ジェイムズ・ボンドのように色気漂うDBシリーズ最新作
アストンマーティン、そのなかでもとりわけDBシリーズと聞くと、ジェイムズ・ボンドが登場する映画「007シリーズ」を思い起こす向きも少なくないだろう。事実、アストンマーティンというブランドに対する意識調査を行うと、「007」や「ジェイムズ・ボンド」を連想するという答えが数多く返ってくるという。
なるほど、ジェイムズ・ボンドとアストンマーティンDBシリーズは、多くの部分でイメージが重なる。
いうまでもなく、どちらもイギリス生まれで、ゴージャスなのに品がいい雰囲気がつきまとう。そして優れた運動能力を備えていながら、それをひけらかすことなく、普段は慎ましやかで控えめな振る舞いに終始する。そして最後に挙げるべきは、男女を問わず惹きつける、なんともいえない色気が漂っていることだろう。
そんなDBシリーズの最新作がDB12である。
DB12は、エクステリアデザインや主要コンポーネンツがDB11と似通っているため、「DB11のマイナーチェンジ版?」と思われるかもしれないが、試乗会に出席したアストンマーティンのエンジニアによれば、およそ80%のパーツをDB12のために新設計したという。
ちなみにDBシリーズの歴代モデルを振り返ってみても、3〜4世代にかけて同じイメージのエクステリアデザインを使い続ける例は珍しくない。
ただし、外観は大きく変わっていないように見えて、そのパフォーマンスは目を見張るような進化を遂げている。
フロントに搭載するメルセデスAMG製エンジンにはアストンマーティン独自のチューニングが施されているが、その最高出力はDB11の510psから680psへ、最大トルクは675Nmから800Nmへと強化。まるでエンジン排気量がワンランクかツーランク上がったくらいの進化幅だが、おかげで0-100㎞/h加速は4.0秒から3.6秒へ、最高速度は309km/hから325km/hへと、こちらも別次元といっていいほどの改善が図られている。
外観に大きな変化がないことは先ほども申し上げたとおりだが、インテリアデザインの印象はまるで異なっている。
幅広でモダンなデザインのセンターコンソールがキャビンの中央を貫き、そこに大型のディスプレイや、そしていかにも作りがよさそうなスイッチ類が整然と並んでいる。これに比べると、DB11のインテリアはひと昔前のものに思えてしまうほど、そのデザイン性は高く、またクォリティ感も優れている。
また、従来はプッシュスイッチ式だったギアボックスのモードセレクトがコンパクトなレバー式に改められたり、多角形型のステアリングホイールは膝に当たりそうになる部分のみ水平にカットした形状とされるなど、他ブランドから乗り換えても戸惑わなくて済むような操作性の見直しが図られている点も注目に値する。
実際にステアリングを握った印象は、そうしたインテリアデザインの変化以上に鮮烈なものだった。
まず、足回りがDB11よりもはるかにしなやかに動いて、路面を柔軟に捉えていること。DB11ではタイヤが路面から瞬間的に離れてしまうような状況でも、タイヤが有効なグリップを生み出してくれるので、とても安心してステアリングを握っていられるようになった。
しかも、足回りがしなやかに動いてくれるので乗り心地は従来以上に快適。その意味でいえば、DBシリーズが本来、備えているグランドツアラーとしての資質はなんら損なわれていないように思えた。
いっぽうで、最高出力と最大トルクを大幅に高めたエンジンは、アクセルペダルを踏み込んだときに、素早く、流れるようにパワーを生み出してくれて、とても扱い易かった。以前は、アクセルを踏むと一瞬、迷ってからパワーが立ち上がる傾向があったので、この点は大きな進化といっていいだろう。
そして、安定したグリップを生み出してくれる足回りと、思いどおりにパワーを発揮してくれるエンジンのおかげで、コーナーが連続するワインディングロードでも自分のイメージどおりに走らせることが容易になり、コーナリングの醍醐味をよりストレートに満喫できるようになったことも、大きな発見だった。
ここまでDB12で高く評価してきたことは、その多くがスポーツカーとしての資質に関わるものだが、前述のとおり乗り心地は良好で、キャビン内のノイズレベルも決して高くないので、高速クルージングもきわめて安楽。つまり、グランドツアラーとしての実力もなにひとつ損なわれていないことになる。
スタイリングを派手に変えることなく、中身だけをていねいに磨きあげる手法もまた、実直なイギリス人らしい手法といえるだろう。