陰影に富んだボディにふさわしい赤

「僕はずっと赤いクルマに乗り続けてきたんですよ」

そう言いながらエモーショナルレッドⅢというボディカラーのトヨタ・クラウン(スポーツ)に近づいたのは、ミュージシャンや音楽プロデューサーとして活躍するKan Sanoさんだ。クルマと運転がお好きで、実家のある石川県金沢市まで自分でハンドルを握るというKanさんが、興味深そうにクラウン(スポーツ)のディティールをチェックする。

高校卒業後、アメリカのバークリー音楽大学に留学したKan Sanoさんは帰国後、キーボード奏者や音楽プロデューサーとして幅広く活躍する。また、イギリスのデッカ・レコードと日本人として初めて契約するなど、その才能は海外からも高く評価されている。

「ファッションと同じで、クルマ選びもルックスを重視しています。赤が好きといっても、自動車メーカーによっていろいろな種類の赤がありますが、この色は好きです。たとえば、この部分です」

こう言いながらKanさんが指差したのは、後席ドアから後輪を覆うフェンダーに向けての抑揚に富んだ曲面だ。

前輪より前の部分、後輪より後ろの部分をオーバーハングと呼ぶが、クラウンSPORTは前後のオーバーハングが短いため、ギュッと引き締まった印象を与える。このアングルだと、Kan Sanoさんが感心したリアドアの造形の美しさがよくわかる。

「この部分が独特で、デザインに対するこだわりが感じられます。シンプルなのに繊細さがあって、日本的な感じがしました。このカーブによってボディに陰影が生まれますが、この赤は影の部分の奥行きを感じさせます。だから、すごくいい赤だと思います」

ハの字型のフロントグリルは、重心の低いどっしりとした安定感を演出する。クラウンCROSSOVERから継承するハンマーヘッドフェイスは、レンズ幅を薄くしたデイランプを黒い部分に集約することで、より精悍な表情となった。

冒頭でKanさんをミュージシャンや音楽プロデューサーと紹介したけれど、音楽ファンならご存知のように、その活動範囲は非常に幅広い。プロデューサーやキーボード奏者としてライブやレコーディングに参加したアーティストは、Chara、CHEMISTRY、平井堅、UAなどと多彩で、Kan Sanoさんはジャンルにとらわれない多様な音楽性を備えていることでも知られている。

張り出したリアフェンダーの豊かなボリューム感が、ダイナミックな走りを予感させる。リアバンパーのピアノブラックは塗装ではなく、素材に顔料を混ぜるという凝った手法を採用している。

日本だけの活動にとどまらないのもKanさんの特徴で、イギリスの名門レーベル、デッカ・レコードから日本人として初めて音源をリリースしたほか、ジャイルス・ピーターソンやトム・ミッシュといった海外の著名なミュージシャンからも、その才能を高く評価されている。

ジャズ、ポップス、ソウルといったこれまでのジャンルにカテゴライズできない多様な音楽スタイル、そして国境を飛び越えてグローバルに活動すること──。Kan Sanoさんの音楽家としてのあり方は、新しいトヨタ・クラウン(スポーツ)が目指す新しいプレミアムカー像に近いものがある。

そこで今回、Kan Sanoさんにクラウン(スポーツ)にふれていただき、お話をうかがうことになったのだ。

新たにデザインされた王冠マークは、クラウンSPORTのキャラクターに合わせてソリッドな雰囲気のスモークメッキになっている。

新しい時代にふさわしい、多様性に富んだクラウン

まず、グローバルで活動することについて。

クラウンはこれまで、基本的には日本国内専用モデルだった。けれども新型クラウンは、40の国や地域で販売されることになる。

Kan Sanoさんは高校を卒業してアメリカのバークリー音楽大学に留学したけれど、海外で学びたいと思ったきっかけはどういうものだったのだろう。

「10歳代前半の頃から、高校を出たら音楽大学で学びたいと思っていました。けれども当時の日本はクラシックを学ぶ音大が多かったんですが、僕はジャズとかポップスを学びたかった。たまたま高校の先輩でバークリーに留学した人がいて、留学後もメールのやりとりをしていたら、すごく楽しそうだったんですね。そうこうするうちに、本場で学びたいという気持ちがどんどん強くなりました」

バークリー音楽大学で学んだことのなかで、最も大事だと思ったことを尋ねると、Kanさんはしばらく考えてから、穏やかな口調でこう答えてくれた。

「音楽理論や技術などもいろいろありますが、移民の国なのでバークリーにもいろいろな人種が集まるんですね。ヨーロッパからもアジアからもたくさん学びに来ていて、そこで音楽を作るんですが、音楽の前では人種の壁とか年齢とか関係なくなるんです。いい音楽はいいと評価してくれる。音楽には人種とか国籍とか年齢を取っ払ってくれる力がある、ということを学びました」

音楽と同じように、クルマにも国籍とか人種の壁を飛び越えて愛されるプロダクトだ。グローバルで展開するクラウン(スポーツ)が世界中のクルマ好きからどんな評価を受けるのか、いまから楽しみだ。 続いてうかがいたかったのは、ご自身の音楽性がジャンルレスだと評価されていることについてだ。ジャズの要素やソウルフルなテイストなどが組み合わさって、カテゴライズできない、Kan Sanoの音楽としか言いようがない音を奏でている。

撮影車両のインテリアカラーはSAND BROWN。Kan Sanoさんは、シックな色合いとレザーの質感に納得の表情を見せた。

「たとえば僕はマイルス・デイビスというアーティストが好きなんですけど、マイルスはジャズ・ミュージシャンとして知られていますが、ロックやファンクなど、違う音楽の影響をすごく受けていて、それを自分の音楽にも反映しています。僕自身も色んなジャンルの音楽を聞いてきて、吸収してきたさまざまなものをひとつの作品として表現できたらいいなと思っています。音楽もこれだけ多様化するとジャンル分けするのも無理だと思うし、そこにこだわることが重要だとは思えません。それよりは、自分が持っているものをすべてさらけ出して、いろんな要素が自然に音楽の中に入っている感じだといいと思っています」

Kanさんのおっしゃることは、クラウン(スポーツ)というクルマのあり方にも通じるように感じた。 以前は、走りを楽しむクルマといえば、車高の低いモデルがあたりまえだった。けれどもライフスタイルや価値観が多様化したいま、走るだけでなくデザインを愛でたり、キャンプに出かけたり、さまざまな楽しみ方ができるクルマが求められている。こうした時代の変化に対応して、SUV的なスタイルやスポーツセダンのファン・トゥ・ドライブなど、多彩な要素が自然に組み込まれているのが、クラウン(スポーツ)というクルマなのだ。

スイッチ類やシフトセレクターなどを配置する場所を機能アイランド、内張りやトリムなどの部分を背景と呼び、このふたつを明確に分離する「アイランドアーキテクチャー」というコンセプトでインテリアは構成されている。
もうひとつの機能アイランドと呼ばれるエリアは室内にふたつあり、そのひとつがこの空調やシートヒーター、オーディオのインターフェイスを司る部分。
機能アイランドは、シフトセレクターやドライブモードセレクターなど、主にパワートレイン関連のインターフェイスを司る部分。運転席側と助手席側をアシンメトリーなデザインにすることで、乗り込む瞬間に驚きを与える。

デジタルの利便性と、アナログの味わいを兼備する

Kan Sanoさんに最後にうかがいたかったのは、テクノロジーの進化と音楽の関係だ。クルマの場合だったら、クラウン(スポーツ)にも採用されている運転支援装置のおかげで、ドライブが快適で安心なものになっている。音楽を作る現場で、テクノロジーの進化の恩恵を受けるのはどんな場面なのだろう。

「一番大きいのは、パソコンで音楽が作れるようになったことと、SNSやサブスクが広まったことですね。音楽を作ってリリースするハードルが低くなったので、だれにでもグローバルで聞かれるチャンスがある。すごくオープンになっていると感じます」 こう言ってからKanさんは、「去年、クルマを買い換えて運転支援装置を頻繁に使うようになりました」と続けた。

「長距離運転をするときに、前を走るクルマに追従する機能があってかなり助かっています。疲労感が全然違うので。いっぽうで僕はアナログの手間をかける感じも好きで、家ではアナログ盤のレコードをよく聞いています。だからクルマも音楽も、便利な最新機能とアナログ的な楽しさが両立しているといいと思います」

キャラクターラインに頼るのではなく、面の張りや優雅に弧を描くルーフラインなどでシンプルに美しさを表現しているのがこのクルマのデザイン的な特徴。

クラウン(スポーツ)は最新の運転支援装置を備えるだけでなく、ハンドルの手応えやスムーズなコーナリング、伸びやかな加速感など、クルマを操作する楽しさも追求している。デジタルとアナログの両立を体感できるクルマなのだ。

Kanさんは、運転席のドアを開けて、ドライバーズシートに腰掛けた。そして、「少しシートの位置が高いので、腰を屈めて乗り込む必要がないんですね」という感想を述べた。そしてハンドルや内装の手触りを確かめながら、この新しいクラウンのデザインについてまとめた。

「昔のクラウンとイメージがまるで違っていて、格好よさもありつつかわいらしさもあるじゃないですか。かわいいという言葉がふさわしいかどうかは措いておいて、丸みがあるフォルムだからそう感じるんでしょうね。クラウンというと大人の男性が乗るイメージでしたが、これならだれが乗っても似合いそうです。あと最初にお話したように、ボディの曲面によって生じる陰影の大人っぽさもある。もうひとつ、大きなタイヤに存在感があって、ワイルドさもアウトドア感も感じます。だからかわいらしさ、大人っぽさ、ワイルドさのハイブリッドという感じです」

Kan Sanoさんがおっしゃるように、音楽シーンではジャズとかソウルといったジャンル分けがあまり意味を持たなくなっている。この車を見ていると、クルマも同じような存在になる予感がする。セダンとかSUVというようなカテゴリーよりも、楽しいクルマ、美しいクルマ、いいクルマということのほうが大切なのだ。

Kan Sano 

1983年兵庫県生まれ、後に石川県金沢市に引っ越す。11歳よりピアノと作曲を独学で学び、高校卒業後にバークリー音楽大学ピアノ専攻ジャズ作曲家に留学する。在学中より自身のバンドでモントレー・ジャズ・フェスティバルに出演するなど活躍、帰国後は自身の活動のほか、キーボード奏者やプロデューサーとして多くのミュージシャンと交流を持つ。CM音楽も数多く手がけ、音楽シーンで独自の存在感を放つ。

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