モントレー・カー・ウィークは全米のクルマ好きだけでなく、国際的にも注目度の高い自動車の祭典である。
もっとも、モントレー・カー・ウィークは単一のイベントではなく、規模もテーマも様々に異なる催し物の集合体といったほうが正しい。たとえば、高価なものは何十億円もするビンテージカーが200台以上も集まってその華やかさを競う「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」があるいっぽうで、ショッピングモールの駐車場などで無造作にクルマを並べただけのイベントを市内のアチコチで見かけるといった具合で、その正確な数や観客数は誰にも把握できないと思われるほどの多彩さを誇っている。
そうしたなかで、カー・ウィークの頂点というべき存在が前述のペブルビーチ・コンクール・デレガンス、歴史的なレーシングカーから最新のスーパースポーツカーまで幅広く展示される「ザ・クエイル・モータースポーツ・ギャザリング」、やはり歴史的なレーシングカーが主役となるものの、こちらはラグナセカというスリリングなサーキットで各マシンが実際に走行する様子を楽しめる「モントレー・モータースポーツ・リユニオン」の3つである。
今年のペブルビーチ・コンクール・デレガンスでベスト・オブ・ショーを獲得したのは1934年ブガッティ・タイプ59スポーツだった。スイスからエントリーしたこの1台は、かつてのワークスレーサーとして戦前のグランプリレースで数々の栄冠を勝ち取っただけでなく、プリザベーションカーとして初めてペブルビーチのベスト・オブ・ショーに輝いたことでも注目を集めた。
ちなみに、プリザベーションカーとは、これまでに大規模なレストアを行なったことのないビンテージカーのこと。ペブルビーチには、ときとして“オーバーレストレーション”と表現したくなるほど過度なレストア作業が実施されたビンテージカーを見受けるが、そうしたなか、サビやヘコミなどがそのまま残されたプリザベーションカーは歴史の重みを感じさせるとともに、独特の風合いがあって興味深い存在ともいえる。
いっぽうで、往年のスーパーカーファンにはたまらなかったのが、今年、特別に設定されたウェッジシェイプ・コンセプトカー&プロトタイプという部門だった。1970年代から80年代にかけて、ベルトーネを始めとするイタリアのカロッツェリアの間ではウェッジシェイプと呼ばれるスタイリングが大流行したことがあった。ランボルギーニ・カウンタックはその象徴だろうし、日本のレーシングカー・コンストラクターである童夢がジュネーブショーに出展した童夢ゼロもその代表作として掲げてもいいだろう。
そうしたなか、今回は1970年のランチア・ストラトスHFゼロ・ベルトーネ・クーペ、1955年ギア・ストリームラインX“ギルダ”クーペ、1984年ホンダHP-Xコンセプト・ピニンファリーナなどが出場。なかでも際立ってシャープなスタイリングのストラトスHFゼロが、ウェッジシェイプ・コンセプトカー&プロトタイプの前期部門で1位に輝いた。
ところで、かつて世界中を賑わせた自動車ショーは新型コロナウィルスが招いたパンデミックの前後から急速に衰退していったが、現在、これに代わるイベントとして注目されているのが、イギリスで開催されるグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードであり、モントレー・カー・ウィークで行なわれるザ・クエイル、モータースポーツ・ギャザリングである。
このうちのクエイルでは、ランボルギーニがウラカンの後継モデルとなるテメラリオを発表。10,000rpmまで回る新開発V8ツインターボエンジンに3モーター式ハイブリッドシステムを組み合わせたテメラリオは、最高速度:343km/h、0-100km/h加速:2.7秒といった驚異的なパフォーマンスで世界の耳目を集めた。チーフデザイナーのミティア・ボルケルトが手がけたスタイリングは、例によってカウンタックの発展形というべきウェッジシェイプだが、ボルケルトらしい繊細でクリーンな仕上がりで魅力的に映った。
残るラグナセカで特に印象的だったのが、ホンダがF1参戦60周年を記念して行なったRA272のデモ走行だった。その内容は別記事に詳しいが、ホンダのガレージにはホンダ製スポーツモデルの愛好家などが多数集まり、ホンダの歴史やそのテクノロジーについて熱く語っている様子が印象的だった。
ホンダはさらにクエイルにおいて、HRS(ホンダ・レーシング)が開発したパーツを多数組み込んだコンプリートカーのアキュラ・インテグラ・タイプS HRCプロトタイプ、そして同社の次期型EVプラットフォームを採用したアキュラ・パフォーマンス EV コンセプトを発表し、こちらも大きな反響を呼んだ。
様々なテーマのイベントを開催することで幅広い自動車ファンの関心を引きつけることに成功したモントレー・カー・ウィークは、今後も益々発展を遂げることだろう。