2日目は海岸線を離れ、一路アルプスが連なる内陸へとハンドルを向ける。最初の目的地は、ミシュラン2つ星のオーベルジュ、ウストー・ド・ボーマニエール。その後、ツール・ド・フランスの名所としても知られるモン・ヴァントゥの頂きを目指す。締めくくりは、そのモン・ヴァントゥの麓にある町、クリヨン・ル・ブラーブとなる。
星つきレストランが揃う南仏
フランスで食といえば、ミシュランガイド。1889年にアンドレとエドワールのミシュラン兄弟が創業したタイヤメーカーであるミシュラン社が「(クルマで)遠くまで走る楽しさを、より多くの人に味わって欲しい」との想いから作り上げたガイドブックだ。当初は、タイヤの修理方法や各都市のガソリンスタンドの場所などを案内する総合ガイドブックであったが、年を追うごとに進化を遂げ、エトワール(星)の数によってレストランの格付けを行う今のシステムにいたっている。
ご存知のとおり、今となっては世界中のレストランを格付けする美食のバイブルとしての地位を確固たるものにしているが、当然、地中海を母とする海の幸とアルプスの麓で獲れる山の幸が豊富な食材が揃うここ南仏にも、ミシュランの星を獲得したレストランが各地に点在しているのである。



セレブに愛された名店中の名店
そこでマルセイユを後にし、まず最初に向かったのが、2つ星を得ているオーベルジュ「ウストー・ド・ボーマニエール(L’Oustau de Baumanière)」だ。中世に栄えた王家の古城が建つレ・ボー・ド=プロヴァンスの街にある。エリザベス女王やピカソ、ハンフリー・ボガードなどが訪れたこともある名店中の名店で、初めての星を獲得したのは1949年にまで遡る。



フランスが誇るガストロノミー(美食学)を牽引する存在として知られるそのメニューには、マグロ、エビ、イカなど新鮮な地中海の魚介類に、ホームメイドのオリジナルソースを合わせた、シンプルながら洗練された料理が並ぶ。
食事もさることながら、石灰岩の洞窟を切り出し、装飾を極力排して作られた店内空間も圧巻だ。今でも世界各国から要人がその味を求めてヘリコプターで駆けつけるというのも頷ける。
“ツール”の聖地に挑む
舌とお腹を十二分に満足させたら、次は自転車の世界3大レースの一つとして知られる「ツール・ド・フランス」のなかでも、もっとも過酷な山岳ステージとして知られる「モン・ヴァントゥ」へと向かう。“プロヴァンスの獣”との異名をもつほどの難所で、標高1900mを少し超える高き頂きだ。剥き出しの石灰石がゴロゴロと転がる荒野のような険しい容貌が特徴で、「ミストラル」と呼ばれる強い北風が容赦なく吹きつけてくる。“獣”と呼ばれる由縁だ。



クルマで登坂する我々はまだしも、生身を晒されるサイクリストにとって、どれほど厳しいコンディションなのかは想像してみるしかない。しかし、さすが“ツール”の名所とされるだけあって、頂上を目指してペダルを踏み込むアマチュアサイクリストは数多い。彼らにとっては巡礼の旅なのだろう。ツール名物だが、道路に激励の言葉や選手の名前がペイントされている箇所も多く、目を閉じればまぶたの裏に、道路脇から大声をあげて詰め寄るファンの姿がまじまじと浮かぶようであった。


いくつかルートが存在するが、山の南部にあるブドワンの町から臨むと平均勾配7.43%の坂を一気に登ることとなる。そして現れるのが、幾度となくツールの歴史を刻む登坂決戦の舞台となってきたモン・ヴァントゥの頂上だ。比較的低地な様相のプロヴァンス地方にあって、アルプス山脈系に分類されるこの山の高度は飛び抜けていて、そこからの眺めには視界を遮るものがまったくない「絶景」の言葉にふさわしい眺めであった。



モン・ヴァントゥ登坂を終えた後は、麓の町、クリヨン・ル・ブラーブへ。この南仏エリアに点在する古い町の例に漏れず、戦術的理由から防御のために小高い丘の上に建てられた町だ。宿は、町の名前をそのまま採用した「オテル・クリヨン・ル・ブラーブ」。丘の斜面に沿って建てられたブティックホテルのようなオーベルジュで、食のクオリティはいうまでもなく、またプール、スパなども完備し、旅のエネルギーをリチャージするにはもってこいのホテルだ。



美食に数々の絶景のみならず、道中のロードプロファイル豊かなドライビングと、南仏がもつ醍醐味を文字通り五感で体感した1日となった。


