2021年の大トリともいうべきタイミングで発表された8代目となるゴルフGTI。日本に導入されるGTIは1984cc4気筒エンジン搭載の前輪駆動のモノグレード。従来のモデルと排気量は同一ながら、最高出力が11kW(15ps)あがって180kW(245ps)に、最大トルクは20Nm増えて370Nmになった。

デザインも、あたらしい。基本は、21年6月に日本発売された現行ゴルフ。標準モデル同様、4ドアハッチバックという基本を踏襲しつつ、ディテールに凝っている。

特徴的なハニカムフロントグリル。

フロントのバンバー一体型エアダムが大きくなり、そこに左右5つずつの多角形のLEDランプが個性を主張。リアでは、大径のエグゾーストパイプが2本、誇らしげ、というかんじで突き出ている。GTI伝統の、レッドラインもフロントに。

タイヤサイズも、ガソリンモデルが16インチ主体であるのに対して、GTIは18インチ(オプションで19インチも)。いかにも走りがよさそうな見かけで、ファンにはうれしいだろう。

ツインエギゾーストの迫力ある姿が印象的だ。

ドライブしてみると、ハンドリングがとてもいい、というのが第一印象だ。従来のGTIに対して、サスペンションシステムを徹底的にファインチューニング。加えて、電子制御による可変ダンパーを中心に、走行状況に応じて最適な足まわりのセッティングを提供する「DCC」なるシステムもオプションで用意される。

フォルクスワーゲンではこのシステムにより「前輪駆動車に典型的な特性であるアンダーステアの傾向を完全に排除」することができたとする。サーキットの高速走行まで視野に入れているというぐらいで、GTIを徹底的に楽しみたいひとに朗報だろう。

高速でのハンドリング向上のためにと、電子制御油圧式ディファレンシャルロックがフロントに標準装備。高速でコーナリングする際など、重力の関係で内輪が浮いてトルクがかからなくなると、外側の車輪にも駆動力が伝達されなくなる現象を解消するための装置だ。

電子制御を選んだのは、ブレーキや出力制御など、ほかのシステムとの協調制御がやりやすいため、とフォルクスワーゲン。ようは、あたらしいGTIの走りのレベルを、自分たちが考える目標まで、うんと引き上げようということだったはずだ。

ステアリングシステムも改良を受けている。ステアリングホイールを切り込んだときの速度や、動かした量に応じて前輪の切れる角度が変わる機構。

そもそもGTIでは、ステアリングホイールを、めいっぽい右からめいっぱい左へ切るときの回転は、わずか2.1回転。なので、駐車場でも楽チン。カーブが連続する山道などでは、おもしろいように車体がくいくいと向きを変えて走っていく。

上記のとおり、ゴルフGTIについて書くと、どうしてもシャシーのことに話が集中しがちで、マニアックになってしまう。もちろん、エンジン性能は高く、これも大きな魅力だ。

2.0ℓ直列4気筒DOHC インタークーラー付ターボエンジン搭載。

今回のエンジンは、じつは、従来のGTIに設定されていたより高性能の「GTI Performance」のものと同じスペックスだ。最大トルクは1600rpmから発生するので市街地で扱いやすい。いっぽう、最高出力の発生回転数は5000rpmからと、”その気”になってとばそうというとき、エンジンをガンガンと回して走る楽しさがある。

7段ツインクラッチ変速機は、ステアリングホイール背後にもうけられたパドル型のシフターで、マニュアルでギアの選択が可能。私には、これを使って、エンジンをまさに5000rpmまで回して走るのが楽しかった。

伝統の赤のモールディングラインが効いている。
7速DSG搭載。小型化したシフトレバーもピュアを追求した意匠。
スポーティーに仕上げたステアリングホイール。

従来の「GTI Performance」と同じ出力とトルクの数値であるとはいえ、シャシー性能がアップデートされているため、楽しさは別もの。腕におぼえがあるひとはともかく、多くのひとが、ドライブの楽しさを味わえるという点で、あたらしいGTIは高得点なのだ。

さきに触れた「DCC」には、今回、ダッシュボード中央のモニターで、ドライブモードを任意で選べる機能がもうけられている。バー上になっていて、左がもっともコンフォート、右がもっともスポーティ。そのあいだはかなり細かい。

ドライブモードによる変化は顕著。スポーティな設定にすると、足まわりがとたんにシャキッとして、ステアリングホイールの動きに対して車体が反応するのは瞬時。コンフォートにすると、サスペンションの動きはソフトになり、高速走行ではじつに快適だ。この制御にも感心させられた。

GTIの伝統ともいえる「クラークプレイド」(クラーク格子柄)なる、スコットランドのいわゆるタータンチェックを用いたファブリックシートは標準装備。形状はドライバーのからだをしっかりサポートしてくれるスポーティなもので、機能と雰囲気の両立がうまい。

さきにゴルフe-TSIで採用された10インチモニター画面を使う「ディスカバープロ」で感心するのは、直感的な操作を可能としているところ。たとえば、先行車追従運転のアダプティブクルーズコントロールの起動は、クルマが2台縦列で走っているアイコンをクリックすればよい、というぐあいだ。

GTIはつまり、万能選手的なクルマなのだ。パッケージングもよくて、後席におとなふたりが余裕をもって座っていられるし、荷室も使い勝手がよさそう。

あたらしいゴルフのラインナップは、マイルドハイブリッド化されてスムーズな走りをもつガソリン車「e-TSI」シリーズ、おどろくほどパワー感のあるディーゼル車「TDI」、そして今回の「GTI」と、早くもゆたかなバリエーションを誇る。

GTIの車体ディメンションは、全長4295ミリ、全幅1790ミリ、全高1465ミリ。ホイールベースは2620ミリとなる。燃費はリッター12.8キロ(WLTC)と発表されている。価格は466万円。発売は22年1月7日だ。

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