極寒の地の緊張感の中で、人生の本質を突き詰める北欧の文化が薫るSUV

ボルボXC90は、大型のプレミアムSUVだ。ただし眺めても、ドライブしても、この手の SUVにありがちな押し出しの強さは感じられない。

例えばエクステリアは鋭角なラインや彫りの深い面が主張するではなく、やわらかい局面で構成されている。インテリアも同様に、シンプルで控えめなデザインだ。

光を反射するのではなくそっと纏うような局面を持つボディライン。

ここで思い出すのが、『建築手法』という安藤忠雄氏の著書だ。

若き日の安藤青年は、一般の海外渡航が解禁された翌年、1965年に横浜港からナホトカ経由でモスクワに入り、西洋の建築を自身の目で学んだという。アルバイトで貯めた資金でさまざまな国をめぐる中で、鮮烈な印象として残っているのが、フィンランドで見た北欧の建築文化だった。以下、その一節を引用したい。

「極寒の地にある緊張感の中で、徹底した無駄を排しながらも、その光の扱い、素材のディティールと、空間造形において、常に人間的視点を中心に据えた、それらの建築のつくられ方に、強い感銘を受けた。」(原文ママ)

プレミアムSUVにも自宅と同じく豊かな時間を過ごすことができる場所であることが理想だ。
足し算ではないミニマリズムをたたえるインテリア空間。
テクノロジーの進化によって、車内での過ごし方は多様化している。どんな過ごし方をするにも、静かであることが重要なポイントとなる。

長い冬を乗り切るためには、無駄を省く必要がある。同時に、人間が快適に過ごせる環境を整えたい──。こうした北欧の文化が、ボルボXC90にも反映されていると感じる。

個性のあるさまざまな都市の道でも足が自由自在に動いて、滑空するような乗り味を感じられる。
シンプルで控えめなデザインは現代の洗練された街に似合う。
文明と自然が共生を果たしていくうえで北欧の文化に学ぶべきコトは多い。

サスペンションストロークを大きくすること、つまり足まわりを自由自在に伸び縮みさせることで、このクルマは路面の不整や凹凸から受けるショックを、なるべく乗員に伝えないように工夫されている。人間にやさしい乗り心地だ。

パワートレーンも同様だ。2020年よりボルボXC90のエンジンはすべてが電動化され、タイプの異なるハイブリッド仕様になっている。そしていずれの仕様に乗っても、ノイズや振動は非常に小さく抑えられているから、心穏やかに移動することができる。

完全なる調和を目指して、Bowers & Wilkinsのエンジニアと車両開発の初期段階から開発が進められたオーディオ・システム。

心を高ぶらせるような音や鋭いレスポンスといった刺激よりも、車内で会話を楽しんだり、音楽に耳を傾けるような過ごし方を大事にしていることが伝わってくるパワートレーンなのだ。

シートの細部にまで心地よさにこだわった手仕事がある。

厳しい気候の中で、温かい気持ちで幸せに暮らしたい。そうした北欧の生活様式が、このクルマから感じ取ることができる。世界中でボルボの販売が好調だというのは、人々がクルマに刺激やステイタスを求める時代が終わり、クルマに幸せな生活を求めるようになったからではないだろうか。つまり、クルマ文化、自動車社会が成熟するにつれ、ボルボのよさが理解されるようになったのだ。

ボルボXC90は、そんなことを考えさせてくれた。

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