モノの値段は需要と供給のバランスで決まる。誰もが知っていることだ。たとえ定価のある新品であっても、需要が極端に上回ってくるとプレミアム価格で流通する。転売ヤーの旨味もそこにある。
最近ではトヨタ ランドクルーザーや日産GT-Rニスモが登場するなり生産枠いっぱいとなり、デリバリーが始まってすぐに超プレミア価格で流通したことは記憶に新しい。
中古車の世界でもそれは同じだ。相場は流通量と人気で決まる。そして流通量はたいてい新車の販売台数に比例する。ただし新車と中古車は同じモデルであっても同じ評価ではない。なぜなら販売されている程度とタイミングが違うからだ。それゆえ取り巻く環境や時代背景も相場を決める要因となってくる。だから面白い。
具体的に例を挙げてみよう。2000年代後半にフェラーリ599という2シーターFRのV12モデルがあった。当時の人気カラーはもちろん赤で、白や黒、グレーがそれに続いた。そして流通する大半の個体が2ペダルのF1ミッションを組み合わせていた。名前の通りF1マシンのように瞬時の変速とダウンシフト時に素晴らしい音を響かせてくれるため皆躊躇うことなくこの仕様を買った。
ところが本当にごく稀に3ペダルの6MTをオーダーした猛者もいた。実際には英国などで限定モデルとして登場したのだが、スペシャルオーダーの通る世界だから日本でも注文できる人がいた。新車時価格はほとんど変わらないか、少し高い程度だ。
以前、海外のマニアックカーオークションで599のマニュアルミッション仕様が出品された。色はグリーン。ミッションも希少なら、色もレア。その上、走行距離は数千km。その個体はなんと赤い599の当時のアベレージ評価の8倍近い価格で落札された。ちなみに現在、日本の市場に流通する599の最も安い価格帯は1000万円ちょい。もし599のマニュアルが市場に出回れば軽く1億円は超えてくるはず。新車時の人気とは全く関係なく、時を経て注目(12気筒エンジンと3ペダルの組み合わせなど)され、そこにそもそもの希少性も加わって中古車価格がさらに跳ね上がったというわけだ。
これはちょっと極端な例かもしれないが、マニュアルミッションやレアカラーが重宝されることは他のブランドでも起こりうる。フェラーリ以外でもポルシェやランボルギーニなどで顕著だ。新車時の流通量が少ないうえ、マニュアルミッションはもはや絶滅危惧種である。今後も上がることはあっても下がることはない。新車時の価格を既に上回っているモデルも少なくない。
急にブームとなって価格が跳ね上がるというモデルもある。際たる例が日産スカイラインGT-Rだ。特にR34型という第二世代最後のモデルは、元々生産量が最も少ないこともあって、将来の絶版車人気の候補だとは目されてきた。ところが、映画「ワイルドスピード」で主人公の愛機という設定が海外での人気に火をつけた。アメリカ市場は製造後25年経てば右ハンドルであっても(また他のレギュレーションが適合しなくても)輸入できるという特別ルールがある。欲しい個体が買えるとなった瞬間にR34スカイラインGT-Rの中古車相場は爆上がりした。実際にはそんなルールなど関係のない海外コレクターの買い占めも始まっていて、結果的に25年ルールが一層の相場上げを促進したのだった。今、R34は2、3千万円、限定車で走行距離が少なくなれば5000万円を超えることも。ほんの4、5年前には数百万円で買えていたというのに!
一般的に言ってどんなモデルが将来の価値上昇を見込めるのだろうか? まずはスポーツモデルであることだ。ドア数は2枚が望ましい。次に自然吸気エンジンでマルチシリンダーあること。そして3ペダルマニュアルミッションであれば間違いない。さらにレアカラー(ただし純正に限る)、無改造、低走行距離、珍しい純正装備なども価値を上げる要因だ。
要するに最新型では味わえなくなりつつある仕様や装備(自然吸気エンジンや3ペダル)を持ったモデルには将来性が大いにあるということ。特に今後は電動化が進み、ピュアエンジン車への注目が一層高まると予想される。そして過去に登場したモデルの個体数はといえば、減ることがあっても決して増えることはない。