半世紀を超えて愛されるデザインアイコンの風格

独特の存在感を放つラウンジチェアは、それだけで空間を成り立たせてしまう。

ミッドセンチュリーのアメリカで、新技術や新素材を用いて誰でも手が届く手頃な価格帯の家具を次々に生み出したチャールズ&レイ・イームズ夫妻。「イームズラウンジチェア&オットマン」は、そんな彼らが初めて手がけた高級家具だ。19世紀の伝統的なイギリスのクラブチェアからインスピレーションを得たチェアは、すぐに20世紀を代表するアメリカのモダンデザインを象徴する存在になった。

プライウッドに支えられたレザーのクッションが優しく体を包み込み、後方に向かって沈み込む座面は、背もたれにも体圧を分散させる。チェア(W83.2×D83.2×H81.3×SH38.1㎝)オットマン(W66×D54.6×H43.8㎝)

「使い込まれた一塁手のミットのように、座る人を温かく包み込むチェアを目指した」とチャールズ・イームズが語るチェアは、最高の座り心地を追求し、20のパーツで複雑に構成されている。そしてそこには、夫妻がさまざまな素材の組み合わせを試しながら、長年にわたる研究開発を続けてきた成果が詰まっているのだ。1940年代、彼らはプライウッドに熱と圧力を加えて成型する新技法を発案し、アメリカ海軍のためにプライウッドによる添え木のデザインもしている。戦後はその方法を家具づくりに応用し、1956年にハーマンミラーのクラフトマンシップと効率的な大量生産を掛け合わせて「イームズラウンジチェア&オットマン」が誕生する。

安定感のある星型のベースは、どの角度から座っても正面が気にならない。

発表以来、ハーマンミラーはこのチェアの生産を中止することなく作り続け、環境負荷低減のためにオリジナルで使われていたブラジリアンローズウッドから、よりサステナブルな森林の木材へと素材をわずかに変更したのみ。7層の合板のシェルに支えられたレザーのクッションが身体を優しく包み込むチェアは、それぞれのパーツを今も職人が手作業で組み立てている。

ウッドシェルの美しさが引き立つ後ろ姿。発売当初に使用されていたブラジリアンローズウッドは絶滅の危機に瀕しているため、現在ではサントスパリサンダーやウォールナットのオイルフィニッシュがオリジナルに近い表情に仕上がるほか、ラッカー塗装も選べる。

ニューヨーク近代美術館(MoMA)とシカゴ美術館のパーマネントコレクションになっているほか、テレビドラマや映画のインテリアとしても使われるデザインアイコンは、時を経ても古さを感じさせることはなく、どんな空間も自分のものにしてしまう存在感をもっている。このチェアにゆったりと身を沈めて、ゆっくりと本を読んだり、静かに物思いに耽ったり。そんな時間こそが、真の贅沢なのかもしれない。そして使うほどにレザーがなじみ、自分だけの特別なチェアへと育てていけるのも、このチェアを所有することで増える楽しみのひとつだ。

アイボリーのレザーは、軽やかな印象。そのほか布張りなどのバリエーションも。

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