"曲を聴いているときは、日常を離れて、ドラえもんのどこでもドアのように感性を移動してもらいたい"

1980年代から90年代、ロンドンやパリ、そして東京のナイトクラブシーンを席巻した、ジャズ・ファンク〜アシッド・ジャズのムーブメント。その渦中にいたユニット、ユナイテッド・フューチャー・オーガニゼーション(U.F.O.)のメンバーだったのが、今回登場いただく松浦俊夫さんだ。松浦さんはU.F.O. から独立後も日本やヨーロッパなどでDJとして活躍し、クラブだけではなく、さまざまな空間の音楽を担っている。ナビゲーターを務めるインターFMの「TOKYO MOON」は今や老舗番組だ。また、近年では自身がプロデュースするユニット「HEX」や、自身名義のグループなども始動させ、独自のスタンスから現在進行形のジャズを追求している。

「それは、ジャズの中でジャズのことを考えるというよりは、ジャズの薫りを探していくことでしょうか。当たり前のものではなくて、常にどうヒネリを加えるか考えて選曲や音づくりを行うこと。成熟した感性に向けたクリエイションとはそういうものではないでしょうか」

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そんな風に語る松浦さんに、いま車で聴くべきジャズを中心とした音楽について聞こうとしたところ、それならば、ぜひあるクルマがある場所で、とリクエストされた。

「自分のラジオ番組では、あまり話さないんです。少しでもそれぞれの曲、音楽の世界に入り込んでほしいと思って。僕としては、曲を聴いているときは日常を離れて、ドラえもんのどこでもドアのように感性を移動してもらいたい。それぞれの曲で別々の場所に行って、また日常に戻ってもらう、そうしたことを目指して選曲しています」

こう話しながら、松浦さんは目の前のマクラーレンに乗りこみ、自身が選んだ曲をプレイしはじめた。

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「車での音楽ということを考えると、あまり現実感がないサウンドのほうが、景色がふわっと流れていくのかなと思っています。このマクラーレンの車内で鳴らしてみたとき、カマシ・ワシントンの『Fists of Fury(ドラゴン怒りの鉄拳のテーマ)』がよく合っているように感じました。あの曲のどこか誇張された壮大さが、車の質感と相まって非現実性をもたらすように思います」

今回の選曲に関して、「非現実」という言葉を使う松浦さん。その語には、こうしたハイパフォーマンスな車を駆る人たちに向けた、松浦さんの思いが込められている。

「音楽には、聴くことによって力を与えてくれるところがあると思います。こうした車に乗って、音楽をプレイしはじめたら、現実から離れた境地に行ってもらいたい。そして聴き終えたらひと呼吸して、次の行動に移っていただけたら、僕としては幸せです。そうした経験を繰り返すことで、人生は常にフレッシュになると思います」

さらに松浦さんは音楽について、エアコンディションと例える。「京都の割烹の音楽も担当しているのですが、自分も実際にそこで食事をしてみて、例えばメロディはあまり聴こえないほうがいいなとか、食事を楽しむ上でどのような音楽が適切かを調整します。さらに、夏なら室温を下げる、冬なら上げるようなサウンドも考えます。感覚の領域なので、言語化は難しいですが」

そして、松浦さんは最近ドライブで経験したエピソードを語った。

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「数年前、無性に滝が見たくなって家族と華厳の滝に行った帰り道、渋滞にハマっている時に自分のラジオ番組を聴いたんです。その時のプログラムは、亡くなった大好きなトランペッター、ロイ・ハーグローヴにトリビュートした内容だったのですが、自分でミックスした曲にもかかわらず、思わず感極まってしまいました。あらかじめわかっていた内容にも関わらず、そうした感情を呼び起こすなんて、音楽の力を改めて思い知らされました」

DJ/プロデューサー 松浦俊夫

1 9 9 0 年、U n i t e d F u t u r e Organization (U.F.O.) を結成。各国で高い評価を得る。2002 年のソロ転向後も国内外でDJ として活躍。2013 年には現在進行形のジャズを発信するプロジェクトHEXを始動。2018 年春には英国の若手ミュージシャンを起用しToshio Matsuura Group としてアルバムをリリース。InterFM897 「TOKYO MOON」( 毎週日曜17:00 〜) 、Gilles Peterson’s Worldwide FM「WW TOKYO」(第1 &第3 月曜20:00 〜) が好評オンエア中。

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