FIA World Endurance Championship開幕
今年のカレンダーはカタールで始まってイタリア、ベルギー、フランス(ルマン24時間)とヨーロッパを転戦。そこからブラジル、アメリカと南北アメリカ大陸を経由したのち、9月15日には日本で富士6時間レースを実施し、11月のバーレーンで閉幕する全8戦で構成される。
全8戦のうち2戦が中東開催で、しかも開幕戦と最終戦という重要なレースがいずれも中東で行なわれることに違和感を覚える向きもあるかもしれない。しかし、3月初旬や11月という時期は、モータースポーツの本場であるヨーロッパでレースを開催するには天候がいささか不安定すぎる。そこで中東が選ばれたという背景があるのと、脱CO2が叫ばれる現在、従来の石油産業主体から観光産業などにシフトしたいという中東各国政府の思惑も関係しているとみられる。
ちなみにこうした傾向はWECだけでなくF1グランプリでも見られるもので、2024年の全24戦のうち、実に4戦が中東で開催される。シーズン開幕直後と最終盤のレースが中東で行なわれる点もWECとそっくりだ。
あのスターたちの参戦で今シーズンは一気に盛り上がる
F1グランプリとWECの関係でいえば、少なくない数の元F1ドライバーがWECにエントリーしていることも注目点のひとつ。たとえば2009年ワールドチャンピオンのジェンソン・バトンはポルシェから参戦。
そのほかにもセバスチャン・ブールデ(キャデラック)、小林可夢偉(トヨタ)、セバスチャン・ブエミ(トヨタ)、ブレンドン・ハートレイ(トヨタ)、ミック・シューマッハー(アルピーヌ)、ダニール・クヴィアト(ランボルギーニ)、ロバート・クビサ(フェラーリ)、ストフェル・ヴァンドーン(プジョー)など錚々たるメンバーが名を連ねているほか、ルマンで通算3勝を挙げたアンドレ・ロッテラー(ポルシェ)、2輪の世界GPで9度チャンピオンに輝いたヴァレンティーノ・ロッシ(BMW/LMGT3)なども注目のドライバーといえる。
名門がポディウムを独占
ところで、WECのレースといえば6時間、8時間、24時間などの“時間レース”が中心だが、カタールだけは1812kmの“距離レース”。しかも、レース距離自体も、なんとも中途半端だ。実はこれ、カタールの建国記念日が12月18日であることにちなんだもの。海外の表記では日本と違って日、月の順で並ぶため、1218kmではなく1812kmになったという次第だ。
そのカタールでのレース、実に意外な展開となった。
これまでWECのトップカテゴリーで6連覇を達成してきたトヨタGAZOOレーシングは決勝で6位と9位という予想外の不振に終わったほか、昨年、最高峰のハイパーカークラスへの挑戦を開始した途端、ルマン24時間レースを制したフェラーリも5位と7位に終わったのである。
かわってトップ3を独占したのはポルシェ勢。昨年よりハイパーカークラスに963という名のマシンで参戦しているスポーツカー界の名門は、予選でポールポジションと3番グリッドを獲得すると、ポールシッターの5号車がレースの大半をリードしたままトップでチェッカー。3番グリッドからスタートした12号車も2位でフィニッシュしたほか、予選は5位に終わった6号車も3番手まで挽回して表彰台を独占したのである。
ポルシェはシーズンオフの間にエンジンの改良を行ったほか、ワークスチームのペンスキーはドイツに構えた本拠地が本格稼働し始めたことが、この好結果に結びついたようだ。
そのほか、昨年は苦戦したプジョーがレース終盤まで2番手争いを演じる健闘を示したほか、キャデラックが4位に食い込むなど、昨年とは大いに勢力図が塗り変わったことをうかがわせる展開となった。
今年からLMGT3というマシンで競われることになったGTカテゴリーでもポルシェが優勝。2位と3位にはアストンマーティンが食い込んでいる。また、レクサスRC F GT3で参戦するアコーディス ASP チームも2台揃っての完走を果たした。
今シーズンはアルピーヌがハイパーカー・クラスに返り咲いたほか、BMWやランボルギーニなどもWECへの参戦を開始するなど、新規参入組みが多いことも話題のひとつ。世界中のブランドが意地と技術力をかけて挑むWECに、引き続き注目したい。