ネクストチャプターのグランツーリスモの個性と実力
アウディe-tron GTについては、自動車好きなら先刻ご承知だろう。アウディのピュアEVのラインナップ「e-tron(イートロン)」の頂点に立つモデルで、前後にモーターを1基ずつ搭載し、パワフルな走りが特徴的だ。
ピュアEVはどうしても航続距離が気になる。e-tron GTでは、満充電で534キロと発表されているが、エアコンをがんがん入れたり、加速を楽しんだりすると、通常は、かなり数字が悪くなるものだけど、このクルマに関してはかなりリアルなように思える。
走ったのは、東京の市街地から東名高速の清水ICを経由して、日本平ホテルまで足を延ばし、充電なしでそのまま出発地に戻る約400キロ。海と富士山と静岡市を見下ろす絶景を楽しんだ。東京へ戻った時点で、残りの走行可能距離は100キロ以上と表示されていた。
ロケットのような加速性能がすばらしく楽しく、あまりホメられた運転をしなかったというのに、この良好な数字には驚いた。大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載し、コンピューターが消費電力を極力抑える制御をしているとのこと。これなら、東京を出発して、東だろうと北だろうと西だろうと、好きなところへ気兼ねなく出かけられそうではないか。
ドライブのパートナーとして、e-tron GTが傑出していると思えたのは、スポーツカーなみのダイレクトな操縦感覚に加え、快適な乗り心地(とくにRS e-tron GTという上級車種のエアサスはよい)や、静粛性の高さ、それにおとな4人に充分なスペースが確保された機能性。全方位的に完成度が高い。
シャシーは、同じ企業グループに属するポルシェがさきに発表したピュアEV「タイカン」と共用で、全長は4990ミリと余裕あるサイズの4ドアという点も共通している。性能的にも、より高性能な「RS e-tron GT」(475kW)がタイカンターボ(500kW)と、e-tron GT(390kW)がタイカン4S(同じ390kW)とほぼ同等である。
ただし、スタイリングはだいぶテイストが異なる。タイカンはウィンドウグラフィクス(サイドウィンドウの輪郭)やリアクォーターピラーの造型がポルシェ911を意識したものになるのに対して、e-tron GTは、1980年代にラリー選手権で大活躍したアウディクワトロのようなブリスターフェンダーをそなえる。
走った印象としては、タイカンのほうがよりスポーツカー的。しっかり固められたサスペンションシステムで、地面に張り付くように走るのに対して、e-tron GTはもうすこし快適性に振っているように思えた。
ロングドライブを主目的としたグランドツアラー(GT)のコンセプトに忠実、とアウディジャパンの広報担当者は説明してくれた。なるほどと思う。といっても、コーナリング能力は高く、日本平の頂上へとのぼっていく小さなカーブが連続する道もくいくいと小気味よく曲がって楽しい。
とにかく、電気自動車ならではの鋭いダッシュと、2.3トンのボディをしっかり減速させる制動性能の高さが、運転しやすさに大きく貢献している。スポーツカーのように、エンジントルクを落とさないよう回転計をみながらギアを選び、重めの操舵力を持つステアリングホイールをしっかり握って……なんてこととは無縁。あたらしい時代のスーパースポーツだ。
RS e-tron GTにオプションで用意される後輪操舵システム「オールホイールステアリング」を選ぶと、時速60キロ以下の走行時は、前輪の角度と逆位相に後輪が向くことで、ホイールベースが短くなったのと同じ効果が生まれ、小回りが効くようになる。
アウディジャパンではこれからディーラーに設置する90kWの急速充電器の数を増やし、さらに150kW器も充実させたいとしている。そうなると、ごく短時間での充電が可能になり、さらに遠くまで足を延ばせるようになるだろう。
2026年以降の新車はすべてEVに。33年には、中国向けをのぞいてガソリンエンジンやディーゼルエンジンといった内燃機関の製造はやめる、とするアウディ。その本気度が、e-tron GTの完成度の高さからうかがい知れたのだった。
e-tron GTクワトロ(1399万円)と、より高出力なモーターで後輪を駆動するなどモデル名(RS)にあるとおり、スポーティな仕立てのRS e-tron GT(1799万円)と、どちらがいいか。フラットな姿勢をつねに保ち、サーキットにもそのまま行けるんじゃないか、と思わせられたのは後者だ。でも前者でまったく不満なし。ようするに、よく出来たグランドツアラーである。
【スペックス】
車名 Audi RS e-tron GT
全長×全幅×全高 4990x1965x1395mm
電気モーター×2 全輪駆動
最高出力 475kW
最大トルク 830Nm
価格 1799万円