©Katsumasa Tanaka

創業300年の老舗旅館を再生

週末の1泊2日で、アウトドアもアートも満喫して、さらにはおしゃれで洗練されたデザインホテルにも泊まりたい——。

写真上部でパイプのように見えるレアンドロ・エルリッヒの作品とふんだんに設えられたグリーンが絶妙にマッチ。 ©Katsumasa Tanaka
まるで緑の丘がそのままホテルになったような外観が特徴。 ©Shinya Kigure

そんな欲張りすぎる旅のリクエストを見事に叶えてくれる場所がある。群馬県前橋市にある「白井屋ホテル」だ。江戸時代の創業から300年という歴史を誇り、森鴎外などの文化人にも愛された旅館「白井屋」を起源にもつ。時代の趨勢とともに2008年、かつての栄華に幕を閉じたが、地域創生を志す新たなオーナーのもと2020年12月、この老舗旅館の再生プロジェクトの設計を手がけた建築家、藤本壮介の手によって見事に現代へと返り咲いたのである。

ローレンス・ウィナーによるホテルのファサード。 ©Shinya Kigure
五木田智央の「The Demon of Jealousy」©Shinya Kigure

「アートで五感を満たすホテル」と自ら謳うとおり、リノベならではのいい意味での無骨さが残るデザインホテルとしての建築もさることながら、客室を含む館内全体のいたるところに現代アート作品が散りばめられているのが特徴で、旅&アート好きの間ではすでに“宿泊マストの巡礼地“となっていてもおかしくないほど。もはやアートがあるホテルに宿泊するのではなく、客室を備えたアートギャラリーに宿泊するかのような気分にさせてくれる。

「the Restaurant」 ©Shinya Kigure
週末にだけオープンするという「the Bar Matcha-Tei」。 ©Shinya Kigure

手軽に高度感抜群の山登りを楽しめる谷川岳

その白井屋ホテルについてはのちほど詳しく触れるとして、まずはお題の一つであるアウトドア。冒頭のとおり1泊2日の旅であれば、天候にも左右されるが心身ともにフレッシュな1日目に挑むのがベスト! そして群馬方面であればぜひともトライしたいのが新潟との県境にある谷川岳だ。クルマなら東京から関越道を通って約2時間半の距離。その気になればサービスエリアでの休憩を挟まず一気に到達できてしまうアクセスの良さも魅力だ。

ここまでの高度感を手軽に得られるのが谷川岳の魅力の一つ。

実際、登山ルートとして谷川岳は高い人気を誇るがその理由は、標高2000メートル弱と登山としてはマイルドな高さでありながら、森林限界が低いため低木がひれ伏す登山道からの見通しは常に良好。眼前にそびえる偉大な山様を目に焼き付けながら、頂きに向かって一歩一歩刻みながら登攀できる点にある。

確かに「谷川岳は日本国内でももっとも危険な山の一つ」といわれるが、それは一ノ倉沢など“超”がつくほどの上級者コースも含んでの話で、豊富な駐車スペースを備えるふもとの駅からロープウェイとリフトを乗り継いで行ける天神峠をスタートするルートであれば、ドライブ途中にたまたま立ち寄ったかのような軽装で登る人もいるほど。登山ギアや身の安全の心配をする必要はそこまでないだろう。この天神峠から谷川連峰の頂きの一つとしてその名を知られる「トマの耳」まで3時間半〜4時間。確かに急な岩場をひたすら登る行程は、“楽ちん”とまではいかないものの、比較的手軽ながら山登りの醍醐味である高度感とその領域ならではの360度を見渡す絶景はぜひとも満喫して欲しい。

アートギャラリーにステイするかのような錯覚

そんな谷川岳登山の帰り。東京にとんぼ返りで戻ってしまうのはもったいないので、疲れたカラダを休める意味でも、またアウトドアとは対極の芸術鑑賞を楽しむ意味でも、ステイにおすすめなのが前述の「白井屋ホテル」だ。

杉本博司の「ガラリヤ湖、ゴラン」 ©Katsumasa Tanaka
ライアン・ガンダーの「By physical or cognitive means (Broken Window Theory 02 August) 」 ©Shinya Kigure

元来からこの土地に建つ旧ホテル白井屋の躯体をリノベーションした通称“ヘリテージタワー”と、新たに建てられた“グリーンタワー”の2棟からなり、チェックインのため最初に訪れるフロント後方にかけられた杉本博司の写真作品を皮切りに、館内を通して現代アート作品と邂逅することができる。ライアン・ガンダー、レアンドロ・エルリッヒ、五木田智央、宮島達男など枚挙にいとまもないが、客室そのものも、日本とのゆかりが深いイギリス人デザイナー、ジャスパー・モリソンにはじまり、ミケーレ・デ・レッキや前述の藤本壮介、レアンドロ・エルリッヒが客室全体をまるっとデザインした部屋も用意されている。インテリアデザイン・建築好きであれば、自分の憧れのクリエイターが手がけた空間を選ぶことができるのも嬉しい。

レアンドロ・エルリッヒが手がけた客室。 ©Shinya Kigure
ジャスパー・モリソンが手がけた客室。 ©Shinya Kigure

白井屋ホテルのデザイン、アートコレクションに見られるこだわりは当然、フードにも共通している。地元の素材・食文化をテーマに、ミシュランの星を獲得した「フロリレージュ」(東京・青山)の川手寛康が監修し、地元出身の片山ひろがシェフを担うメインダイニングをはじめ、味覚・食感を通じた体験も楽しめるのがこのホテルのもう一つの特徴といえるだろう。加えてオリジナルのフルーツタルト専門店、ベーカリーのほか、「ブルーボトルコーヒー」もある。

©Shinya Kigure
©Shinya Kigure
©Ben Richards

そして最後に忘れてはいけないのが本格フィンランド・サウナをはじめ3つのサウナの存在だろう。このようにアートのみならずさまざまな角度から五感を刺激する、イマーシブな体験コンテンツをぎっしり詰め込んだ小宇宙——。白井屋ホテルとはまさにそんな趣きの新感覚ホテルなのである。

©Shinya Kigure
©Shinya Kigure

P.S.

さらにアート文脈でいえば、クルマで40分ほどの距離に以前紹介した「原美術館ARC」もある。オラファー・エリアソン、アンディ・ウォーホル、草間彌生、奈良美智、森村泰昌といった世界を代表するアーティストの作品に触れ、1泊2日の山登り&アート旅を最大限堪能したうえで帰路に着くのが一番のおすすめといえるだろう。

白井屋ホテル

371-0023

群馬県前橋市本町2-2-15

027-231-4618

www.shiroiya.com

谷川岳ロープウェイ

379-1728

群馬県みなかみ町湯檜曽湯吹山国有林

0278-72-3575

平日:8:00~17:00

土日祝:7:00~17:00

http://www.tanigawadake-rw.com/

松橋市
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