近隣の青山通りのカーディーラーのショールームにはよく立ち寄るけれど、こちらの「カッシーナ・イクスシー青山本店」には、初めて足を踏み入れたというモータージャーナリストの飯田裕子さん。20世紀を代表するマスターピースから、最新デザインまでが並ぶ店内で「写真や映像で見たことのある名作家具がたくさんありますが、やはり本物を実際に見て、触れられるというのは違いますね」と、ソファに座りながらその感触を確かめるように話す。この日、店内を案内してくれたカッシーナ・イクスシーのPR、南野浄香さんは、「デザイナーたちが描いたものを形にするだけでなく、座り心地もよいものとして実現するのが『カッシーナ』の強みです」と言う。
「カッシーナ」は、イタリアモダンファニチャーのリーディングブランド。ル・コルビュジエ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアン、フランク・ロイド・ライト、ジオ・ポンティら20世紀の巨匠たちによる数々の名作を擁するほか、フィリップ・スタルク、パトリシア・ウルキオラ、ロナン&エルワン・ブルレックら現代を代表するデザイナーとのコラボレーションにより、そのコレクションは拡大し続けている。日本における「カッシーナ」の正規輸入代理店である「カッシーナ・イクスシー」では、そのほかにもイタリアブランドの「チェコッティ・コレツィオーニ」や「アリアス」、オリジナルブランドの「イクスシー」を展開。さらにイタリアブランドを中心に照明、ベッドリネン、テーブルウェアやフレグランスなどインテリア小物も揃い、トータルで上質な暮らしを提案している。
こちらは1929年に発表され、「休養の為の機械」とル・コルビュジエが呼んだ「LC4」、世界一有名な寝椅子だ。それまでにない発想で作られた美しい寝椅子は、身体の線に合わせて綿密にデザインされたシートのカーブ、そして無段階で角度を自由に変えられることで、快適な座り心地をもたらす。
「この寝椅子『LC4』も、本物に座るのは初めて。複数のベルトを使った背面の構造は、昔のフランス車を思い起こさせます。スチールパイプにレザー、それだけなのになぜこんなに気持ちがいいんだろう。体圧が分散されて楽なので、このまま寝てしまいそう」と言う飯田さんに、「実際に産業医の先生も、仮眠をするにはこれくらいがちょうどいいと言われてました。15〜30分程度の昼寝は集中力向上に有効と言われていますが、ベッドでしっかり昼寝をすると30分以上寝てしまったりして、そうすると返って眠気が強くなってしまうんだそうです」と南野さん。
無垢材の美しさが際立っていたのは、3階の「チェコッティ・コレツィオーニ」のゾーン。なめらかに続く木製パーツは、それぞれがしっかりと馴染むよう工程ごとに時間をかけて木材を休ませているのだという。芸術作品のような家具の数々に、飯田さんも感嘆のため息をもらしていた。「マーロウ キャスター スウィベルチェア」に座り、職人の手仕事で磨き上げられたなめらかなウォールナット材のアームレストを撫でながら「若い頃に初めてティファニーのリングを手にしたとき、その内側のぬるっとしたなめらかな感触に驚き、見えないところの仕上げもいいものってすごいなと感じたことを思い出しました」と教えてくれた。
こちらの広々とした一人掛けソファは、フィリップ・スタルクの「プリヴェ」。まるでベッドのように広い座面とサイドテーブルのような幅広のアームレストは、ソファでの過ごし方を新しいものにしてくれる。
「パリッとした見た目だけれど、座ると吸い付くようなレザーの柔らかさを感じますね。ステッチもなめらかで、ボタン部分に触れることはなく、ソフトな座面に対して同じ見た目でもアームレスト部分は固め。見た目のおもしろさだけでなく、使う人の心地よさをディテールまで徹底して追及しているのがわかりますね」と飯田さん。
南野さんはレザーについて「『カッシーナ』では主に“フルグレイン”と呼ばれる耐久性に優れた最高級レザーを使用しています。さらに染料仕上げで自然の風合いを保っている素材は、毛穴に空気がたまって柔らかいのです。天然素材ならではの小さな傷や、牛が蚊に刺された跡などがあることもありますが、それらは極力目立たない部分に使うなど工夫されています」と説明してくれた。
「ゆったりとした座り心地なのに、腰の部分は少し固めの芯材を使っていたり、背骨のS字にフィットして背中はしゃんとします。レザーのヘッドレストは車のシートにもこういうものがありますよね」と飯田さんが言うのは、「キャブ ラウンジアームチェア」。光を受けて輝くレザーの艶や、細部の仕立てに「こんな椅子が家にあったら、早く帰ってくつろぎたくなんだろうな」とため息をもらす。
不動の人気を誇り、「カッシーナ」のソファの代名詞ともいえる「マラルンガ 」。ふっくらとしたクッションを折り曲げたような、ユニークなシェイプは一度見たら忘れられない。「さすがいいソファは立ち上がると座っていた跡がふっくらと戻って形崩れしないし、座っていても疲れませんね」と言う飯田さんに、「長く使えるものなので、10〜15年で張り地の交換をする方が多いですね。レザーの場合は20〜30年かけて育てていく楽しみもあります」と南野さん。
「カッシーナ・イクスシー」の店内を巡り、「車に関しても、実際にシートの座り心地、ドアノブやグリップを手にしたときの感触を味わってみて欲しいから、いつも私は『とにかく乗ってみて』と言っているのですが、インテリアについてもやはり実際に体感することが大切なのだと改めて感じました。いい時間を過ごすために作られているもの、作り手の思いを感じるものというのは、使うたびにそれが伝わってきます」と飯田さんは振り返る。車も家具も徹底してクオリティにこだわって作られる本物は、触れるたび、座るたびにその品質の確かさを実感できるもの。近年、名作と呼ばれる家具に関してはデザイナーの著作権が切れた後に、ジェネリック家具やリプロダクト品と呼ばれるものも多く出回っているけれど、やはりデザイナーの設計図に基づき、一緒に家具づくりをしてきたオリジナルの製造元のものに叶うクオリティのものはない。
自宅にも座るのが待ち遠しくなる、プライベートシートを
「車の世界ではまず安全性が最優先ですが、ドライバーが眠っているうちに目的地に到着するというような自動運転がプライベートカーでも進めば、シートはさらに寛ぐためのものへと変わっていくでしょう。そんな時代にはますます車とインテリアの世界は近づいていくのではないでしょうか」と飯田さんは言う。実際に車のシートも家具メーカーと協業しているところが多くあり、エルゴノミックなデザインに磨きをかけた美しいチェアやシートの数々は、本物を使った空間に身を置くことの心地よさを教えてくれる。運転中も家でもシームレスにプライベート感を味わうために、自宅にも自分専用のシートを取り入れてみてはいかがだろうか。仕事中の気分転換に、寝る前のひとときに、心地よく快適なシートポジションを作ってくれる家具が、豊かな時間を生み出してくれるはずだ。
外苑前駅至近、カーディーラーのショールームも多い青山通りにある「カッシーナ・イクスシー」。家具のほか、キッチン、カーテン、照明、アート、アクセサリーまで、トータルでインテリアコーディネートを依頼することも可能だ。
Cassina ixc. Aoyama shop
カッシーナ・イクスシー青山本店
107-0062 東京都港区南青山2-12-14
ユニマット青山ビル1、2、3F
Tel. 03-5474-9001
www.cassina-ixc.jp