可動式の空力デバイスを使用せずに、フェラーリ史上最も空力効率に優れているという

イコナ・シリーズの第3弾がベールを脱いだ

走る、という機能こそフェラーリの本質。それを、徹底的に煮詰めたモデルに思える。F1の技術を応用したというカーボンコンポジットによるシャシーに、840CV(イタリア式馬力表示で約617kWに相当)の6.5リッターV型12気筒エンジンをミドシップする。

カーボンコンポジット素材をロードカーに使ったのは、フェラーリにとって伝説的ともいえるハイブリッド・スーパースポーツ「ラ・フェラーリ」(2013年)以来。空力も徹底的に煮詰められ、静止から時速100キロに加速するのにわずか2.85秒。時速200キロには7.4秒で到達してしまうとされる。

2021年11月21日、「フェラーリ・フィナーリ・モンディアーリ」を 開催中のムジェロ・サーキットでお披露目された
330P3/4 や 312P、350Can-Am といった歴史的フェラーリを参考にしたというコクピット
シートはシャシーと一体化したデザインにして全高を1142ミリに抑えたという

フェラーリが配信したプレスリリースでは冒頭に、「330 P3/4」330 P4」「 412 P 」というレースカーが1位から3位までを独占した1967年のデイトナ24時間レースに言及。「モーター スポーツにおける比類ない地位をフェラーリが獲得する上で貢献したスポーツプロトタイプにオマージ ュを捧げています」としている。

1967年デイトナ24時間レースにおける330P4(手前の2台)と412P

彫り込まれた肉感的なフォルムとシャープなラインの交錯、エアロダイナミクスの重要性への着眼、着脱可能なハードトップを備える「タルガ」ボディ……。当時のフェラーリのレーシングプロトタイプの特徴を挙げたうえで、「1960 年代にレースで取り入れられていた洗練されたエンジニア リング手法をインスピレーションとしています」と説明する。

フェラーリのDNAを感じさせる水平基調のルーバーが設けられたリア
812コンペティツィオーネとおなじ6.5リッターV12気筒をミドシップ
シャシーとボディシェルはF1で用いられている複合素材の技術を活かして製作されている

フェラーリでは、「イコナ」シリーズとして、「モンツァSP1およびSP2」なるスペシャルモデルを2018年に発表している。1950年代のレーシングプロトタイプ「750モンツァ」や「860モンツァ」をイメージの源泉としたとされたスペシャルで、2モデル合わせて499台の限定生産。価格は3億円超えともいわれた。

「イコナ・シリーズはフェラーリの歴史を讃えるべく立ち上げた一つのプログラム」というのがフェラーリによる解説。「最もアイコニックな歴代フェラーリ・モデルをモチーフとしつつ、時代を超越したそれらのスタイリングが現代の感覚に合うよう大胆に再解釈されたもの」という。

歴史あるモデルの数かずを生み出してきたフェラーリだからこそ可能になるプロジェクトといえる。

「デイトナSP3」をみてもわかるように、スタイリングは焼き直しでない。たとえば、フォード(のスペシャル部門)が、66年、67年、68年にフェラーリの好敵手として活躍したフォードGTを現代ふうに作り直したような「フォードGT」(2017年発表)より、独自性が高い。

「イコナ」シリーズの出発点となったモンツァSP1(右)およびSP2

ヘッドオブデザインのフラビオ・マンツォーニ氏に直接確かめてはいないものの、フェラーリのデザインオフィスがやろうとしているのは、当時の精神の再現ではないか。

なので、たとえばこの原稿の冒頭で紹介したような67年のデイトナマシンを引き合いに出して、どこが似ているとか細部の検証をしても始まらない(現在の衝突安全基準がデザインに与える影響も大きいし)。

当時のフェラーリはこんなふうに、自動車好きを驚かせてくれたんだなあ、と受け止めるのがいいように思う。もちろん、幸運なオーナーはその先にあるドライビングプレジャーの真価を確かめられるわけであるが。ちなみにすでに全モデルが売約済みだとか。

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