乗る人の気持ちにより添う
レクサスNXの開発をとりまとめた加藤武明チーフエンジニアによれば、このNXと新型LXはこれからのレクサスの方向性を明示するモデルだという。つまり新型NXを知るということは、レクサスの未来を理解することなのだ。
結論から書けば、新型NXは格好いいクルマ、いいクルマというよりも、乗る人を素敵に見せるクルマ、乗る人の暮らしを豊かにするクルマだという印象を受けた。クルマが主人公ではなく、乗る人を中心に作られていると感じた理由を、以下に記したい。
まずデザインは、精緻なキャラクターラインで端正なフォルムを形成するレクサスらしさを踏襲しつつ、大きな曲面を使うことでゆったりとした雰囲気となった。従来型は、「ここがカッコいいんです」「ここがレクサスらしいんです」と強くアピールするデザインだった。それもインパクトがあったけれど、新型NXはもっとシンプルで自然体だ。“盛る”のではなく、“削る”方向のデザインになった理由は、レクサスというブランドのイメージや、レクサスらしさが世間に浸透したという自信から来るのではないかと想像する。
ちなみに、リアのエンブレムは、「L」の文字をモチーフにしたものから、「LEXUS」という表記に改められている。前出の加藤チーフエンジニアによれば、フォントや文字の間隔は、長い時間をかけて議論をして決められたという。デザインの細部にまでこだわっていることを象徴するエピソードだ。
乗り込むと、運転席と助手席ではまるで雰囲気が異なることに気づく。大画面のタッチスクリーンがドライバーの方向に傾けられた運転席は、ドライビングに集中しやすいタイトな雰囲気。一方、目の前の視界が開けている助手席には開放感がある。このあたりの内装デザインからも、スタイリッシュだとかセンスがいいということと同等かそれ以上に、乗る人の気持ちを大事にしていることが伝わってくる。
多様性へシンプリファイドというアプローチ
プラグインハイブリッド(PHEV)のNX450h+、ハイブリッド(HEV)のNX350h、2.4ℓ直列4気筒ターボのNX350、2.5ℓ直列4気筒のNX250と、多彩なパワートレインをラインナップしていることも新型NXの特徴だ。カーボンニュートラルな社会の実現に向けては、パワートレインの電動化は避けて通れない。その一方で、電源構成の問題や、充電インフラが整っていないという現状がある。
週末に遠出をする人、毎日通勤や送り迎えに使う人などなど、クルマの使い方は千差万別で、多様なライフスタイルに対応するためにはキメの細かいパワートレインのラインナップが不可欠。サスティナビリティとユーザーのクオリティ・オブ・ライフの向上を両立するために、4種のパワートレインを用意したのだ。
それぞれの印象を簡潔に記せば、まずレクサスとして初のPHEVとなるNX450h+は上質だ。フル充電時のEV走行では静かで滑らか。ハイブリッド走行ではエンジンをモーターがアシストするから、加速はリッチでスムーズだ。またPHEVは、電力を外部に給電できるという能力も魅力のひとつ。オートキャンプ場で電化製品を使ってもいいし、万が一の災害の時にも役に立つ。PHEVには、“移動型エネルギー基地”という側面もあるのだ。
NX350hは、バランスのよさが売りだ。効率のよさ(=省燃費)と走りのよさをハイレベルで両立しているのだ。穏やかに走る時にはモーターの助けで効率よく、燃費を稼ぐ。ドライビングを楽しみたい時には、今度はモーターがターボチャージャーの役割を果たして、ぐいと車体を押し出してくれる。
思い切りドライビングを楽しむことを第一に考えるなら、NX350をおすすめしたい。アクセルペダルを踏んだ瞬間の「バチン!」という瞬発力は、爽快で痛快。エンジン回転の上昇とともにリニアに力感が増し、乾いた排気音のボリュームがアップする。速いというだけでなく、ドライバーの気分を高揚させる力がある。
実はNX250に乗るまでは、このエンジンではちょっと寂しいのではないかと不安に感じていた。けれどもそれは杞憂だった。NA(自然吸気)エンジンらしい素直な吹け上がりと、ソリッドなレスポンスで、充分以上にドライビングを楽しめる。パワーにも不足はなく、むしろ持っているパワーを余さずに使い切る清々しさを味わうことができた。
骨太で懐の深いドライブフィール
NX250に満足した背景には、ボディやシャシーがしっかりしているという理由もある。ハンドルを切った瞬間の反応がナチュラルなフィーリングで、気持ちがいいのだ。ハンドルの手応えもしっかりしており、いまタイヤがどんな状態で路面と接しているのかが、文字通り手に取るように伝わってくる。
加藤チーフエンジニアによればボディ設計の部分から見直した結果とのこと。確かにボディのがっちりとした感じや、コーナリング中の安定感からは、単にスポーティなチューニングを施したというのではなく、体幹から強化したという印象を受ける。骨太で懐の深いドライブフィールだ。
デザインにしろ、ドライブフィールにしろ、総じて乗る人のことを深く考えた仕上がりになっている、という印象を受けた。クルマが「俺が、俺が」と主張するのではなく、半歩下がって乗る人を引き立ててくれる。レクサスの次のステージは、人間が主役になるクルマづくりではないだろうか。