スペシャルティコーヒーと“ふわっふわ”のドーナッツのマリアージュ
那須街道から1本奥へと入った静かな別荘地の一角。鳥たちの軽やかなさえずりが聞こえる森の中に、ひっそりと佇むのがロースタリーカフェ「mamechamame – Nasu Coffee Roastery and Dish」だ。
訪れたのは、木々が少しずつ色づき始めた秋の日。朝の空気はひんやりと冷たく、早くも冬の気配が感じられる。落ち葉の絨毯の上には、立派な毬栗(いがぐり)や可愛らしいドングリがゴロゴロ。お店は那須の季節の移ろいを肌で感じ取れる絶好の場所に位置する。
自慢は、店主でありバリスタの池田将磨さんが一杯ずつ丁寧に淹れてくれるこだわりのネルドリップコーヒーと“ふわっふわ”の自家製ドーナッツ。苦味と酸味のバランスが絶妙なパナマのスペシャルティコーヒーに、やさしい甘さのドーナッツを合わせれば、瞬く間に口福な時間がやってくる。
「まめちゃまめ」がオープンしたのは、今から2年ほど前。都内のコーヒーショップで修行を積んだ池田さんが、那須の豊かな自然環境に惚れ込み、ご家族で那須に移り住んで経営している。真剣にコーヒーを淹れる池田さんの傍では、お母様が楽しそうにパンを焼き、ドーナッツを揚げる。お店に漂うほっこりやさしい空気感は、仲の良い親子が醸し出すもの。
もともと、ものづくりが大好きだったという池田さん。店内のインテリアは既製品をリメイクしたり、木材を買ってきて棚を作ったりと、DIYを駆使して完成させたという。木を基調とした温かみのある空間では、時の流れもゆっくりと感じられる。特等席は、窓際のソファ席。テーブルに用意されたキャンドルに火を灯し、窓外の豊かな自然を眺めながらコーヒーを飲んでいると、心身が解きほぐされていくように感じる。
「那須の魅力はなんといっても雄大な自然。秋は紅葉、冬は真っ白な雪景色、春は山桜と季節ごとの楽しみがあります」と池田さん。
スペシャルティコーヒーの魅力は、冷めてもおいしいところにある。さらに、ネルで淹れることでそのおいしさがより長く続くという。コーヒーをテイクアウトして森を散策したり、ドライブに繰り出すのもいいだろう。
季節によって取り扱うコーヒー豆やドーナッツの種類も異なるため、訪れる度に新たなおいしさに出合える。
友人の別荘に遊びに行く感覚で、ぜひ一度「まめちゃまめ」に立ち寄ってみてほしい。あたたかいコーヒーとおいししいスイーツ、そして店主の醸し出す穏やかな雰囲気にホッと癒されるはずだ。
mamechamame-Nasu Coffee Roastery and Dish
森と人との共生を目指す、持続可能なまち「GOOD NEWS」
那須の観光拠点として知られる「那須街道」と北那須の広域農道である「りんどうライン」をつなぐ道沿い。広々とした青い空に白い旗がゆらゆらとはためくこの場所が、次なる目的地「GOOD NEWS(グッドニュース)」だ。
就労支援施設としての役割も備えた食品製造工場「GOOD NEWS FACTORY(グッドニュースファクトリー)」、環境に配慮した事業を行う人気店が集結した「GOOD NEWS NEIGHBORS(グッドニュースネイバーズ)」、酪農王国・那須ならではのミルクにまつわるショップが揃う「GOOD NEWS DAIRY(グッドニュースデァリー)」、社員食堂を兼ねたレストラン「GOOD NEWS LOCAL RESTAURANT(グッドニュースローカルレストラン)」の4つのエリアからなる複合施設として、2022年7月にオープンした。
手がけるのは、那須の新銘菓として知られる「バターのいとこ」の生みの親である宮本吾一氏が率いるスタートアップ企業「株式会社GOOD NEWS」。観光と農業に福祉を掛け合わせた“観福農”の連携により、関わる人すべてが幸せになれる「持続可能なまちづくり」を目指している。
4つのエリアを合わせると、東京ドーム約1個分の敷地になるというから驚きだ。
今回我々が向かったのは、アウトドアギアを取り扱うショップやコーヒーロースタリーなど、那須初出店も含めた全9店舗が連なるショップエリア「GOOD NEWS NEIGHBORS」。
まず目を奪われたのが、大きく口を開けたトンネル状のエントランス。歩を進めると、その先には緑豊かな森が広がる。
ショップの入る建物が道路の喧騒から森を隔てる壁の役割を果たしており、敷地に一歩足を踏み入れれば、そこはもう別世界。森の手前に開けた広場には、愛犬を散歩させる地元の人、丸太で遊ぶ子どもたち、コーヒーを片手に散歩する人など、老若男女さまざまな人たちが集う。小川が流れる森の奥にはベンチも用意され、せせらぎを聞きながらの森林浴という贅沢な体験も叶う。時には、宝石のように美しいヤマメなどの川魚と出合えることも。
この地は、もともと手付かずの森だったという。そこに人の手を入れながらも、森と人が共に豊かになることができる関係性を築くべく、各店舗が知恵を出し合いながらより良い環境を作り上げているのが特徴だ。その取り組みのひとつとして、施設内にはコンポストが設置されており、店舗で出た野菜の切れはしやコーヒーかすは堆肥化されて森へと還される。「ここに身を置くことが、環境について考えるきっかけになってくれたら……」というのが事業者の想いなのだ。
さて、自然を満喫して小腹が空いたら、甘いおやつと共に休憩を。
おすすめは「ブラウンチーズブラザー」のクッキーサンド。フランスの郷土菓子、ガレットブルトンヌに、ブラウンチーズを煮詰めたジャムがサンドされたお菓子は、バターがふわりと香る“サクッほろっ”とした食感のクッキー生地に、甘酸っぱいブラウンチーズがマッチしたクセになるおいしさ。食べ応えはあるが、さっぱりしていて何個でも食べられてしまいそうだ。
ちなみに“ブラウンチーズ”とは、牛乳からチーズを作る過程で大量に出るホエイを活用するために生まれたチーズのこと。ホエイをおいしく活用した新たなお菓子をつくるべく、地元の「チーズ工房那須の森」とタッグを組み開発したという。
「破棄していたものに、新たに価値を見出したというのがブラウンチーズブラザーの一番の魅力だと思っています」と話すのは、ブラウンチーズブラザーの店長を務める澤田剛史さん。
「僕らはお菓子を通じてホエイの魅力をもっと広めていきたいと思っています。ホエイを活用することで酪農家さんが喜び、買ってくれるお客様も喜び、そして僕らの働く場所も維持される。お菓子と一緒にその後ろにある背景やストーリーも伝え、より良い循環を作っていきたいですね」
まさに三方よしの「ブラウンチーズブラザー」は、大切な人への贈り物にも相応しい逸品だ。単に自然と触れ合えるだけでなく、ライフスタイルのヒントを与えてくれる「GOOD NEWS」は一見の価値がある。ぜひこの通りを歩いて回り、プラスのエネルギーを肌で感じてみて欲しい。