悪路で心地よさを感じるなんて!

スキーのモーグル競技よりもはるかに大きなコブが連続するオフロード、レクサスLX600は、4本のサスペンションを大きく伸ばしたり縮めたりしながら、ゆっくりと進む。コースに進入する前は、本当にこんなにタフな道を走れるのか不安だったけれど、レクサスLX600は涼しい顔で威風堂々と走る。

富士スピードウェイの敷地内のオフロードコースでレクサスLX600のステアリングホイールを握りながら、不思議な感覚に襲われる。最新のSUVには、このくらいのオフロードをクリアするモデルもいくつか存在する。けれどもコブを乗り越えながら気持ちがいいと感じたのは、このクルマが初めてだ。

立木が迫る狭い箇所では、ボディの見切りのよさがドライバーを助けた。
車のポテンシャルを存分に体感できるオフロードコースのセッティング。
雨を含んだ丸太は滑りやすく難敵だったが、レクサスLX600は苦もなく走破した。

これほどの悪路で、ドライバーに快適だと感じさせること。ここに、レクサスLX600というモデルの凄みが集約されているように感じる。

続いて、前夜の雨によって滑りやすくなっているロックエリア。ここでは、オフロード走行をアシストするクロールコントロールのスイッチをオンにする。

いま、車両がどんなセッティングで走っているのかが、モニターを見れば一目瞭然。
より悪路走破性に優れる「L4」モードへの切り替えは、ダイヤル操作ひとつで完結する。
クロールコントロールやドライブモードなど、いざという時にすぐに操作したいスイッチは、センターコンソールの一番わかりやすい場所に位置する。

クロールコントロールとは、駆動力とブレーキ油圧を自動で制御しながら極低速で走行する仕組み。ドライバーは5段階で調整できる速度を設定した後は、アクセルとブレーキの2つのペダルの存在を忘れて、ハンドル操作に専念できる。

クロールコントロール作動中。ドライバーはハンドル操作に専念し、ブレーキとアクセルはクルマにおまかせ。

するとレクサスLX600の4本のタイヤはしっかりと岩をとらえて、驚くほどスムーズに前進する。急勾配の登り斜面で、フロントガラスいっぱいが青空という状態になっても心配は無用。マルチテレインモニターには、ドライバーからは見えないフロントバンパー周辺の路面の画像が映し出されているのだ。だから安心して、コースアウトしないようにハンドル操作をすることができる。

1輪が地面から離れて浮き上がるほど車体が傾いてもミシリともいわない堅牢なボディ、路面がどういう状況なのかを詳細に伝えるステアリングホイールからの手応え、微妙なアクセル操作に繊細に反応するパワートレーン。そして優雅に泳いでいるように見える白鳥が実は水中ではせわしなく水かきを動かしているように、ゆったりと走るレクサスLX600の内側では、無数の電子制御システムがキメ細やかに連動している。

富士スピードウェイ敷地内に造成されたオフロードコース。本文にもあるように、いずれは一般開放される予定。
アプローチアングルやディパーチャーアングルを確保することを第一に考え、そこからデザインを煮詰めたという。
このような局面でも、4輪それぞれにブレーキが自動で介入することで、難なく脱出することができる。

こうしたすべての要素が合わさって、恐れを感じるほどのオフロードを気持ちよく走ることができるのだ。レクサスというブランドを紹介するにあたっては、しばしば「おもてなし」という言葉が使われる。

雨上がりのオフロードコースという場面で、安心だけでなく心地よさでもてなすレクサスLX600は、このブランドの世界観を最も先鋭的な形で表現しているのかもしれない。

矛盾するはずの2つの要素が成立している

オフロードからオンロードに試乗のステージを移す前に、新型レクサスLX600について紹介したい。

初代レクサスLXがデビューしたのは1996年だったけれど、日本市場へ導入されたのは2015年。3代目LXがマイナーチェンジを受けるというタイミングだった。少しややこしいけれど、グローバルで見れば、これが第4世代のレクサスLXということになる。

一般に、レクサスLXはトヨタ・ランドクルーザーのレクサス版だと認識されている。それももちろん間違いではなく、強靭で耐久性に優れたラダーフレーム構造を採ること、3.4ℓV型6気筒ツインターボエンジンと10段ATを組み合わせたパワートレインなど、基本的な成り立ちは共通である。

ただし、単純にランクルにレクサスのエンブレムを貼り付けたわけではない。レクサスというブランドが求めるクオリティを確保するために、企画の初期段階からLX担当者と意見を交換しながら開発を進めたという。

従来型LXはモノグレードだったけれど、新型LX600は標準グレードのほかにオフロードでの走破性能を高めた“OFFROAD”と、後席を2座にした定員4名の“EXECTIVE”の計3グレードをラインアップする。標準グレードと“OFFROAD”は、定員7名の3列シート仕様も設定される。

標準グレードのほかにオフロードでの走破性能を高めた“OFFROAD”と、後席を2座にした定員4名の“EXECTIVE”の計3グレードをラインアップ。標準グレードと“OFFROAD”は、定員7名の3列シート仕様も設定される。
東京オートサロン2022でお披露目された、カスタマイズメーカーのJAOSとコラボレーションしたレクサスLX600 “OFFROAD”JAOS ve.2が、独特の存在感を放つ。
オーバーフェンダーに収まることと、ラギッドな存在感を両立させたJAOSのホイールは、レクサスの販売店でも購入できる。
カーボンをあしらったのドアハンドルなど、JAOS仕様は細部まで作り込まれている。

標準グレードで、富士スピードウェイ周辺のワインディングロードを走る。

心に残ったのは、素直に曲がり、ハーシュネス(路面からの突き上げ)も上手に遮断する足まわりの出来のよさだ。

はしご型のフレームにボディを被せるラダーフレーム構造を採るSUVは、どうしてもフレーム部分とボディの上屋が別々に動く感覚が残りがちだ。けれどもLX600は、それがほとんど気にならないレベルに仕上がっている。

また、ラダーフレーム特有の、体の芯にズシンと響くようなショックもない。

オフロードコースでの圧倒的な走破性と、オンロードでの洗練されたフィーリングは、本来であれば二律背反するはずだ。けれども、強さとやさしさが、見事に両立している。

試乗後にシャシー担当エンジニアにうかがったところ、高負荷用のコイルスプリングと低負荷用のコイルスプリングを備え、それをシームレスに切り替えるあたりが良好な乗り心地の秘訣とのこと。「世界中のどんな道でも楽に、上質に」というのが新型LX600開発にあたってのテーマだったというけれど、これが大言壮語ではないと感じる。

オフロード走行のすすめ

“EXECTIVE”の後席で、高速巡航を試す。

上座にあたる助手席の後ろに座り、後席センターコンソールのコントロールパネルでリラックスモードを選ぶ。すると助手席が前方に移動して足元のスペースが拡大するとともに、シートがリクライニングする。オットマンを引き出して、足を載せる。NASAが提唱する中立姿勢(最もリラックスできる姿勢)を参考にしたという、背もたれの角度が絶妙だ。

室内の静けさはいかにもこのブランドらしいもので、考え事をするもよし、マークレビンソンのサウンドシステムが奏でる音楽に耳を傾けるもよし。

砂漠のパイプラインや山奥の鉱山に視察に行く必要もないのに、ここまでのオフロード性能が必要なのか、という疑問を持たれる方もいるだろう。けれども、オフロードコースでの無敵っぷりが記憶に新しいから、心から寛ぐことができるという側面は間違いなくある。あのクオリティで作られているのだから信頼できる、という安心感に包まれるのだ。

“EXECTIVE”の後席で、リラックスモードを選ぶとこのような状態になる。助手席ヘッドレスト部分のモニターが倒れて前方視界を確保するという芸の細かさに注目。
“EXECTIVE”の後席のセンターコンソールに備わるコントロールパネルでは、背もたれの角度やマッサージ機能などを調整できる。
“EXECTIVE”専用セミアニリン本革、繊維なステッチが美しい。

また、300m防水のダイバーズウォッチを着けていると都会の雑踏の中でも海を感じられるように、このクルマに乗っていると運転席であれ後席であれ、冒険に挑む時のワクワクした心持ちになる。

そういう意味で、このクルマの購入を考えている方も、実際に購入した方も、一度、しかるべき場所でオフロード走行を体験することを薦めたい。レクサスLX600というクルマの真の価値を、肌で感じることができるはずだ。

冒頭に記した富士スピードウェイ敷地内のオフロードコースは、いずれレクサスのオーナーや購入を考えている方が悪路走行を体験できる施設になるという。完成の暁には、一度訪ねてみてはいかがだろう。

中央がレクサスLX600、右が水素エンジン搭載のROV Concept、左がNX PHEV OFFROAD Concept。

Keyword: