いざポールリカールへ
翌日、クリヨン・ル・ブラーブを後にして向かったのが、F1のフランスGPやGTレースなどの開催地として知られるポール・リカール・サーキット。このサーキットを建立したのは、1932年に地元マルセイユで創業したペルノ・リカール社創業者のポール・リカール氏だ。ペルノ・リカールは、フランスを代表するワイン・スピリッツのブランドで、美食に合うリカーを世界中に提供している。そのリカール氏が、私財を投入して1970年に同サーキットを開業、翌年からフランスF1GPの舞台として、数々の名勝負を目撃してきた。99年に氏が逝去すると、F1界のボス、バーニー・エクレストンがサーキットの経営権を引き継ぎ、そしてF1トラックを設計してきたドイツ人建築家、ヘルマン・ティルケの指揮のもと大規模な改修が行われることとなったのである。
ティルケ設計のハイテクサーキット
ポール・リカール・サーキットを前にして、まず目に飛び込んでくるのは、そのグラフィカルなカラーリングとデザインだろう。“サーキット”というと安全対策などの実用重視で、どちらかといえば無機質な造作のトラックが多いきらいがあるが、ポール・リカールはその対極にあるといっても過言ではない。
例えば、ランオフエリアは、グラベルを敷き詰める代わりに、緻密に計算された赤と青のグラフィカルな縞模様のデザインがターマックに施されている。コースを縁取る縁石に施された白色とあいまって、フランス国旗のトリコロールをイメージさせる。ゴッホ、セザンヌなどキュビズムから印象派まで多くの歴史的芸術家が居住・逗留した南仏ならではの粋な取り計らいというべきか。
コースレイアウトは170通り!
ティルケによる改修後に命名された「ポール・リカール・ハイテク・テスト・トラック」のサーキット名が示すとおり、通常ではあり得ないほどのハイテク技術が総動員されているのがこのサーキットの特徴だ。
例えば、コースレイアウト。サーキット自体は、起伏のほとんどないフラットなプロフィールだが、シケインなど細かな調整を組み合わせることにより、最長距離の5.861kmから最短の826mまでと、総計170通り近くものレイアウトを選択できる。また、ウェットコンディションを人工的に作り出すスプリンクラー装置を各所に備えているのも特徴。ひと言に「ウェット」といっても、64通りの異なるコンフィギュレーションに対応できるという万能ぶりだ。
ミシュラン3つ星の真骨頂
このポール・リカール・サーキットに隣接するのが、3つのミシュラン星が燦然と輝く「クリストフ・バキエ」。サーキットと目と鼻の先にあり、さらに空港も間近にあるため、世界各国からプライベート・ジェットに乗って集まるレース愛好家が、スポーツ走行やサーキット観戦と合わせて、ミシュランお墨付きの美食とオーベルジュ・ステイを楽しむケースも少なくないという。
マスターシェフは、レストランの名前にもなっているクリストフ・バキエ氏。各国の首長がパリを訪れるとフランス首相官邸に招かれ、料理を振る舞うほどその名声は広く知られている。食事は3種のコースから選ぶスタイルで、ボーマニエール同様、地中海で獲れた海の幸を中心としたメニューとなっている。
特別に厨房を覗かせてもらうと、そこはまるで修行の場であるかのようなピンと張り詰めた緊張感が漂っていた。各テーブルの食事の進み具合を常時把握し、抜群のタイミングで次の皿を供する。バキエ氏はすべての皿をサーブ前にチェックする徹底ぶりだ。最高の食事とサービス、その双方が揃って初めて3つ星となる。フランス最高級レストランの底力を垣間見た瞬間だった。
南仏の旅はドライブがベスト
南仏プロヴァンスほどドライブするにふさわしく、また楽しい土地はそう多くはないのではないか。旅の直後の贔屓目と高揚感を差し引いたとしても、そう結論づけてしまいそうなほど有意義な旅ができる土地であることを実感する今回のドライブとなった。
どこへ出かけるにもクルマで2〜3時間の距離という、“ちょうど良い”サイズ感であり、またアルプスや地中海をバックにする道中には、ミシュランレストラン、ワイナリー、ワインディングロードにハイテクサーキットまで南仏のライフスタイルを体感するコンテンツが勢ぞろいしているのである。日本からのアクセスは少々手間だが、それに見合う以上の驚きと絶景、美食の数々を備えている。