遊ぶ| ぐんま昆虫の森

昆虫への並外れた愛と情熱に出合う
広大な森と巨大な建築を巡る冒険

食べる| Bistro Finbec Masami

コスパ抜群の古民家ビストロで
本気のフレンチとチーズ料理を堪能

食べる| Bryü

流通させない“ロコ”なビールは
神様のすむ、社の横で造られる

買う| パティスリーナチュレル ミヤケ

目印はシトロエン2CV!
新鮮なフルーツを贅沢に味わうケーキ

昆虫への並外れた愛と情熱に出合う
広大な森と巨大な建築を巡る冒険

ぐんま昆虫の森

月面基地か、近未来のトーチカを思わせるような全面ガラス張りの巨大なドーム型の建物が、広大な森の中に突如として現れる。昆虫をテーマに群馬県が運営する施設「ぐんま昆虫の森」の昆虫観察館だ。周りに広がる里山は、45ヘクタールにも及ぶ。

昆虫、それも生体を中心に展示していること。自然の中で自由に虫を探し、手に取って観察するといった「体験」ができること。そして、東京ドーム約10個分の広さ。この3つの条件を同時に満たす施設は、国内ではもちろん、世界でも珍しい。

ユニークな建物は3階建てで、建築家の安藤忠雄が設計した。屋根に形状の異なる200種類のガラスを1300枚近く使い、ゆるやかな局面を描くアーチ状に仕立ててある。その下に広がるコンクリート造りの長い階段では、足音や声が反響する。その面白さに夢中になった子どもたちが時折、はしゃいで駆け回る。

ガラス張りのエリアは「昆虫ふれあい温室」だ。天井高が約25m近く、床面積は1100㎡の広々とした空間には、沖縄・西表島を模した亜熱帯の世界が再現され、オオゴマダラやツマムラサキマダラ、シロオビアゲハなど、無数のチョウが飛び回る中を歩いて観察できる。

温室の中は、まさに楽園。扉が開くと、しっとりと温かい空気が流れ出し、ガジュマルやソテツといった南国の木々が勢いよく茂るさまが目に飛び込んでくる。花々の彩りも鮮やかだ。ハイビスカスの赤や、ミルク色の月桃の花がほころぶと現れる黄色。セロシアはキャンドルの炎のように先端をピンク色に染めている。葉陰を覗くと、珍しい色のバッタやカエルと目が合う。

里山エリアには年間を通じて2000種類もの昆虫が生息している。3分の2を占める雑木林のほか、水田や草原、小さな沼、桑畑などがあり、歩いていると次々に景色が変わる。見つけた昆虫を持ち帰ることはできないものの、探検気分で探し回ったり、虫取り網で捕獲する楽しさがあり、子どもはもちろん、大人でもつい、夢中になってしまう。

昆虫観察館には、温室のほかにもさまざまな展示スペースがあり、テラリウムでは40種類ほどの昆虫や両生・は虫類を見られる。これは「昆虫のすばらしい世界」コーナーで展示されているマルスゾウカブト。オスは10cm前後と大型だ。
里山エリアでは、スタッフが日々、フィールドのメンテナンスに励む。
里山エリアには雑木林のほか、水田や草原、桑畑など、さまざまなスポットが点在している。これは「冨士山沼ゾーン」の池。
里山エリアでは、年間2000種類もの昆虫が生息しており、自由につかまえることができる。ただし、持ち帰りはできないので、観察を終えたら放そう。

こうしたハード面の特長もさることながら、この施設の最大の魅力は、スタッフの情熱にある。言動の端々から、虫が好きでたまらない、本当に愛おしい生き物だ、と思っていることが伝わってくるのだ。

雑木林のなかで整備をしている職員に会うと、「こっちこっち」と手招きされた。カブトムシが集まって蜜を吸う、クヌギの木を教えてもらう。温室で蜘蛛の巣に掛かったチョウを見つけ、スタッフに知らせると、声をかけられたスタッフは「大丈夫かな」と心配そうに駆け寄って手際よく放してやり、「ああ、よかった」と微笑む。

主に管理を担う職員も、虫たちとの触れ合いを大切にしている。昆虫専門員の筒井学さんは普段、講座を開催したり、展示の企画などを担当しているが、30個近くあるテラリウムのメンテナンスだけは毎朝、1時間半かけて自ら行う。

「私なりに展示へのこだわりがあるんです。見たときに、驚きのあるものにしたい。ただケースに虫を入れて、エサのゼリーを置いて、枝を転がす、みたいなのが大嫌い(笑)。虫たちの世界を完全に再現とまではいかなくても、ちゃんと生きた植物を入れて、彼らの暮らしを作って。そうするともう日々、汚れるものなので、ガラスを拭いて、エサを替える。お客さまがケースを覗いて、うわあ! って喜んでくれるのを見るのが、楽しみというか、やりがいというか。これだけは人任せにできない、朝のルーティンです」

そして整えられたガラスケースは美しい。眺めていると、懐に小さな宇宙を抱いているような気持ちになる。

そんなスタッフたちの情熱の、源流ともいえる人物がいた。名誉園長で昆虫研究者だった、矢島稔さんだ。開園は2005年だが、1999年に園長に就任して企画から携わったのち、2013年から名誉園長を務めた。

建物内に標本を陳列し、観るだけで終わる“博物館”ではなく、「本物の自然のなかで虫たちと触れ合い、体験できる施設」の実現にこだわった。里山という場所には、森があり、川が流れ、畑が広がっている。そこでは、人も虫も同じ生き物として互いに影響し合いながら、生態系の一部を成している。そのつながりを理屈ではなく体で感じ、生命の大切さを知ってほしいと強く願っていた。

15歳で終戦を迎えた際、栄養失調と肺結核の疑いで医師から安静を命じられたことをきっかけに、アゲハチョウの観察を始め、昆虫の魅力にとりつかれた。東京・練馬にあった遊園地の豊島園や、多摩動物公園で昆虫館の開設に携わったあと、東京動物園協会の理事長などを務めたほか、NHKのラジオ番組「夏休み子ども科学電話相談」の回答者としても30年以上活躍し、人気を集めた。

22年4月に91歳で亡くなったばかりだ。この世を去る前日も、入院先である都内の病院で、「明日、群馬に行かなければ」と口にしたほど、思い入れの強い場所だった。

「ぐんま昆虫の森」には、その熱意が確かに受け継がれている。何年もの時間をかけて降り積もった落ち葉をさくさくと踏みしめながら雑木林を歩き、テラリウムを覗きながら、虫たちの時間が人間のそれよりもずっと速く流れることに思いを馳せると、退屈ないつもの風景が突然、切実なものとして目の前に迫ってくるように見える。日常に新たな視座をもたらしてくれる、かけがえのない場所の1つだ。

しかし、閉鎖の危機もあった。開館から3年を迎えようとした08年、県による事業仕分けの対象となったのだ。建設費が71億円以上かかった“ハコモノ”であり、また、特長でもある敷地の広大さゆえに維持管理費がかかりすぎるという理由からだった。事業費は半分以下の1億円程度まで削られ、人件費や企画展の費用も見直しを迫られた。冬場も温室の暖房を切らざるを得ず、亜熱帯の植物が枯れる事態にもなった。

そんななか、存続を賭けて練り直した企画は、今も魅力を放つ。いつもは閉園している夜間に里山フィールドを訪れ、各所で待機しているスタッフにポイント尋ねながらホタルを探す「ホタル鑑賞会」。館内で、ノコギリクワガタやアマミナナフシ、ニホンカナヘビなど、さまざまな生き物を手のひらに載せ、触り方から特徴まで丁寧に教えてもらえる「ふれあいコーナー」(現在、新型コロナ感染症拡大防止のため休止中)。

いずれも、スタッフとして来園者を迎えたのは、近隣住民らで構成するボランティアが中心だった。職員がボランティアに昆虫についての知識を伝え、学んでもらうなど、企画が実現するまでには互いに手間も時間もかかったが、来園者からの人気は高かった。08年に8万人台だった入園者は、18年度には13万人を超えた。

コロナ禍でボランティアに頼りにくくなってからは、職員の知識や経験を生かした企画にも力を入れ始めた。職員が園内を1時間ほどで案内し、その時期にしか見られない昆虫や植物について解説する「里山あるき」などが人気だ。夏休み期間なら、樹液に集まって戦うカブトムシや羽化するセミを探し、生態などの解説を聞く「夜の雑木林の昆虫探検」といった企画もある。ほかにも、平日・週末を問わず、バラエティに富んだプログラムが複数、開催されている。

「ぐんま昆虫の森」は広大なので、効率よく楽しむにはコツがいる。ギャラリーで、おすすめの巡り方を紹介する。

開園と同時に、まずは昆虫観察館へ

丸1日たっぷり楽しめる広い施設なので、9:30の開園と同時に入園するのがおすすめ。
まずは、昆虫観察館へ。3階のエントランスを入ってすぐの受付で、施設全体の位置関係が分かるフィールドマップと観察館のフロアマップ、入園のたびにポイントが貯まるポイントカード、スタンプラリーの用紙をもらおう。ポイントカードは3ポイント貯まるとオリジナルグッズをもらえる。
次に昆虫観察館2階のクラフトコーナーへ。その日に行われるイベントの受付を済ませたい。カウンターに参加希望者のためのボードが設置されているので、名前などを記入しよう。これで、開始時間まで安心して遊びに行ける。
虫の塗り絵に色鉛筆で彩色をし、缶バッジに加工するといった「クラフト体験」は、虫が苦手な女児でも楽しめると人気。加工の際には職員が「塗り絵に魔法がかかってバッジになるよ」と盛り上げてくれる。
無数のチョウが飛び交う中を歩いて観察できる「昆虫ふれあい温室」の入り口は、昆虫観察館の2階にある。
チョウの楽園を堪能した後は、すぐ隣の別館へ。
別館には、昆虫関連の書籍を揃えた「フォローアップ学習コーナー」があり、書棚は圧巻の迫力。
蔵書数は約2万冊。昆虫をテーマにした書籍をこれだけ集めた施設は珍しい。
昆虫関連の書籍だけでなく、鳥や魚など生き物についての本も並ぶ。
別館にはミュージアムショップも併設されており、昆虫グッズが充実している。
Tシャツや昆虫スナックのほか、虫取り網なども購入できるので、フィールドに出る前にチェックしたい。

午後は、スタンプラリーで里山を巡る

里山フィールドへは、スタンプラリーの用紙を持って行こう。11カ所のポイントで昆虫のスタンプを押し、コンプリートすると受付カウンターで景品をもらえる。ポイントを探しながら歩くことで、特徴の異なる複数の里山エリアを迷わず巡ることができる。
里山フィールドの3分の2を占めるのが雑木林。夏場はクヌギやコナラの木に、カブトムシやクワガタが集まる様子が見られる。
フィールドで捕まえた虫を持ち帰ることはできないので、虫かごや遊具の持ち込みはNG。虫を捕まえたら、手に取ってじっくり観察してみよう。
「かやぶき民家」は、1870年代の養蚕農家を移築したもの。土間や縁側といった昔の間取りが再現されている。
かやぶき民家では養蚕も行っており、蚕を手に取って観察することもできる。
かやぶき民家に飾られている「削り花」。ニワトコの木を花の形に削り出して作ったもの。小正月飾りの1つで、養蚕の成功や健康を願った。昔の暮らしを彩った小物を集め、当時の日常を再現している。
かやぶき民家の隣の畑では、桑を栽培している。収穫した葉を蚕に与える「桑くれ体験」を実施する時期も。
かやぶき民家にある糸枠。鍋で繭を煮て1本の糸にばらしたあと、数本を合わせて糸枠で巻き取り、生糸にした。
かやぶき民家では竹ぼっくりや羽子板などレトロな遊びを体験できるほか、未就学児が楽しめるおもちゃも揃っている。

月夜野きのこ園ぐんま昆虫の森・新里

住所/群馬県桐生市新里町鶴ヶ谷460-1
電話/0277-74-6441
営業時間/9:30~16:00(入園は閉園の30分前まで)
休/月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始、メンテナンスのための臨時休園はHPで確認
駐車場/300台

HP

美食の歴史をもつ、古き織都を味わう

織都(しょくと)と呼ばれ、織物産業の中心地である機場(はたば)として栄えた桐生市は古くから、流行を先取りする美食の町として知られた。糸商や買継商といった業者の接待のほか、政治家や文化人との交流が盛んだったからだ。すき焼きや鰻、天ぷらのような和食店はもちろん、大正時代にはフルコースで料理を提供する本格的な西洋料理店が登場し、「桐生の鹿鳴館」と呼ばれてにぎわった。そんな歴史を彷彿とさせるグルメスポットを3店、紹介したい(本文中の価格はすべて税込み)。

コスパ抜群の古民家ビストロで
本気のフレンチとチーズ料理を堪能

Bistro Finbec Masami

織物業を手がけていた機屋の蔵や、紡績工場として使われていたのこぎり屋根の建物など、歴史的な建造物が多く残る重要伝統的建造物群保存地区。その一角にある、古民家を改装したビストロが「ファンベック マサミ」だ。

鴨もも肉のコンフィ(2600円)や仔羊背肉の香草焼き(3500円)、牛ほほ肉の赤ワイン煮込み(3000円)といった本格的なフランス料理を、カジュアルな雰囲気の中で楽しめる。いずれもスープやサラダ、パンまたはごはん、ドリンクが付いての値段で、リーズナブル。メインはもちろん、自家栽培の季節野菜をふんだんに使ったガルニチュールも合わせると大満足のボリュームで、お腹がしっかり満たされる。コストパフォーマンスは抜群だ。

特にオススメなのが、チーズを使った料理。シェフの大須賀正己さん自身がチーズ好きというだけあり、ラクレット(2400円)やチーズフォンデュ(3000円)は奥行きのあるしっかりした味付けの逸品。こちらももちろん、セットでの価格。さらに、熱々のオニオングラタンスープのほか、ガルニチュールのアクセントとしても巧みにチーズが使われ、そのこだわりを確かめられる。箸や子ども用の食器も用意されており、子連れでも気兼ねなく訪れることができるのもうれしいポイント。

大須賀さんは、市内のグランメゾンとして知られた「ファンベックすずき」で11年間、修業を積んだ。北関東で2021年に唯一、食べログ百名店に選出され、22年に惜しまれながら閉店した「シュマンドール」の前身にあたる店だ。店名に受け継いだファンベックとは、フランス語で「尖ったくちばし」を意味し、転じてグルメを指す。確かな技術を基に生み出す料理がファンを集め続け、独立してからもうすぐ20年を迎える。そんな“本気のフレンチ”を気軽に楽しんで。

Bistro Finbec Masami

住所/群馬県桐生市本町2-5-6
電話/0277-43-3132
営業時間/11:30~14:30(14:00L.O.)、17:30〜21:30(20:00L.O.)
休/水曜日
駐車場/6台

HP

流通させない“ロコ”なビールは
神様のすむ、社の横で造られる

Bryü

桐生のメインストリートである、本町通りの起点として鎮座する桐生天満宮。そのすぐ隣、鎮守の森と社を臨む道沿いに、町の人たちが1軒目として、あるいは〆の1杯を求めて集う、クラフトビールのブリュワリー「Bryü(ブリュー)」がある。

1階はスタンディングバー。2階は市内で人気のハンバーガーショップ「Ju the burger」が運営するレストラン。3階の屋上にはタープが張られてランプがともり、景色が開けて遠くの山並みが見える。どのフロアでも、ビールを味わうことができる。

提供する醸造ビールは常時6種類。240Lのタンク4つを順番に使って週1回、仕込みをし、1カ月後に樽詰めする。定番商品はほとんどない。毎回、新しいレシピを考え、やがて訪れる季節を先取りして仕込む。盛夏の時期には、軽くて苦みの少ないものを。秋に向かうころには、しっかりした味わいで落ち着いて飲めるものを。冬はどっしりした黒ビールや、麦芽の甘みを感じられるビール、アルコール度数の高いワインのような趣のビール、柚子やシナモンを利かせたビール──。

ブリュワーの栗原生さんは常に、頭の中で2〜3種類のレシピを考えているという。それを書き起こし、仕込みに挑む。「もう体に染みついちゃってるので、自分からすっと出てくるというか。これとこれを合わせるとこうなるよね、みたいな理屈もあるんですけど、理屈を通り越して感覚的にすっと出てきちゃう」と話す。

すべてのビールにシルク抽出液を入れている。桐生で生産している絹を分解して抽出したものだ。酵母の発酵が活発になって、糖をアルコールに変換する効率が上がり、キレよく仕上がるという。1杯の価格は1階が600円、2階が660円。1階では1ml当たり1.2円で量り売りも行っている。店頭でオリジナルのグラウラーを買うこともできるし、持ち込んでもいい。

町の外には流通させない、と決めている。多くの人に知ってもらうおうと瓶や缶の商品を作ると、初期投資や人件費、販管費などのコストがかさみ、1杯の値段に転嫁せざるを得ない。「美味しいクラフトビールが手ごろな価格で飲めることを大切にしたい。地元の人たちが仕事帰りとかにちょっと立ち寄って、リラックスできる場所にしたいっていう思いで作ったお店だから」と栗原さん。実際、徒歩や自転車で訪れるお客が多い。クルマ社会の町で、珍しい風景だ。

コンセプトは「Keep Local, Keep Small, Make Fun」。規模を大きくして世界を目指す、などと言うことはせず、あくまでも地元に根ざした店作りにこだわる。1人で仕込めるだけの量をテンポよく回していく。イベントにもこまめに出店し、色々な人と関わりながら、面白いことを発見して、地域のハブとして町を盛り上げていきたい、という思いを込めた。

理想は、町の東西南北すべてのエリアに小さな醸造所ができること。「大手からは相手にされないぐらい、ちっちゃくてローカルな存在でいたい。そんなブリュワリーの数がぽこぽこ増えていって、どこに住んでいても500mくらい歩けば美味しいクラフトビールを飲める。そんな町になったらいいなって」(栗原さん)。なんだかWeb3.0にも似た、クラフトビールでつながる町の、未来予想図。始まりの味は爽やかか、華やかか、はたまたほろ苦いのか。じっくり、たっぷり、味わって。

1階のスタンディングバーに設置されているサーバーのタップ。上部は斜めにカットされている。これは、市内に産業遺産として残る、のこぎり屋根をイメージした形。
お店の向かいは桐生天満宮。「神様の横で、お酒を造るっていうのも、いいかなと思って(笑)」(栗原さん)、この場所を選んだ。
4種類のビールの味を試せる「飲み比べセット」(1200円)が人気。1階では6種類、2階では8種類から好きな味を選べる。
お店の右手には群馬大学理工学部の桐生キャンパスがある。「20歳になって最初にお酒を飲む場所になれたらいいな、なんていう思いもあって。第1印象ってすごく大事じゃないですか。お酒に対する見方や飲み方が方向付けられる。だから、学生さんに美味しいお酒を最初に飲ませてあげたい」(栗原さん)という思いも、この場所を選んだ理由の1つ。
8月30日時点のラインナップは、オレンジピールとコリアンダーを含んでさっぱりしたホワイトビールの「ベルジャンヴィットフォース」、強めにローストしたモルトの香ばしい味わいにバナナのような豊潤な香りが重なる「シン・デュンケルヴァイツェン」など。フルーティーな味が揃っていた。
屋上からの眺めに引かれ、築50年近い鉄骨造りの民家を改装した。2階はもともと、床の間や掘りごたつのある和室だったが、今はフードやデザートを楽しめるレストランフロアに。
「桐生は美味しいものや質の高いものに対するアンテナが磨かれている土地柄。ここでクラフトビールを造ったら、受け入れてもらえるだろうなと感じて、この場所を選んだ」と栗原さん。写真は古くからの歓楽街である仲町付近。飲み屋が多く、週末になるとにぎわう。

Bryü

住所/群馬県桐生市天神町1-4-11
電話/0277-88-9835
営業時間/【1F】17:00~21:00(土日15:00~)【2F】17:30〜23:00(土日17:00〜、いずれも22:00L.O.)
休/月曜日、第3日曜日
駐車場/10台

目印はシトロエン2CV!
新鮮なフルーツを贅沢に味わうケーキ

パティスリーナチュレル ミヤケ

渡良瀬川の土手沿いを走っていると、南仏を思わせる温かみのある、白い外壁の家が見えてくる。軒先に伸びたテントの下に、ブルー×ホワイトという爽やかなツートンカラーのシトロエン2CVが停まっているのを見付けたら、そこがケーキ店「ミヤケ」。1986年にオープンしてから36年目を迎え、市内外のお客に長く愛され続けているお店だ。

フルーツや野菜などのフレッシュさを生かしたケーキが揃う。上皇ご夫妻や天皇陛下がそれぞれ、1999年と2006年に桐生を訪れた際に提供し、「ロイヤルパンプキン」「皇室献上プリン」などと呼ばれて有名なかぼちゃプリン(370円)や、季節のフルーツを使ったロールケーキ(450円〜)、イチゴや桃といった旬の果物をたっぷり載せたタルト(490円〜)など、みずみずしいケーキがショーケースに並ぶ。バターやクリームばかりに頼らず、素材の旨みを主役に据えることで、甘いものが苦手な男性からも「後味が軽やか」「すっきり食べられる」と評価が高い。

ムッシュと呼ばれるオーナーパティシエの三宅新さんも、先述の大須賀シェフと同じく「ファンベックすずき」の出身。グランメゾンでアシェット・デセール(皿盛りのデザート)として提供されるクオリティの鮮度と味を、持ち帰れる商品に、と腕を振るう。季節ごとに食材の最適な仕入れ先を探し、レシピの配合も調整しながら、味の質を保つ工夫を凝らす。季節のケーキではもちろんだが、定番商品として通年並べる、かぼちゃプリンやいちごのタルトでも、同様だ。

看板やラッピング時のシールなどに描かれている2CVのイラストは、シトロエンをモチーフにした色鉛筆作品で知られる画家、故・今村幸治郎さんの手によるもの。フランス車の愛好家が長野県茅野市の車山高原に集まるイベント「フレンチブルーミーティング」に参加した際、出店者として訪れていた今村さんに出会い、制作を依頼したという。

そもそも2CVを選んだのは、リアルなフランスらしさを追求したかったからだ。「フランス菓子の店」を名乗るからには、お客さまにはフランスへ旅したような気分を味わってもらいたい──。そんな思いでお店の内外装を作り上げ、クルマもその雰囲気に自然に溶け込むものを探して、2CVにたどり着いた。

味覚でも、視覚でも、本物へのこだわりを堪能できるお店で、お気に入りの一品を探したい。

パティスリーナチュレル ミヤケ

住所/群馬県桐生市広沢町間ノ島393-6
電話/0277-52-5852
営業時間/10:00~19:00
休/月・火曜日(祝日の場合は営業予定)
駐車場/第1駐車場6台(店舗前)、第2駐車場10台

HP

惹かれる桐生の町 【前編】
肩書きのない町の、日常のなかへ

音楽プロデューサーのmabanuaや写真家の石内都、FUJI ROCK FESTIVAL ’22でユニークな存在感を放って会場を盛り上げた音楽ユニット「どんぐりず」──。カルチャーシーンを牽引するクリエイターたちが都心を離れてひそかに移り住む、あるいは拠点として暮らす町が、北関東にある。群馬県桐生市。この町は、分かりやすい刺激を与えてはくれない。むしろ、問いを投げかける。お前は何に気付くのか。そして何を受け取るのか。それは、感受性を確かめる旅。

惹かれる桐生の町 【中編】
「消滅可能性都市」と呼ばれた場所で

かつて織都と称えられ、織物産業の中心地として華やかに栄えた群馬県桐生市。しかし、ある時期を境に「消滅可能性都市」と呼ばれるようになり、一度は時を止めたように見えた。それから数年。時の流れに耐えてなお、残ったものに惹かれて移り住む人々が増え、町の息づかいが変わり始めた。彼らは、とある旗を静かに掲げ、まだ見ぬパノラマを目指して未知のトレイルを行く。今、この町で目にするものは、未来へ続く道の途上の、ささやかな佳景だ。

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