MaaSは、環境や交通事故などの問題を抱えるクルマの保有にかかる月々のコストは莫大なので、それであれば、鉄道やバスなどの公共交通とスマートフォンの普及により劇的に使いやすくなったタクシー、カーシェア、自転車シェアなどのモビリティサービスを組み合わせたサブスクリプションなど、新たな料金プランや決済方法を用いながら、持続可能な社会を実現していこうとする考え方だ。MaaSサービスの代表的なインターフェースとなっているのがスマホアプリの「Whim(ウィム)」だ。
北欧のフィンランドのMaaSグローバル社のSampo Hietanen氏が生みの親だと言われている。驚くことにスウェーデン、ドイツ、フランス、アメリカ、中国、日本などといった自動車産業が強い国でも積極的に推進していこうとする動きがある。
例えばスウェーデンでは、現在の実質的なMaaSの推進の基準となっている「MaaSレベル」を提唱した国で、隣国ということもありフィンランドと競い合ってMaaSを推進している。MaaSレベルはチェルマース工科大学のJana Sochor氏によると情報の統合の程度によって5つのレベルに分けられる。レベル0(統合なし)、レベル1(情報の統合)、レベル2(予約、決済の統合)、レベル3(サービス提供の統合)、レベル4(政策の統合)だ。
日本では2017年にあいおいニッセイ同和損害保険とトヨタファイナンシャルサービスがMaaSグローバル社へ出資したことにより火が付いた。成長戦略にもキーワードとして記載されたため、主に経済産業省や国土交通省が牽引しながら、国策として動いている。自動車のみならず、鉄道、バス、自転車、パーソナルモビリティとそれらと密接な部品、情報通信、保険、住宅、観光などといった産業も新たな動きに乗り遅れまいと必死だ。
ドイツではそもそもMaaSが生まれる前からダイムラーやBMWを中心に、都市部でのカーシェア、タクシー会社の買収など、自社の車両や人材を投入して次世代モビリティサービスに対して積極的に取組んできた。日本でも大きな問題となった”若者のクルマ離れ”問題がきっかけだ。環境意識や都市交通に対する関心の高い欧州という地域柄やスマートフォンの急速な普及という時代背景もあり、2009年からドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州のウルムで、スマートフォンを用いて乗りたい時に乗れて、どこでも乗り捨てることができる、フリーフローティング型のカーシェアアリング「car2go(カーツーゴー)」を始めた。BMWも同様のサービスをDriveNowのブランド名で競い合った。現在ではスケールメリットを考えてダイムラーとBMWは次世代モビリティサービスに関するジョイントベンチャーをつくりcar2goとDriveNowの2つのブランドを統合し、カーシェア、EV充電ステーションや駐車場、タクシー、それらを一つにまとめたmoovel、REACHNOWなどMaaSのサービスも展開している(car2goやDriveNowの知名度が高いため、以前のブランド名を付けて走っている車両もまだ多い)。
フランスではパリ市が主体的に自転車シェアの「Velib’(ヴェリブ)」、EVを用いたカーシェアリング「Autolib’(オートリブ)」を他国に先駆けてサービスを開始し、無人貸し出しのシステムを確立させ、シェアリングサービスの新時代を作った。
このようにMaaSに先駆けて日本を含めた都市部では、ICTやスマートフォンの普及とともに、クルマ、自転車などを中心に多様な移動手段を用いたさまざまな形態のサービスが登場していた。そこに加えて、経路検索、決済方法などが多様化するなかで、鉄道やバスを含めたあらゆるサービスを一つに統合して使いやすくしていくMaaSの考え方の登場は必然だと言える。
そして自動車メーカーが次世代モビリティサービスに着目する理由は、現在使われているモビリティサービスで使われている車両が徐々に電動化、自動運転化していくのではないか、その土台がMaaSになるのではないかと考えるからだ。自分たちはこれまでは自動車を製造・販売するメーカーで、クルマを使ったサービスはまだまだ弱いという認識も非常に強い。
デジタル化が進み、環境問題を考える姿勢、日本では高齢化に伴い免許返納後の暮らしや移動の質の維持など、社会や個々人において移動そのものの価値の見直しや、移動手段やサービスの選び方が問われており、その中でのクルマの位置づけもダイナミックに変化している。そんな時代背景を表したワードがMaaSとも言えよう。