レーシングマシンのダッシュボードから始まったクロノグラフの歴史

 移動する2点間の距離と経過する時間を計測することによって、人類は初めてスピードを形而上のものとした。19世紀末に誕生したクルマによって、そうした新たな時の役割をより強く意識するようになったといえるだろう。そこで社会が求めたのは精密な時計だった。嚆矢となったのが、1911年にタグ・ホイヤーの前身であるホイヤーが開発した初期のダッシュボードクロックだ。重要な計器として航空機や自動車に搭載され、“時を刻む”から“速度を計測する”という時計の存在を広く一般に知らしめたのである。

タグ・ホイヤー オータヴィア 60周年アニバーサリー フライバック クロノグラフ。双方向回転ベゼルは初代を受け継ぐ。自動巻き、SSケース、ケース径42㎜ 825,000円.

 モータースポーツの時代が本格的に幕を開け、レースはハイスピード化する一方、公道を舞台にしたミッレミリアやモナコグランプリなど困難な状況下における高精度の計時が必要とされた。

これに応え、1933年に開発されたのが「オータヴィア」だ。その名は自動車(AUTomobile)と航空機(AVIAtion)を組み合わせた造語で、精細な1/5秒の計測に、30分計と12時間計を備え、激しい振動の中でも長時間に渡って正確に時を刻み、陸と空の時間を席捲した。

1933年に開発された「オータヴィア」。写真のストップウォッチ機構の他、クロノグラフ機構を備えたものもある。

 こうしたモータースポーツを黎明期から支えたタグ・ホイヤーの計測技術は、時代の変遷とともに機能や形態を変え、現代へと受け継がれる。「オータヴィア」は、従来のダッシュボードクロックから1962年にクロノグラフと回転式ベゼルを備えた腕時計に進化。その誕生から60周年に当たる今年いよいよリニューアルし、クロノグラフでは自社製キャリバー ホイヤー02 COSCフライバックを初搭載したほか、シリーズ初のGMT機構も登場した。

「タグ・ホイヤー オータヴィア 60周年アニバーサリー フライバック クロノグラフ」は、クロノグラフを停止させることなく、リセットし新たに積算がスタートできる。

❝ガードレールにキスする❞くらい、ギリギリを攻めるのはF1だけではない

 レースの最高峰と呼ばれるF1において最も迫力あるレースのひとつが、世界三大レースにも数えられるのがモナコGPだ。モンテカルロの市街地コースで行なわれ、1929年に始まった。きっかけは、モナコ自動車クラブが国際的な協会への加盟を目指し、レースの自国開催を計画したといわれる。

しかし限られた土地でのサーキットの新設は難しく、公道レースにしたものの、視界の悪いコースは幅も狭く、追い抜きは困難。それでも多くのドライバーたちは「ガードレールにキスするくらいに攻める」のである。

不世出のスター、スティーブ・マックイーンが映画「栄光のル・マン」で腕元の相棒に選んだのが「モナコ」だ。両者の魅力はオーバーラップする。

 こうしたスピードの限界への挑戦を強いるのは、ドライバーやレーシングマシンだけではない。高速の計測・計時もそうだ。1971年ホイヤー社はスクーデリア・フェラーリの要請に応え、当時の計測技術の10倍にもなる1000分の1秒の精度を持つクオーツ式計時「センティグラフ」を開発した。これはチームのF1公式計時を担うばかりか、技術は1978年にFIAに正式採用され、F1の進化を支えたのだ。

現行モデルは6時位置にスモールセコンドを備え、30分と12時間の積算計を装備。タグ・ホイヤー モナコ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ、自動巻き、SSケース、ケース径39㎜ 726,000円。

 まさに1/1000秒という熾烈な闘いが繰り広げられるモナコの市街地コースから一度視線を上げれば、そこには風光明媚なリゾートが広がる。その紺碧の海から名付けられた時計が1969年に登場した「モナコ」だ。角型の防水ケースに、モナコの海を映すような鮮やかなブルーが映える。だがその内には世界初の自動巻き式クロノグラフムーブメントを秘め、エレガンスとスピードというギャップを併せ持つモナコを象徴するようだ。その唯一無二のスタイルは今も変わらない。

モナコの青い海から名付けられ、角型の防水ケースも革新的だった。

タグ・ホイヤーとポルシェ、2つの「カレラ」がふたたび

タグ・ホイヤーとポルシェ。時計とクルマという異なるジャンルでありながら、共通項のひとつになっているが50年代の伝説的な公道レース「カレラ・パン・アメリカーナ・メキシコ」である。

当時このレースに参戦したポルシェはクラス優勝をはたし、ここから高性能モデルに「カレラ」の名を付けるようになった。そしてタグ・ホイヤーもまたこのレースを冒険と挑戦の象徴として、1963年に発表した新たなクロノグラフにその名を選んだのである。実は現在「カレラ」の名が与えられているポルシェ911のプロトタイプも1963年に発表されて翌年に誕生した。

「カレラ」の由来になった「カレラ・パン・アメリカーナ・メキシコ」は、総距離約3000㎞を超える過酷なレースだった。

 だが両者の接点はそれだけではない。1984年にTAGマクラーレン・チームが誕生し、タグ・ホイヤーもそれまで培ってきた最新鋭の計測技術を注いだ。そしてこの新生チームにエンジンを供給したのがポルシェだ。強力なリレーションによって、チームは1984年から3年連続のコンストラクターズチャンピオンに輝いた。そして1999年以降、ポルシェカップおよびスーパーカップ、世界選手権へと蜜月の関係は続く。

文字盤の数字インデックスはポルシェのスピードメーターと書体を共通し、搭載する自社キャリバー ホイヤー02の巻き上げローターはステアリングを象る。レザーストラップにはシートと同様のダブルのハンドステッチ入り。
スタイルはデビュー当時から変わらないが、約80時間のパワーリザーブを誇る自社キャリバー ホイヤー02の搭載や100m防水など内容は飛躍的に進化する。

 そして長い歴史を持つ2つのブランドは、昨年さらに強固なパートナーシップを結んだ。レースから製品開発にいたる総合的かつ長期的なコラボレーションであり、その記念すべき第一弾が「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ ポルシェスペシャルエディション」だ。サーキットのアスファルトを想起させる文字盤に、ブラックセラミックベゼルにはポルシェの赤いロゴがさり気なく入る。カレラという互いに共通する価値観や精神がそこに呼応するのだ。

全体に用いられたレッド、ブラック、グレーの3色は、ポルシェのシンボルカラーであり、オーナーならずともマニア心をくすぐられる仕様だ。タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ ポルシェスペシャルエディション、自動巻き、SSケース、ケース径44㎜ 693,000円。
モータースポーツの情熱をエレガントに収めた。タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ、ケース径42㎜ 632,500円。

コネクトするクリーンエネルギーモビリティとタイムピース

 時代の変革と技術革新によっていまや新たなモビリティが生まれ、モータースポーツの世界も変わりつつある。その過渡期において、タグ・ホイヤーとポルシェの強い絆はさらに前へと進む。タグ・ホイヤーは、クリーンエネルギーで最速を目指すフォーミュラEの共同創始者に名乗りを上げ、オフィシャルタイムキーパーを担うとともに、ポルシェは2019年にタグ・ホイヤーをタイトル&タイミングパートナーとしてフォーミュラEチームを結成した。

第4世代では、スポーティな45㎜径とエレガントな42㎜径という異なる個性の2サイズで登場した。先進のデジタル機能と伝統的な時計のスタイルを併せ持つ。チタンケース、ケース径45㎜ 297,000円(写真右)。SSケース、ケース径42㎜ 214,500円(写真左)。

 「コネクテッドウォッチ」はそんな次世代とコネクトする渾身作だ。2015年の登場からすでに第4世代へと熟成を遂げ、アクティブな現代のライフスタイルにふさわしい先進機能を備える。しかもラグジュアリーなデザインに、優れた操作性や心地良い装着感といった機械式時計で長年培ってきた伝統が息づくのである。

人間工学に基づくデザインとワンタッチで交換可能なストラップ。
世界初の電気自動車によるフォーミュラーカーレースシリーズ。タグ・ホイヤーはFormula 1とFormula E、2つの世界選手権で挑戦し続ける。
多彩なウォッチフェイスを用意。「タグ・ホイヤー カレラ」のデザインも。

貫かれるのは、自らハードルを上げ、挑戦を続けるアヴァンギャルドな情熱であり、時代を衝き動かす原動力だ。そして時を超越し、これからも伝統を守り、さらなる進化をし続ける意思が伝わるのである。

LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー TEL03-5635-7054

Keyword: