未来の自動車の動力源は何になるのか。おそらく誰もが何となく「きっとバッテリー電気自動車(BEV)になるんだろうな」と思っていることだろう。

実際、BEVシフトが叫ばれ、世界中の自動車メーカーが「◯◯年までにBEV比率を△△%に高め、更にその□□年後には内燃エンジン車の販売を終了する」と、競い合うように宣言していたのは、そんなに昔の話ではない。しかし今、潮目は変わってきている。世界的にBEV販売の伸びが鈍化しており、完全なBEVへの移行を“当面”先送りすると表明するメーカーが出始めたのだ。

BEVの利点は数多い。まず電気は何からでも作ることができる。水力、風力、火力、太陽光、バイオマス、あるいは原子力も入れておくべきだろう。しかも車両は排ガスを出さず、走行音も静かである。

一方で、電気は容易に持ち運べず、現在の技術では充電に時間がかかる。充電施設の数がまだ絶対的に少ないこともあり、内燃エンジン車と同等の使い勝手にはまだ達していない。更に言えば、車両も依然、高価だ。

そうした欠点に片目を瞑ったままの、まさにユーザー不在、メーカーの論理先行だったBEVシフトは、やはりうまく行かなかった。将来的な方向性として間違っているわけではない。しかし、いささか性急に過ぎたいう話である。

現在、次々にEV(電気自動車)のラインナップを拡大しているボルボ。2021年時点で2030年までに完全な電気自動車メーカーになると計画し、段階的にハイブリッド車を含む内燃機関車の生産を廃止することを目指すとアナウンスされた。
ここ数年、多くの自動車メーカーがEV化を積極的に進めてきた。ジャガー・ランドローバーは2023年には5年間で190億ドルを投資し、EV事業を拡大すると発表。写真のiペイスに続くモデルや、レンジローバーブランドからもBEVモデルを販売する予定になっている。

では今後の自動車の動力源はどうなっていくのか。おそらく、日本自動車工業会の謳うマルチパスウェイという言葉の通り、多様なパワートレインが適材適所で活かされていくことになるだろう。

BEVは静かで力強い走りが求められ、しかも大抵は自宅ガレージなどで充電可能な使われ方をしているラグジュアリーカーか、逆に一度の走行距離が短く、よって長い航続可能距離を必要としない軽自動車のようなコミューターから普及してくるはずだ。地方では今、ガソリンスタンドの閉業が相次いでいるが、BEVならそんな中でも生活のアシとして機能し続けられるだろう。

その間に位置するクルマは、当面は高効率で使い勝手に優れ、しかも車両価格も高くないハイブリッド車が主流になるはずだ。さらに、プラグインハイブリッドは、理想解のひとつとなるかもしれない。普段使いはBEVと同様に使用可能でありながら、長距離走行にも不安が無く、しかも闇雲に大容量のバッテリーを積むBEVよりコストだって抑えられるのだ。  

そして忘れてはいけないのが水素である。燃料電池で使うか、あるいは水素エンジンに使うかは用途や開発の進捗次第となるが、いずれにしても5分もあれば満充填可能なだけに、長距離を走ることが求められ、ダウンタイム(未稼働時間)をできるだけ短くしたい大型トラックなどの動力源にはBEVより向いている。天然水素という興味深い話も出てきているだけに、今後はより一層注目すべきだろう。

BEV(電気自動車)への移行スピードが鈍ってきた今、改めて注目を集めているのがプラグインハイブリッドやハイブリッド車の高性能ぶり。トヨタがプリウスなどの人気モデルで磨きあげてきたハイブリッドの技術力に、また注目が集まりつつある。

内燃エンジン大好きという人もご心配なく。再生可能エネルギー由来の水素(H2)と二酸化炭素(CO2)を原料として、ガソリンと同じように使えてカーボンニュートラルを実現できる合成燃料(e-fuel)の開発も進んでいる。

すでにポルシェはワンメイクシリーズ用のレーシングカーをこれで走行させているし、日本国内でも最高峰カテゴリーのスーパーフォーミュラは2024年中のe-fuel導入を目指している。こうした過酷な場で鍛えられた上で、将来的には一般用としても売られるようになるはずだ。

そんなわけでクルマの動力源は当面、BEVをはじめとするどれかひとつに収斂することはなく、様々な選択肢が揃うかたちになるだろう。環境を憂う人にとっても内燃エンジンにこだわるクルマ好きにとっても、悪くない状況になると言っていいのではないだろうか。

日産は2016年から個体酸化物形燃料電池(SOFC)を使った燃料電池システム「e-Bio Fuel-Cell」の開発を行っている。現在はその技術を応用し、バイオエタノールを使った定置型発電システムのトライアル運用を開始。2030年の本格運用を目指している。
様々な動力源の可能性が探られる中、ポルシェなどは合成燃料(e-fuel)を使って内燃機関を使い続ける未来も想定し、その開発が進められている。スーパーカーやスポーツカー好きが喜ぶ選択肢もしっかりと残されているのである。

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