば粉を使用してのど越しと香り良し。「田舎」は数種の玄そばをブレンドして自家製粉し、蕎麦の甘みと食感を活かした味わい。その両方を食べ比べできる「昼のそば膳(そばがき付き)」(2,100円)で大満足。

季節の野菜中心の天ぷら、「田舎」と「ざる」の2種そばの「昼のそば膳」。「そばみそ」と「そばアイス」つき(そばがきなしは1,900円)。
季節の野菜中心の天ぷら、「田舎」と「ざる」の2種そばの「昼のそば膳」。「そばみそ」と「そばアイス」つき(そばがきなしは1,900円)。

手打ちそば処 ふじ花(てうちそばどころ ふじばな)

住所/静岡県浜松市西区白洲町266
電話/053-487-2240
営業時間/11:30~14:00 (そばがなくなり次第終了)
休/水曜、木曜、金曜
*駐車場あり

お茶を満喫してリフレッシュする

界 遠州(かい えんしゅう)

お茶がテーマになっている「界 遠州」らしく、施設内には茶畑が(写真はツツジ畑です)。

「星のや」などラグジュアリーリゾートで知られる「星野リゾート」の温泉旅館ブランドが、この「界」シリーズ。現在、北は北海道から、南は鹿児島まで、全国22か所で展開していますが、そのひとつひとつにユニークなテーマが設けられているのが魅力です。

たとえばこの「界 遠州」は、日本有数の茶どころらしく、日本茶がテーマ。施設内の茶畑を散歩できるほか、館内の随所には日本茶が置かれ、種々のお茶が飲み放題。温泉に入浴前・入浴中・入浴後で異なるお茶を飲むことで温浴効果を高めるなど、その楽しみ方も丁寧に解説されています。3種の利き茶ができるイベント(無料)も日々開催。運転疲れをお茶でリフレッシュしてみては。

浜名湖畔に建つ「界 遠州」での夕食は名産の鰻とふぐにフォーカスをあてた「ふぐうな懐石」。テッサと鰻を同時に楽しめるとは……贅沢。
露天風呂から美しい青紅葉が望める「湖都の湯」。泉質も申し分なし。
露天風呂つき洋室。

界 遠州(かい えんしゅう)

住所/静岡県浜松市西区舘山寺町399-1
電話/0570-073-011
*駐車場あり
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaienshu/

いよいよラーメンを超えたラーメンへ

ル・デッサン

店名の「ル・デッサン」とは店主の増田さんが牛込柳町(東京)で営んでいたフランス料理店の名前から。朝10時前に到着しましたが、すでに8名ほど行列していました。

さあ、いよいよ今回の旅の目的地でもあったラーメン店にやってきました。こちらの売りはフランス料理のシェフとして経験を積んだ増田稔明さんが作る“ラーメンを超えたラーメン”。もちろん無化調のスープには「かもがら・とりがらだし」「岩手ほろほろ鶏だし」「函館ほたてだし」「ローストしたとりがらだし」「とりがらとかつお、にぼしの中華そば」の5種出汁がラインナップし、それぞれに「塩」「味噌」「醤油」また「トマト」や「カレー」ラーメンがあるため、自動券売機の前で、どのボタンを押せばいいのか……指が悩んでしまいます。

魅力的なメニューがありすぎて悩む「ル・デッサン」の券売機。事前予習をおすすめします。
「岩手ほろほろ鶏だしの塩ラーメン」(1200円)をチョイス。同行者は「かもがら・とりがらだしの醤油ラーメン」にしましたが、それも美味でした。

この日は川手シェフのおすすめもあり「岩手ほろほろ鶏だしの塩ラーメン」(1200円)に味変用の「国産黒トリュフバター」(500円)をトッピング。あっさりとして香りよく、スープまで飲み干してしまう美味しさでした。私は塩を選んだせいか、ラーメンというよりスープパスタのような印象の一杯。食べ終わったころには行列は長く伸びていたので、確実に食べるなら午前11時までには到着することをおすすめします。

ル・デッサン

住所/静岡県島田市御仮屋町8802-1
電話/0547-54-5536
営業時間/7:00 〜 13:30(麺がなくなり次第終了)
休/月曜、金曜、第3日曜
*駐車場あり
https://le-dessin.jimdofree.com/

今話題のウィスキー蒸留所へ

ガイアフロー 静岡蒸溜所

「オクシズ」こと静岡市の奥の山中に佇む「静岡蒸溜所」静岡駅からクルマで30分程度。

さて、本懐を果たしたことだし東京へ戻ろうか……と思いましたが、せっかく静岡まで来たのだからといま話題のウイスキー蒸留所へ。現在、国産ウイスキーの需要が高まり、品薄が続いていますが、この「静岡蒸溜所」も例外ではありません。2020年に初めてシングルモルトウイスキーをリリース後、あっという間に商品は抽選で販売するほどの人気銘柄となりました。静岡の風土に根ざした、自然と調和するウイスキー造りを目指すとあって、静岡市産の杉材の発酵槽や、地元の薪の火で蒸溜するポットスチルなど見どころ満載の見学ツアーを随時開催しています。

静岡産日本杉製の発酵槽や、世界で唯一と言われる薪の火で蒸溜するポットスチルなどを見学できるツアーは60分~でひとり1,100円。

有料試飲やボトルを購入できるテイスティングルーム。ボトルの後ろにある軸「我忘吾(われわれをわする)」は孤高の画家、熊谷守一によるもの。ここで我を忘れるほど飲みたいものですが……。

蒸溜所を訪れたなら試飲も……と思いますが、ドライバーには特別に小瓶での持ち帰りサービスがあり。自宅へ持ち帰り、ゆっくりと静岡の味をご堪能ください。

ガイアフロー 静岡蒸溜所

住所/静岡県静岡市葵区落合555
電話/054-292-2555
見学ツアー/平日13:45〜15:45、11:00〜13:00(繁忙日のみ開催)、土日祝9:30〜11:30、12:20〜14:20、15:00〜17:00、13:40〜15:40(繁忙日のみ開催)
*駐車場あり
https://shizuoka-distillery.jp/

静岡県内注目のデスティネーション・レストラン

てんぷら成生(てんぷらなるせ)
2021年春に同じ静岡県内で移転し、1800㎡という広大な敷地にわずかカウンター8席という贅沢な店舗となった新生「成生(なるせ)」。店主の志村剛生さんは焼津の老舗鮮魚店「サスエ前田魚店」の前田尚毅さんと手を携え、鮮魚の〆・熟成を研究したり、野菜は契約農家まで直接出向くなど、一流の食材調達においては余人の追随を許しません。しかし、とにかく予約が取れません……。

住所/静岡県静岡市葵区丸山町12-2
電話/054-295-7791(完全予約制)

「Simples」(シンプルズ)
「成生」と同じく、「サスエ前田魚店」の鮮魚を仕入れていることで知られているイノベーティブ・フュージョンレストラン。なかでも有名なのは水揚げされたばかりで餅のような食感をもつ “もち旨鰹”。もっちりした歯応えに海の旨味が凝縮した“もち旨鰹”は一度食べたら忘れられなくなる味。「成生」に比べたら格段に予約が取れやすく、ディナーコースで8,500円~とコスパがいいのも魅力。ただ、鮮魚の仕入れはその日の漁次第であることもご承知おきいただきたい。

住所/静岡県静岡市葵区馬場町39-3
電話/054-221-7733

「炭焼き鰻 瞬」(すみやきうなぎ しゅん)
山中の一軒家、築50年の古民家を改装した「瞬」もまた、全国の食通が憧れる店のひとつ。店主の岡田健一氏が焼く蒲焼は、関東風でも関西風でもない、独自の焼き方。鰻は蒸さずに、およそ300度の炭火で何度も裏返しながら焼くことで皮目はパリっと、身はふわっと焼き上がります。コースは鰻をメインに、三田牛など全国の極上食材が登場するユニークなスタイル。ランチは5,000円~、ディナー25,000円~。

住所/静岡県静岡市葵区有永260-1
電話/054-294-7178

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