ただのかわいいクルマじゃない
2022年の春、フォルクスワーゲンのID.BUZZが発表されたときに、ニュー・ビートルみたいな存在だという第一印象を抱いた。“ワーゲンバス”の愛称で親しまれた、フォルクスワーゲン・タイプ2を彷彿とさせるデザインだったからだ。
けれどもそれは勘違いで、ID.BUZZは電気自動車専用プラットフォーム「MEB」を用いたBEV(バッテリーに蓄えた電気だけで走る純粋な電気自動車)だった。エンジン仕様が存在しない、次の時代を見据えたZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)なのだ。
この7月、ドイツ本国でID.BUZZを試乗する機会に恵まれ、次の時代のクルマだという思いを強くした。インプレッションをお読みいただく前に、現在のID.BUZZのバリエーションを紹介しておきたい。
まず2023年にロングホイールベース(LWB)版が加わった。LWBのホイールベースは標準ボディより250ミリ長い3238ミリで、標準ボディが2列シートだったの対して、3列シートを備える。シートのレイアウトは、前席から2・2・2の定員6名の仕様と、2・3・2の7名仕様がある。
そして2024年には、スポーティ仕様のGTXのデリバリーも本国ドイツで始まっている。ベーシックなパワートレインが後輪駆動で最高出力が286psであるのに対して、GTXはフルタイム4輪駆動で最高出力は340psとなる。
標準ボディとLWBそれぞれに2種類のパワートレインが設定されることから、ID.BUZZには4つの仕様が存在することになる。
今回試乗したのは、LWBの標準パワートレイン「プロ」と、同じくLWBのGTXの2モデルだ。はたして、どちらの仕様も静かで滑らか、快適に走るよくできたBEVのミニバンだった。
ここでは、一般的なインプレッションというよりも、このクルマから感じた未来にフォーカスを当てたい。
電動化で排出ガスをゼロに、自動運転で事故をゼロに
試乗車には、追従型クルーズコントロールとレーンキープアシスト機能を統合した“Travel Assist”が装備されている。つまりアウトバーンでは、アクセルペダルもブレーキペダルも操作することなく、ハンドルにも手を添えているだけで快調に進む(フォルクスワーゲンは、まだハンドルから手を放すいわゆる“ハンズオフ”での走行は認めていない)。
そしてこの機能が、非常に洗練されているのだ。たとえば先行車両がブレーキを踏むと滑らかに減速し、先行車両が加速をすると適切な間隔を保ちながらしっかりと付いて行く。この加減速がスムーズかつナチュラルで、感心させられる。おそらく、電流が流れた瞬間にトルクを精細にコントロールできるBEVはレスポンスが素早く、この制御に向いているのだろう。
しかも試乗車には交通標識を読み取り、制限速度を認識する機能も備わっていたから、頻繁に制限速度が変わるアウトバーンでも、適切な速度にコントロールしてくれる。
自動車は100年に一度の大変革期にあるとされ、なかでも重要なポイントは電動化と自動運転だ。排出ガスをゼロにすることと、事故をゼロにすることが次の時代のクルマに求められている。
そしてID.BUZZをドライブしていると、電動化と自動運転は密接に関連しており、非常に親和性が高いことがよくわかる。電動化が進むからこそ、自動運転の技術も進化するのだ。
ID.Buzz Pro Long Wheel base
車両本体価格 未定
全長/全幅/全高 4962/1985/1927 (mm)
ホイールベース 3239mm
車両重量 2650kg
モーター形式 交流同期電動機
モーター最高出力 210kW(286ps)
モーター最大トルク 550Nm
バッテリー容量 86kW
航続距離 487km(WLTP値)
タイヤ前/後 235/45R21/265/40R21
駆動方式 後輪駆動
ID.Buzz GTX Long Wheel base
車両本体価格 未定
全長/全幅/全高 4962/1985/1927 (mm)
ホイールベース 3239mm
車両重量 2650kg
モーター形式 交流同期電動機
モーター最高出力 250kW(340ps)
モーター最大トルク 580Nm
バッテリー容量 86kW
航続距離 未発表
タイヤ前/後 235/45R21/265/40R21
駆動方式 フルタイム4輪駆動