どっぷりと読書に浸るブックバスで、新たな「知」と出合う
信州松本の奥座敷として親しまれてきた「浅間温泉」の中心に、2022年7月にグランドオープンした「松本十帖」。
ここは、日本のライフスタイルホテルの先駆け的存在である「里山十帖」や「箱根本箱」「HOTEL 講 大津百町」などを経営する「自遊人」が、新たに手がける複合施設だ。
「松本本箱」「小柳」という趣の異なる2つのホテル、2つのレストラン、カフェ、ブックストア、ショップ&ベーカリー、ハードサイダー醸造所からなる。


もともとは創業336年の歴史を持つ老舗旅館「小柳」の再生と、それを中心としたエリアリノベーションを目的としてスタートしたという同プロジェクト。浅間温泉を訪れた人が、ホテルの中で過ごすだけでなく街歩きも楽しめるように、そして周辺住民も気軽に立ち寄ることができるような「街に開くホテル」として計画されたという。
今回は、そのなかでも「松本十帖」を印象付けるユニークな場所として、多くの人々を呼び込んでいる「Book store 松本本箱」を訪ねた。
軒先でふわりと揺れる暖簾をくぐった先に広がるのは、「新しい知との出合い」をコンセプトに掲げるブックストア。


専用のゲートを通って奥へと進むと、本棚がずらりと並ぶ圧巻の空間が現れる。
選書を手がけたのは、日本を代表するブックディレクター幅充孝氏が率いる「BACH」と日本出版販売の選書チーム「ひらく」。
5つのエリアで構成された店内には、写真集や画集、エッセイや入門書を中心に約1万冊の蔵書が取り揃えられている。一般書店とは一線を画すユニークな視点で集められた本は、新たなインスピレーションやさまざまな気づきを与えてくれるものばかり。背表紙や装丁をただ眺めるだけでも面白く、あっという間に時間が経ってしまう。



特筆すべきは、かつての旅館「小柳」の大浴場を利用したブックバスとブックプール。
“本に溺れる”がコンセプトの「オトナ本箱」は、「オトナの写真集」をテーマに集められた、色気のある写真集が浴槽を取り囲むブックバス。まるで湯船に浸かるように本の世界観にどっぷりと浸ることができる。また「こども本箱」には、ボールプールに姿を変えた浴槽のほか、本棚が迷路型に並ぶ洗い場や風呂桶を活かした照明など、遊び心あふれる多彩な仕掛けが。絵本の数は2000冊にも及ぶという。思わず童心に帰り、読み耽ってしまいそうだ。


エリアごとにテーマが異なる「松本本箱」。宿泊者なら時間に捉われず、好きなときに利用できるという。せっかくなら泊まりで訪れ、時間や場所を変えてゆっくりと楽しむのがおすすめだ。
Book store 松本本箱

〒390-0303
長野県松本市浅間温泉3-13-1ホテル松本本箱1F
営業時間:12:00〜17:00(最終入館16:00まで)
※日帰り利用時は要予約。宿泊の場合は時間を問わず入場可能
予約はこちらからhttps://matsumotojujo.jp

元銀行(!?) のレトロな空間で紙雑貨の魅力にはまる
次なる目的地は、「松本十帖」から歩いて3分ほどの場所にある「手紙舎 文箱(ふばこ)」。浅間温泉郵便局の隣に2022年7月に誕生し、1階に雑貨と喫茶、2階に紙マルシェを有する複合店だ。
手がけるのは、東京・調布や台湾にカフェや雑貨店を5店舗運営するほか「もみじ市」や「蚤の市」「紙博」をはじめとするイベントを主催する編集チーム「手紙社」である。


30年前まで銀行として使われていたという風格のあるレトロな建物の1階には、作家のこだわりが詰まった紙ものを中心とする雑貨類が揃う。なかには、浅間温泉在住のテキスタイルデザイナーが手がける、ここだけでしか手に入らないアイテムも。こだわりの松本土産を探しに、わざわざ足を運ぶ観光客も多いというのも頷ける。やわらかな雰囲気をまとったアイテムは、見てまわるだけでもほっこり癒される。
見どころとなるのが、銀行だった時代の姿をあえて残したという内装。



中でもインパクト抜群なのは、1階奥にある金庫室だ。かつては勤務している銀行員であっても、ごく限られた人しか入ることが許されなかった場所。重厚な扉の奥には、当時貼られた注意書きなどがそのまま残る、物々しい空間が広がる。まるで秘密基地のような場所に並ぶのは、長野県上田市を拠点に活動する「バリューブックス」から卸したという古書。選書はすべて手紙舎のスタッフが行っており、ここ以外ではなかなか手に入らないマニアックなラインナップが魅力だ。


他にも、当時の手すりなどがそのまま残された階段を上った2階には、手紙社とつながりの深い作家約20人が手がけるオリジナルの包装紙を、常時200種類以上取り揃える「紙マルシェ」が。好きな作家の包装紙をバイキングのように組み合わせて、5枚単位で購入できるという。ラッピングに利用したり、ブックカバーにしたりと使い方は自由自在だ。

また「手紙舎 文箱」らしいコーナーともいえるのが、ポストカードで埋め尽くされた1階奥の壁面。常時350種類以上が並んでいるというから驚きだ。送る相手の顔を思い浮かべながらじっくりと選ぶのも楽しい。
お気に入りの一枚が見つかったら、店内にある喫茶コーナーでコーヒー片手にさっそく手紙をしたためるというのも一興だろう。店舗ではオリジナルの切手も販売しており、書き終えたら隣の浅間温泉郵便局で投函できる。窓口では、浅間温泉の風景が描かれた風景印(消印)を押してもらえるというから、旅の思い出にぜひ試してみてほしい。



喫茶コーナーでは手紙舎の名物「プリンアラモード」をご賞味あれ。昔ながらの純喫茶を彷彿させる、少し固めのプリンが癖になる。ノスタルジックな雰囲気に浸りながら、ゆったりとした時間を楽しみたい。
取材に訪れた日も、オープン直後から老若男女さまざまな人が次々に訪れ、すでに街の憩いの場として定着しているようだった。昭和時代のレトロ建築を探検するかのように買い物を楽しめる「手紙舎 文箱」は、一見の価値があるおすすめスポットだ。
手紙舎 文箱

〒長野県松本市浅間温泉1-30-6
営業時間:10:00〜16:30(LO.16:00)
定休日:火・水(年末年始)
※火・水曜日が祝日の場合は営業

松本のパノラマビューをひとり占め!
この旅の最後に訪れたのは、北アルプス連峰や安雲野を一望する「松本市アルプス公園」。71ヘクタールにも及ぶ広大な面積と、標高約763メートルに位置する起伏に富んだ山の地形を生かした総合公園として、地域の人々の憩いの場となっているという。
園内には、展望台のある「山と自然博物館」や小さな動物園「小鳥と小動物の森」、アスレチック遊具のある「子供冒険広場」、ローラー付きのソリで林間コースを滑る「アルプスドリームコースター」などさまざまな施設が点在する。


生い茂る木々の間を歩いていると、エナガやシジュウカラといった森の小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。運が良ければ、リスのような可愛らしい野生動物にも出合えるという。
我々がまず向かったのは、園内一の眺望を誇る「山と自然博物館」の5階にある無料展望室。目の前には北アルプスをはじめとする山々を一望する大パノラマが広がる。秋口には朝の間、雲海が見えることも。一年を通じて季節ごとに異なる山の表情が楽しめるという。


ダイナミックな眺望を堪能した後は、動物たちを見に行こう。「小鳥と小動物の森」ではニホンザルやタヌキ、クジャクをはじめとする動物が約30種類、250頭飼育されており、間近で見ることができる。特に、今年生まれたばかりという子猿たちが可愛らしくておすすめだ。「ふれあい広場」では、穏やかなヤギたちの姿に心癒される。子どもはもちろん、大人ものんびりとした休日を満喫できる。




他にも、子どもたちと一緒に身体を動かせるアスレチック遊具も充実。特に全長630メートルのコースターをローラー付きのソリで走り抜ける「アルプスドリームコースター」は迫力満点。森の澄んだ空気を切って走る爽快感をぜひ体感してみてほしい。

すべてを遊び切るには、1日では足りないほど。松本の雄大な自然を肌で感じながら過ごす時間は、きっと楽しい旅の記憶として刻まれるはずだ。
松本市アルプス公園

