世界選手権レベルにぶっちぎりに速い!

SUPER GTの週末を過ごすファンは、思い思いの応援するチームのグッズを身につけ、夏場のレースではキャンプも楽しみ、お気に入りのレーシングドライバーとふれ合ったり、レースアンバサダーに魅了されたり。近年、日本のモータースポーツ観戦スタイルは日本独自の“推し”の文化を採り入れながら進化を遂げ、本場である欧米に負けないものになっているが、その中心となっているのはやはりメインイベントであるレースだ。GT500、GT300というふたつのクラスが存在し、速さが異なる2クラスがともにレースを戦い、いまや世界のモータースポーツカテゴリーの中でも希有な存在となっている複数タイヤメーカーによる争いが予想もつかないドラマを生む。それこそが多くのファンを惹きつけ、日本のみならず世界からも注目されるレースとなっている由縁だ。

ふたつのクラスのうち、花形とも言えるのが速さに優るGT500クラス。SUPER GTの歴史は、1994年に始まった全日本GT選手権(JGTC)に始まり今年で30年を迎えたが、シリーズ初期の1994〜1996年頃までこそGT500クラスは外国車も活躍できるフィールドだったが、その後はGTカーとして独自の進化を遂げたトヨタ(レクサス)、ニッサン、ホンダの日本車3メーカーの争いがほぼずっと続けられてきた。シリーズは2005年にJGTCからSUPER GTとして発展するが、その名称が変わって数年となる2008年頃までは3メーカーの車種によって得意、不得意があり、また1メーカーだけが強いような時期もあり、あまり良くない意味で“プロレス”と呼ばれることさえあった。

しかし、2010年から3メーカーの車両の全高やエンジン形式を統一。さらに2014年からは、当時メルセデスベンツ、アウディ、BMWが参加し第二の隆盛期を迎えていたDTMドイツ・ツーリングカー選手権と統一を目指した車両規則を導入した。当時のどのGTカー規定よりも速い、日独の主要メーカーのマシンが争う夢のレースは実戦も行われたが、2020年のコロナ禍前後を機にEV化の波や経済状況の変化にともないドイツ側のプランが頓挫。現在は日本のGT500クラスのみに“最速GTカー”の称号が残されている。

GT500マシンはぶっちぎりで速い!

いかにGT500マシンが速いのかを数字で示そう。モータースポーツでは、F1をはじめとした屋根がない単座のフォーミュラカーの方が屋根があり複座で、市販車のイメージを残すGTカー、プロトタイプカーに比べ一般的に速い。そんなGTカー、プロトタイプカーの中で、世界的に速い部類に位置するWEC世界耐久選手権のハイパーカーは、富士スピードウェイの予選で1分28秒〜29秒で走るが、GT500も同様に1分29秒台。市販車のイメージが色濃く残されたGTカーの中では図抜けたスピードだ。世界的にGTカーの主流は、GT300でも使われるGT3カーだが、富士の場合1分38秒台が速い部類。GT500がいかに特別な存在であるか伝わるだろうか。

また現在も使用されているGT500規定は非常にユニークで、参戦車両として選んだ市販車のボディワークを空力的に有利・不利がないように“スケーリング”という作業が行われながらも、しっかりと市販車のイメージを盛り込んでいる。また空力面で各メーカーが挑戦できるのは、前後フェンダーと、タイヤの中心から下部にあたる部分のみ。リヤウイングや、レーシングカーにとっての骨格とも言えるモノコックは共通のものが採用されている。エンジンは各メーカーが開発した2リッター直4直噴ターボエンジンのみ。限りある燃料消費をコントロールしてパワーを制御する“燃料流量リストリクター”というものが採用されているのも世界的に珍しい。

トヨタ、ホンダ、日産、合計15台のGT500マシンのスペクタクル

2024年のGT500クラスには、3車種15台が参戦していた。各メーカーの車種と、参戦の特徴をご紹介しよう。

まず、2023〜2024年とシリーズを連覇したau TOM’S GR Supraをはじめ6台が参戦するのがトヨタ。採用されている車種は、トヨタのスポーツクーペであるGR Supraだ。トヨタはTOYOTA GAZOO Racingとして、WRC世界ラリー選手権やWEC世界耐久選手権、全日本スーパーフォーミュラ選手権など世界中でさまざまなカテゴリーに挑戦しているが、SUPER GTの活動はそれと同じレベルで大切な活動としてとらえられている。

GT500クラスに参戦する5チーム6台のチーム名は『TGR TEAM ○○』と統一した名前がつけられており、ワークス活動というわけではないが、メーカーがバックアップする体制がとられている。ドライバーラインアップも、トヨタの育成プログラムで育ってきたドライバーはもちろん、近年はTOYOTA GAZOO RacingをのマスタードライバーであるMORIZOの意向もあり、出身メーカーを問わず優秀なドライバーを受け容れている。

一方、日産/NISMOが送り込むGT500車両が日産Z NISMO GT500。フェアレディZ NISMOをベースとしており、日産のモータースポーツ活動を世界的に展開するNISMOが車両を制作、さらに参戦4台中2台のオペレーションを担当する体制がとられる。これは他2メーカーとは少し異なっている点だ。日産/NISMOにとってGT500は、電気自動車の世界選手権であるFIA ABBフォーミュラEと同じくモータースポーツの二本柱のうちのひとつ。最も重要な活動のひとつだ。

日産/NISMOは他メーカーよりも少ない4台での参戦ではあるが、これまで数多くのタイトルと勝利を得ており、長年日産/NISMOで戦ったドライバーたちを中心に、若手ドライバーも加わり魅力的なドライバーラインアップがそろう。SUPER GTの中でも最も熱い応援団が毎戦サーキットで大旗を振りエールを送っている。

そして、CIVIC TYPE-Rを走らせているのがホンダ。これまでNSXや、市販される予定だったHSV-010をベース車として戦ってきたが、2024年からはGT500で唯一の4ドア車をベースとしている(ただし、巧妙なGT500規定のおかげで2ドア車に対して大きな空力の不利などはない)。車両はホンダ・レーシング(HRC)が制作を担い、栃木県にあるHRC Sakuraを拠点にバックアップしながら5台が戦っている。

ホンダの場合、F1を頂点として北米インディカー・シリーズ等さまざまな活動を行っているが、SUPER GTの戦いは他メーカー同様重要視されており、ドライバーもホンダが長年運営し、多くの若手が育ってきたホンダ・レーシングスクール・鈴鹿(HRS)出身選手が大半を占めている。モータースポーツを長年培ってきたホンダらしい取り組み方が進められている。

レーサーもまたクールガイが集う

そして、GT500で戦うレーシングドライバーたちも特別な存在だ。いまや世界的に注目を集めていることから、F1で戦ったドライバーが『出たい』と言わしめるほどになっている。そんなGT500で戦うドライバーたちは、幼少からレーシングカートで戦ってきた選手が大半で、彼らはより速いカテゴリーにステップアップするにつれ、プロとしての自覚をもち、ファンサービスを欠かさない。冒頭にも記したとおり“推し”の文化が発達し、近年は彼らを“推す”女性ファンが大いに増加しており、サーキットの雰囲気も様変わりしている。
 
SUPER GTに興味はあるけれど、クルマから入るのにはハードルが……と考えている女性ファンにもお勧めのイケてるドライバーのSNSをお伝えしておこう。
 
高星明誠(#3 Niterra MOTUL Z)
https://www.instagram.com/mitsutakax32/
日産/NISMO陣営のエースのひとりとして活躍。近年は長髪がトレードマーク。
 
千代勝正(#23 MOTUL AUTECH Z)
https://www.instagram.com/chiyokatsumasa/
日産/NISMOのエースカーを駆る。レースの魅力を発信することにも積極的。
 
福住仁嶺(#14 ENEOS X PRIME GR Supra)
https://www.instagram.com/nirei_fukuzumi/
2024年に移籍。切れ味鋭い速さが魅力。夫人はYoutuberの佐藤あやみさん。
 
大湯都史樹(#38 KeePer CERUMO GR Supra)
https://www.instagram.com/toshiki_oyu/
魅力的な速さとともにアスリート離れしたセンスの持ち主。SNSは超クール。
 
大草りき(#64 Modulo CIVIC TYPE R-GT)
https://www.instagram.com/riki_okusa/
2024年にGT500デビューした若手注目株。モデルのようなルックスは必見。
 
牧野任祐(#100 STANLEY CIVIC TYPE R-GT)
https://www.instagram.com/tadasukemakino_official/
次代を担うエース。近年写真にハマっており、SNSは魅力があふれている。

こういったメーカーの色が見え隠れするのもSUPER GTの楽しみ方のひとつでもある。2025年に向けては、すでにホンダが体制発表を行ったほか、2メーカーも年内〜年明けから新たな体制が発表されると言われている。2025年はどんなドラマが展開されるのか、ぜひサーキットでレースを、そしてエンターテインメントにあふれる空間を楽しんでいただきたい。

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