「出撃」ムードを後押しするプライマル・スクリームの『Rocks』
−幼い頃からよくご家族で旅行されていたそうですね。
そうですね。両親に連れられて毎週のように旅行に出掛けましたし、それこそ車で行くことが多かったですね。父親が本当にアウトドア好きで、夏はサーフィンやキャンプ、冬はスキーを楽しむ人なんです。だから、毎年恒例だったのは、夏の蓼科と冬の安比(あっぴ)高原。蓼科は父親の会社の保養所があったので、毎年一週間くらいは行っていました。安比高原のある岩手まで普通に運転して連れていってくれましたからね。だから、車内でラジオを聴いたりカセットテープを流したりっていうのは日常的な風景で、今でも自分が車で移動する時は必ず音楽をかけていますね。つい先週も蓼科に行ってきたのですが、3時間の道中はずっと好きなプレイリストを流して大声で歌いながら向かったのであっという間でした。
−今回のプレイリストを拝見すると、宇賀さんの年齢より少し上の世代に流行った曲が多いなという印象を受けました。
両親の影響もありますけど、そもそも私自身シティポップが好きというのもあって、自分が生まれた時代の音楽が大好きなんです。今はありがたいことにYouTubeでもSpotifyでも色々聞けるじゃないですか。昔はラジオの曲の部分だけを抜き出したり自分でカセットテープを編集していましたが、すごく楽になりました。今回は「もし旅に出るとしたら」と考えながら選曲したので、わたしの今の気分を反映したものになっています。 例えば1曲目のIKKUBARUの『Amusement Park 』は、6、7年前に出会った楽曲で、すごく瑞々しいシティポップ感があるというか。インドネシアのバンドですが、山下達郎さんに憧れているそうなんですね。晴れた空の下でグッとアクセルを踏んで出発するというイメージから最初の一曲に選びました。
−2曲目は、Penthouseの『ぼくらが旅に出る理由』。このカバーを知らなかったのですが、日産のCMのタイアップ曲なんですね。
このバンドはすごく人気ありますし、他にも好きな曲がたくさんあるんです。小沢健二さんのオリジナルももちろん良いのですが、これはよりドライブ感があるというか、今から車で旅に出るぞって気持ちを盛り立ててくれます。
−土岐麻子さんの『Rendez-vous in ’58(sings with バカリズム) 』。これは、土岐さんがセルフカバーされた楽曲(注:1)ですね。
土岐さんの曲も大好きで、ライブにも行かせてもらったことがありますね。この曲は、実際に旅をしているわけではなく、雨の降る月曜日に2人でどこへも出掛けられないけど、音楽で時空を超えた旅に出かけようっていうコンセプトなんです。85年のイビサでとか、58年のニューポートみたいな歌詞が出てくるのですが、実際に旅に出掛けなくても空想上で旅はできるんだなって、聞いてるだけですごくワクワクします。ちなみに一緒に参加しているのがバカリズムさんですけど、その歌声もすごく曲調に合っているんですよね。
−続いては、Primal Screamの『Rocks』です。
今回、ロックは絶対に入れようと思っていました。これは私の中で出発じゃなくて「出撃」ってイメージですかね。さぁ!戦いに行くぞって。もともと小学生のときに一番好きだったゲームが『首都高バトル』(注:2)なんです(笑)。その頃から本当に運転することに憧れていて、レースを走っている気分でよくプレイしていました。実際に18歳で免許を取得して初めて首都高を走った時は、すごく感動しましたし、大人になったんだなって一番実感できた瞬間でした。私にとって運転というのは趣味でもあるし、もちろん移動の手段でもあるんですけど、ちょっと戦いに行く気分というか。もちろん安全運転は大前提として、少しだけ武装できたような気分になりますね。しっかりとハンドルの触感があって、ギアをググッと入れる感じが好きですね。ちゃんと自分の「手足」になっている感じというか。デザインも含めて古い車に惹かれるのは、そういうところなのかもしれません。
−カルロス・トシキ&オメガトライブの『ヘミングウェイに逢える海』。これもずいぶん意外な選曲でした。
カルロス・トシキさんの歌声がすごく好きで、『君は1000%』なんかは私が生まれた年の曲なんです。昔からいい曲だなって思っていて、色々と掘っているうちに辿り着いたのが、この『ヘミングウェイに逢える海』です。ヘミングウェイっていうくらいだからおそらくカリブ海ですよね。個人的にも夏や海が好きなんで、今の時期のドライブではこの曲をよく聴きますね。
−Asobi(注:3)の『Time To Feel』 そして、ORIGINAL LOVEの『月の裏で会いましょう』と続きます。
Asobiは、最近すごく注目しているバンドで、大学のサークルで結成されたみたいですね。『Time To Feel』」っていうタイトルも、自由を感じるためにという解釈も出来ますし、旅もそういうものじゃないですか。色々なものを感じる時間という意味では、今回のテーマに合うかなと。『月の裏で会いましょう』に関しては、ドライブでは月の裏までは行けないですけど、私にとって旅に出るってそれくらいの気持ちなんですよね。まだ自分の知らない場所、見えないところに行くっていう感覚とマッチするかな思い選びました。ドライブの行きと帰りではまた気分も少し違うのですが、基本的に悲しいコードの曲があまり好きじゃなくて、今回は明るくてポジティブで、ちょっと艶がある曲を選んでいます。
−Idina Menzel 『Paradise(feat. Nile Rodgers)』(注:4)はどんな曲ですか?
これは「まさに!」っていう曲ですね。楽園にいる気分というかバケーションソングというか。今年3月にフィリピンのセブに行った時にたまたまプールサイドでこの曲が流れていて、すごく今の気分にマッチするなと思ってすぐに調べました。2番の歌詞で「ニューヨーク、ロンドン、トーキョー、あなたが行きたいところならどこにでも・・・」みたいな一節があって、歌詞に東京が入っているのもすごく好きなんですよね。
−ラストは、ゴダイゴの『銀河鉄道999』とSandra De Saの『pela Cidade』(注:5)です。
『銀河鉄道999』は私の地元、大泉学園駅の駅メロにもなっています。松本零士さんがずっと住まれていたからみたいですね。だから私にとっては、電車に乗って地元から出て行くみたいなイメージですかね。家は西武線で、予備校や大学も池袋でしたし、だいたいあのエリアですべて済ませていました。サンシャインで買い物して、映画を見てからロサ会館でボーリングしてみたいな。最近、池袋も一回ロケで行きましたけど、大学の建物が変わらないくらいで、昔と比べてすっかり綺麗になっていて驚きましたね。『Sandra De Sa』は、ポルトガル語で歌われている曲ですね。なんとなく愛の歌ってことだけで何について歌っているかは全然わからないですけど(笑)これも明るくてポジティブっていうイメージですね。
深夜0時『報道ステーション』の生放送終わりに向かうその先は?
−著書(『じゆうがたび』幻冬舎)には、The AvalanchesやNicki Minajの名前も出てきますし、在職中の夏休みにはイビサにも行かれているんですね。宇賀さんのパブリックイメージからすると新鮮な印象を受けました。
音楽はずっと好きでしたね。『報道ステーション』を担当していたときは、深夜0時に終わったら六本木で解放されるということもあって、クラブに行くこともありましたね。音楽とお酒が大好きな私にとっては、最高の場所ですね(笑)
−新しいアーティストや楽曲はどうやって見つけられるんですか?
ラジオもそうですし、個人的に好きなDJが世界中にいるので、彼らのミックスを聴いて見つけたりとかですかね。あと、どこかで曲がかかっていて気になったらすぐ「Shazam」※(周囲で流れている音楽を認識してくれるアプリ)するみたいな。
−海外でもパーティに行かれることはあるんですか?
ナイトライフが充実している都市だと、実際に見てみたいので行程の中で1日くらいは行くこともありますね。イビサもすごく楽しかったですよ。空港に飛行機が着陸した瞬間「フゥー‼︎」って歓声が上がって、もう日本とは全然ノリが違うというか。街全体も昼間はお土産屋すら全然開いてなくて、夕方からようやくお店がオープンするんです。で、夜から朝までがパーティ本番って感じでした。もちろん、遺跡とか旧市街とかビーチとかの観光名所もありますし、いい所でしたよ。なかにはヌーディストビーチがあって、女性の裸は多少見慣れていても、おじいさんの全裸とか本当に衝撃的で、どうしようみたいな(笑)
−宇賀さんが旅へ向かう目的や理由は何ですか?
見たことのないものを見てみたいとか、会ったことのない人に会いたい、食べたことのないものを食べたいという、純粋な好奇心ですね。自分が知らないことをできるだけ塗りつぶしていきたいんです。同じ場所でも、違う季節に行ったり、泊まる場所を変えれば、また違った景色が見られますしね。去年は12カ国行きましたけど、まだまだ行ったことのない場所に行ってみたいですよ。何か野良猫みたいなフラフラとした生活が理想というか。家でじっとしているよりかは、移動している方がストレス発散にもなるんです。自分では前世はきっと船乗りとか羊飼いとかの遊牧民じゃないかと思っていたんです。でも、占いで見てもらったら、高貴な身分なのかひどく病気がちだったのかわかりませんが、ずっと閉じ込められていた人らしく、いつも窓の外を眺めながらいいなぁと思って過ごした人生だったそうです。生まれ変わったら絶対に自由に外に出るんだという想いが強くて、現世では行動的になったのでは?なんて言われましたけどね。まぁ本当かどうかはわかりませんが(笑)
−今後、旅で訪れたい場所はありますか?
社会人になってから、まだ10日以上休んだことがないんです。だから2週間とか長期休暇をとってキャンピングカーに乗って旅するのも良いかなと。オーストラリアとかアメリカも良いですが、アイスランドには是非行きたいですね。やはり、自分で運転していると道や地形を自然と覚えるし、ナビを入れなくても大体行けるようになります。去年は、スペインのサン・セバスチャンからバスク地方の海沿いをフランス方面までドライブしたのですが、ちゃんと港町があってどこもすごく「絵」になるんですよ。何箇所かはクルマを降りて立ち寄ったりもしましたが、好きなところで止まれるというのもクルマの魅力だと思います。
宇賀なつみ(うがなつみ)
1986年東京都練馬区生まれ。
2009年立教大学社会学部を卒業し、テレビ朝日入社。入社当日に「報道ステーション」気象キャスターとしてデビューを果たす。同番組スポーツキャスターとして、トップアスリートへのインタビューやスポーツ中継等を務めた後、「グッド!モーニング」「羽鳥慎一モーニングショー」「池上彰のニュースそうだったのか」等、情報・バラエティ番組を幅広く担当。2019年に同局を退社し、フリーランスに。現在は、「土曜はナニする!?」(関西テレビ)、『SUNDAY’S POST』(TOKYO FM)のレギュラー出演に加え、『わたしに旅をさせよ』(『&TRAVEL』朝日新聞デジタル)、『Food topics』(『an・an』マガジンハウス)のエッセイ執筆など、多岐に渡って活躍中。
記事注釈
(注:1)2021年にリリースされたカバーアルバム『HOME TOWN ~Cover Songs~』に収録。土岐麻子が作詞、EPOが作曲を手掛けた楽曲を、バカリズムを客演に迎えてセルフカバーしたもの。
(注:2)1994年にスーパーファミコンのソフトとして発売された、公道を舞台にしたレースゲームシリーズ。首都高速道路を再現したフィールドで、実在する車種を走らせる臨場感が人気を博した。
(注:3)早稲田大学のサークルで出会った、3人のボーカルとギター、ベース、プロデューサー/DJから成る6人組のアーバン・ミクスチャー・バンド。
(注:4)アメリカの俳優・歌手のイディナ・メンゼルが、2023年8月にリリースした楽曲。ナイル・ロジャースがギターとプロデュースで参加した。
(注:5)ブラジリアン・ソウルを代表する歌姫 サンドラ・ヂ・サーが、1983年に発表したした3rdアルバム『Vale Tudo』に収録。2021年には復刻版がリリースされている。
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