グリーンスローモビリティとしてのゴルフカートの可能性

公共交通といえば、軌道を走る鉄道、決まった路線を決まった時刻に走るバスや乗用車、そしてタクシーなど、事業用に許可を得た事業者が走らせるドア・ツー・ドア・トランスポーテーションがこれまでは主流だった。

しかし、これまでの公共交通の車両、サービス、運用の仕方では、社会のニーズに、どんどん合わなくなってきている。そこで公共交通の世界でも、自動運転車両をはじめ、バリエーションを増やそうする動きが活発化している。

次世代の車両デザインはたくさん描かれてきた。ところが、その車両の生産ラインを立ち上げ販売をするメーカー、乗客の命を預かり、事故のない運行をしながら、10年20年続くサービスを作ろうとすると、ニュースなど盛り上がっているかのように見えるが、現実問題そう事は簡単に進んでいない。

そこで白羽の矢が立ったのが、ゴルフカートなのだ。

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まったく新しさはないのだが、人口減少化社会に地域の高齢者や観光客の足を支える現実的な移動手段として、今注目されているモビリティがゴルフカートだ。ゴルフ経験のある人なら一度は乗ったことがあるだろう。このゴルフカートが大きく分けて2通りの使い方で、全国各地で導入が進められている。

1つ目はグリーンスローモビリティとして、2つ目は自動運転システム用の車両としても注目されている。グリーンスローモビリティは、Green Slow Mobilityと書き、電動車で環境にやさしくグリーンで、時速20キロ未満の速度で公道をゆっくり走り、高齢者などにも運転がしやすいモビリティだ。“グリスロ”の愛称がついており、カートタイプ、バスタイプなどがある。グリスロの代表格はゴルフカートだ。

写真=Eric Micotto / エリック・ミコット

グリーンスローモビリティのリアル

ゴルフ場で使用しているゴルフカートをそのまま公道で走らせることができないので、注意が必要だ。乗車定員に応じて、軽自動車、普通自動車などのナンバープレートの取得が必要となる。

ナンバープレートを取得して、ゴルフカートを自家用車としても使うことも検討できるかもしれないが、多くはバスやタクシーといった既存の公共交通サービスの提供が困難な場所――道幅が狭い場所やガソリンスタンドがない地域など、モビリティサービス(MaaS)としての活用の検討が進められている。またグリーンスローモビリティが機能することで、高齢者の外出が増え、福祉対策や地域の活性化につながるのではないかと期待されている。

国土交通省が2018年からグリスロを推進しており、これまでゴルフカートで検討を行った地域は千葉県松戸市、兵庫県朝来市、宮崎県延岡市、岡山県笠岡市、広島県福山市、東京都町田市、島根県松江市、岡山県備前市、山口県宇部市などがある。

写真=Eric Micotto / エリック・ミコット

ゴルフカートを日常使いする事例は、他国にはすでにある。アメリカフロリダ州にある、55歳を越えないと住むことができない「サン・シティ」では、のんびり暮らす生活のなかで、ゴルフカートが高齢者にとって安全に乗車できて、リーズナブルなので、自動車に代わりマイカーとなっている。

公共交通のEV化が進む中国のシリコンバレー深センでは、警察の巡回用車両としてゴルフカートが公道を走り回っていた。海外の観光地では広大なホテルの敷地をめぐるモビリティとして活躍しているシーンをよく目にする。日本では高齢ドライバーも安心して運転ができ、地域内の移動の担い手の幅が広がると期待が寄せられている。

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自動運転車両としてのゴルフカートは始まっている

ゴルフカートは自動運転システムの車両としても注目されている。電磁誘導線を用いたゴルフ場での自動運転システムとしての実績があるからだ。自動運転が地域に受け入れられるかどうか社会受容性の育み方が課題となっている。しかし、日本ではゴルフは社会人のたしなみとして、またスポーツとして老若男女問わず愛されてきたもので、ゴルフカートをゴルフ場で使い慣れている人も多い。

ゴルフカートタイプの自動運転サービスはすでに、秋田県北秋田郡上小阿仁村(かみこあにむら)、滋賀県東近江市、福岡県みやま市などで本格的に始まっている。他にも福井県永源寺、島根県飯南市などで実証実験が始まっている。

筆者は試乗を通して、このタイプであれば、バスタイプの自動運転に比べるとかかる費用が安く、完全無人にならずとも、全国の集落へどんどん導入していける可能性があると感じた。

今回はゴルフカートに着目したが、モビリティの役割を変えれば、私たちの実生活にすぐに役立つ現実的なモビリティサービスに転換できるものが、他にもたくさんあるかもしれない。

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