カッシーナ・イクスシーのショールームは沢山の製品、いや作品が並ぶミュージアムかギャラリーのようだった。「素晴らしい」という言葉のかわりに、何度ため息をついたことだろう。一脚のチェアにも語られるべきストーリーは豊富にある。それをうかがいながら様々な姿勢で腰掛けてみたり、指先でステッチや木目のR(曲線)/エッヂの感触を確かめ、手のひら全体で撫でてみたり、押してみたり。それが生まれた背景や理由(わけ)を知り、新しい感覚を体験することを私の体全体が喜んでいるのがわかる。

レザーやアルカンターラ、金属素材のコントラストが立体的かつ滑らかに際立たせ、スポーティ&エレガントな調和を生み出すインテリア。ステアリングのステッチ、無垢の金属を革で包み込むシフトノブの“インステッチ”縫製など職人の手技が質感を一層高めている。

例えばル・コルビュジエが「休養の為の機械」と呼んだ寝椅子「LC4」(1929年発表)は眺めているだけでゆったりとした気持ちになれた。角度調整も可能なこの椅子に座り、何をしようか、そんなときにはどんな音楽を聴こうかとココで過ごす時間に想像を巡らすもの愉しい。横たわってしばし目を瞑ってみたときの心地良さは言うまでもない。計算し尽くされたその快適さやデザインの理由(わけ)をソレに触れながら解き明かすように説明をうかがえば、今も愛され憧れの対象であるル・コルビュジエのLC4の“本物”の価値をより深めることができるというもの。在宅ワークが増えたことで改めて家のなかで一脚のチェアやソファの存在が見直され、カッシーナ・イクスシーを訪れる方も増えているそうだが、それも納得がいく。

立体的なハリ感も縫製品質の高さによって見事に表現されているシート。そのホールド性はもちろん、ドアトリムのアルカンターラで表現された“ドレープ”を纏うように包まれるインテリアはやはりLC500コンバーチブルでしか味わえない。(シートヒーターはもちろん、ネックヒーターを採用。ルーフの開閉状態で車速に応じてヒーターの出力を自動で調整、体型に合わせた温風の当たる位置の調整もできる)。

ボタン一つで始動が可能になったクルマたち。スイッチ類の数が機能性の高さの象徴でもあった過去に対し、近年は多くの機能がスクリーン内に納められ、“まるでリビングインテリア”をイメージさせるようなインテリアデザインには造形美とそれを魅力的に表現する上質な素材や装飾が求められる傾向が高まっているけれど、個のための空間をデザインするクルマのインテリアはリビングインテリアとは異なる進化を遂げてきている。

なかでもシートは車という移動空間のなかで室内を占める割合(見映え)もそれが担う役割(性能)も大きい。着座フィールが欧米で異なる印象はまだ残っているが、素材選びで言えば過去にはお国柄があった。日本は起毛系のファブリックが“高級の象徴”としてもてはやされ、アメリカ車はリビングのレザーソファーを思わせる柔らかいレザー、ドイツ車は厚みと張り感のある織り地のファブリックやレザーを採用する傾向があった。今ではそれらには国境はなくなり、適材適車だ。

ただ、いつの時代も変わらないのはデザインや形状がそのモデルの特徴を表すと同時に性能パーツとなりうるということ。性能面については人間工学や解析技術、製造技術、素材の進化などによって格段に進化している。時代とともに安全意識が高まりヘッドレストの進化も加速した。デザイン面でも“スポーツドライビング”を想起させるスポーツカーの立体的なシートはよりホールド性を追求し、ゆったりとした大振りのシートは快適なドライブタイムの想像も容易いけれど、そこがまた開発者にとってはサポート性の腕の見せ所でもある。いずれにしても、しっかりと深く腰掛けてポジションを取るのが前提で、そこはリビングのソファとは違う。

個人的にもLC500コンバーチブルは手触りの良さも魅力だと思っている。最初にそれを感じたのはこのドア開閉レバー。有機的なデザインを採り入れ金属素材独特の冷たさと仕上げの温もりが共存しヌメッとした感触に仕上げられた美しいアクセサリーのよう。この感覚を心から楽しみ味わえるのはその他のデザインとその質感の高さも負けていないからなのだ。
クーペというタイトな空間とオープンドライブの開放感のどちらも楽しめるコンバーチブル。オーカー色で統一された室内はクローズド/オープン、それに天候によっても変わるインテリアが生む陰影や風合いも演出の一部ととらえているかのようだ。
「インテリアもエクステリアの一部」というLC500コンバーチブル。特に目を引くフロントシートは肩口からサイドサポート部にはキルティングステッチをあしらい、吸音と通気性に優れた3種類のパーフォレーション(孔)でグラデーションを演出。繊細ではかなく美しさを表現。

レクサスLC500コンバーチブルはオープンカーという特徴をデザインでも魅力的に表現する国産としては極めて貴重で特別なモデルと言えるだろう。何てったって“見せる、見られる”を意識した「内装は外装の一部」と捉えたデザインコンセプトがいい。プレミアムブランドであるレクサスらしく魅力的に表現するためにレザーやアルカンターラ素材を用いて室内全体を同色でコーディネイトし、そこに手触りや見た目の質感の高い金属素材がアクセントに効果的に採り入れられ、エレガントさ、そしてスポーティさが同居する上質なインテリアが生まれている。専用の意匠が施されたシートはサイドサポートから肩口にまで華やかな印象を与えるキルティング刺繍が特徴。さらに肩口のパーフォレーション(孔)はグラデーションをかけるようにサイズを変化させ、レザーシートの表皮がより滑らかに流れるような演出も加えられている。

ダッシュボード中央に置かれたディスプレイはタッチパットでリモート操作。ただしエアコンやオーディオの調整はダイレクトに直観的な操作が行えるデジタルとアナログの共存バランスがほどよい。
「ソフトトップルーフはいつ、どんなシチュエーションで開けよう?」。LCコンバーチブルのオープンドライブ体験はルーフの開閉動作に入るところから始まる。幌を折りたたむ所作とも言える動作には書道の三折法に倣い0.2秒の「タメ」がつくられ、開閉時の安心感や優雅さも演出されている。

一方、最新のオープンカーであるLC500コンバーチブルにはオープンドライブをより快適に楽しめる機能も豊富に採用されている。冬のオープンドライブを温かく保つネックヒーターは体型に合せた風向調整機能まで備わるのが他車にはないこだわりだ。このような目に見えない細やかな気遣いがレクサスらしいエアコンディショニングは空調もしかりで、エアコン/シートヒーター/ステアリングヒーター/ネックヒーターの協調制御を実現させ、オープン時は車速と連動した温度制御も行われる。さらに空間のノイズコントロールはより広い周波数まで制御され、自然吸気V8エンジンサウンドもオーディオもよりクリアな音質をオープン/クローズ時ともに楽しむことができる。ここまでホスピタリティが充実したオープンカーは記憶にない。

ボディを間近で眺めたとき、その顔が歪んで映らないようにという配慮もされた「鏡面仕上げ」塗装は、離れたところから眺めても光を味方につけてフォルムを美しく魅せてくれる。

ちなみにオープンカーは多少の雨ならフロントウインドウが受けた風が頭上を通る、目に見えない“風の屋根”ができるがイザというときにスマートなソフトトップの開閉もできるにこしたことはない。速度約50キロ以下であれば走行中でもソフトトップの開閉操作は可能。そしてそこにもまたレクサスのこだわりがある。幌の開閉動作ならぬ所作に書道の三折法に倣い、動作に入る前に0.2秒の「タメ」がつくられ、開閉シーンを優雅に演出してくれるのだ。そのような制御を考えるレクサスもレクサスだが、それを可能にする技術が現代のオープンカーをより魅力的に進化させているのは間違いない。

クルマという移動可能な個の空間も様々。最新の人間工学や技術を用いたインダストリアルデザインの凝縮を解き明かすのも面白いと興味を持っていただけたら嬉しい。

LC500 Convertible

LC500コンバーチブルはクーペモデルをベースに高剛性かつ軽量な専用ボディを開発。全長×全幅×全高=4770×1920×1350㎜のボディにV型8気筒自然吸気ガソリンエンジンを搭載し、10速ATが組み合わされている。
今回試乗したLC500コンバーチブルの最高出力は477ps、0~96km/hの加速は4.6秒、最高速270km/h(リミッター作動時)というパフォーマンスを発揮する。

#ロードサイド ストーリー
カージャーナリスト飯田裕子さんと考える 私的プライベート空間学
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