自分を守ってくれる「クルマ」という“鎧”を身に纏えば、怖さもなくなる。
−クルマの免許は、上京してすぐに取られたんですか?
モデルの仕事を始めてから、目黒にある日の丸自動車学校で取りました。周りから、早めに取った方がいいよと言われて、とくにクルマを買う予定もなかったのですが、そのまま勢いで取りました。その後、ずっと欲しかったVWゴルフのカブリオレを購入したものの、初めて運転した日にぶつけてしまい、運転が怖くなって必要な時だけ乗るようにしていました。それを手放してから何年かペーパードライバーだったのですが、先にクルマを購入して、その後にそのクルマでペーパードライバー講習を受けました。デパートや病院など、よく行きそうな場所の駐車場で車庫入れを練習したり、首都高をぐるぐる回ったりして。首都高はすごく怖かったですね。今でも、首都高に乗る時は緊張します。
最初の頃は運転していても色々と苦労しました。ある日、狭い道で対向車と擦りそうで怖いとき、出来る限り端に寄せていたつもりが、多分私がもたついたんでしょうね。すれ違いざまに「はぁ〜〜」と大きなため息をつかれたこともあります (笑)
−今日もスタジオまで自走でいらっしゃいましたが、お車は何に乗られていますか?
ランドローバーのディスカバリーです。年式もそれほど新しくはないタイプですね。今のクルマは丸い形が多いから、角張ったフォルムに乗りたいと思って選びました。街中で自分と同じ車種を見かけると「やっぱり素敵なクルマだなぁ〜」と思います。運転していても楽しいですし。だから、もうしばらくはこのクルマに乗り続けようと考えています。
クルマを停めて車内でセリフを覚えたりもします。家族がいるとどうしても家の中に「個」の空間がないですし、クルマだと誰にも邪魔されないので。スマホのボイスメモにセリフを吹き込んでおいて、ひとりでぶつぶつセリフを言いながら運転しているので、はたから見ると奇妙な光景かもしれませんね(笑)
−お好きな道やドライブコースはありますか?
第三京浜は意外と空いているし、自宅からもアプローチもしやすいので気分的には落ち着きますね。気分転換にドライブする時も、例えば川崎のIKEAあたりまで行ったり。とくに買う予定のものもなかったりするんですけど、ソフトクリームを食べて帰るだけでも楽しいです(笑)ドライブしていて、周りの景色が変わると何となく視野が広がるというか、悩みや自分の凝り固まっていた気持ちが解放されるんですよね。車内で聴く音楽や空間も含めて、絶対に守ってくれる自分の味方のようで。どこに行くにしても「鎧」を纏って移動するような感覚で怖くないというのかな。何かそういう感覚はありますね。
−免許を取られてから、今のディスカバリーで何代目ですか?
何台目だろう? 最初にゴルフのカブリオレに乗って、次にBMW、それからジャガーのXJに乗りました。そのときは、ギャップというか結構びっくりされることも多かったですね。当時、夫が大きいクルマが好きだったので、薦められた記憶があります。そのあとXJから(ポルシェ)マカン、ディスカバリーなので、現在で5台目です。
−ジャガーのXJってチョイスもすごいですけど、台数もわりと多い方ですよね。
でも、『おぎやはぎの愛車遍歴』(BS日テレ)を観ていると、皆さんすごいなと思います。あの番組に出ているゲストの方に比べたら、私は全然カー・キャリアもないですから。たまに、周期で他のクルマに興味を持つこともありますよ。ベンツのGクラスカブリオレや2ドアのタイプは格好良いなと思っていますが、私にはちょっと似合わない気もします。それに非常にお高いですし(笑)あとは、バンデンプラスプリンセスも乗ってみたいですね。
レンタカーで聴くのは、レコード屋に通った“あの頃”の名曲群
−ご出身は福山ですが、幼少期含めてドライブの思い出や記憶は何かありますか?
父親が乗っていたのは、マークⅡやクラウンなどのトヨタ車が多かったですね。当時、父親はタバコを吸っていて車内がタバコ臭かったのが嫌でした。家のクルマというとあの香りの記憶です。あと、私が小さい頃に寝付けないとよくクルマで山に連れて行ってくれましたね。最初はおしゃべりして楽しいのですが、だんだんクネクネした山道に気持ち悪くなって「早く帰りたい!」と言うと茶化すようにわざと強めにハンドルを切ったりしていたのをすごく覚えています(笑)私は旅する時にレンタカーをよく利用するのですが、トヨタ車に乗るたび、父のことを思い出します。
−それでは、プレイリストについて聞かせてください。テーマは「秩父駅から三峯神社に向かうときに聴きたい音楽」。ずいぶんと具体的ですね(笑)
(三峯神社まで)自宅から行くと2時間ちょっとくらいですかね。日帰りだと、往復で4〜5時間。そんなに運転するのは疲れるかなと思って、秩父まで電車で行き、そこからレンタカーに乗ってドライブするときのプランを考えました。まぁ出発は秩父じゃなくても、唐津でも出雲でもいいのですが(笑)レンタカーに乗り込んで出発前Bluetoothを繋げるときに「すみません、繋いでもらえますか? 三峯神社行くんですけどナビも入れてもらえますか?」とスタッフの方にお願いして(笑)よし!これから行くぞっていうイメージです。自分のクルマだとそんなに気分をアゲるという意識もないけど、知らない街で、知らないクルマに乗ってというのが楽しいですよね。例えば、トヨタレンタカーだとだいたい車種をお任せするのですが、アクアとかヤリスとかプリウスに乗って、そういう時はやはり馴染みがある曲、自分が一番音楽を聴いていた時期−80年代後半から90年代の選曲中心になりました。その頃は、レコード屋さんもたくさんあったのでラフ・トレード(注:1)やチェリー・レッド(注:2)レーベルのレコードをよく探しに行って、こうやって(レコードをエサ箱からサクサク抜く仕草)いました。よくジャケ買いもしていましたし、当時の王道っぽい選曲ですね。
−1曲目は、THE MONOCHROME SET(注:3)の『JACOB’S LADDER』ですね。
これはジャケも良いですし、すごく好きでしたね。ドライブの出だしに聴くには気持ちいいなと思って選びました。自分の気分をアゲていこうっていうので今回、1曲目に選んでいます。
−THE MONOCHROME SETもそうですし、ORANGE JUICE(注: 4)やAZTEC CAMERA(注:5)など、いわゆるネオアコっぽい曲が多めですね。
はい、大好きでしたね。AZTEC CAMERAの『Oblivious』も有名な曲ですが、それが収録されているアルバム(『High Land, Hard Rain』)もすごく好きでした。懐かしいというか、自分にとって、いい時代の曲ってイメージですかね。秩父って山道の1本道を進んだりするので、一緒に口ずさめる曲がいいなと思って。そういう思い出の楽曲を選びつつ、まったりし過ぎないように電気(グルーヴ)やフリッパーズ(ギター)のようなフックになる曲を混ぜています。
−次は、THE STYLE COUNCIL(注:6)の『My Ever Changing Moods』です。
もともと、Everything But the Girlがすごく好きで、その流れでTHE STYLE COUNCILやBen Wattを聞いたりしていました。このアルバム(『Café Bleu』)に、トレーシー・ソーン(Everything But the Girl)が参加している曲がありますよね(注:『The Paris Match』という楽曲に参加)。ただ、THE STYLE COUNCILならやっぱりこの曲かなと。
−続いて、JIM O’Rourke(注:7)ですが、(バート・)バカラックのこんなトリビュートアルバム(『All Kinds of People ~love Burt Bacharach~Produced by Jim O’Rourke』注:8)があるんですね?
私も初めて知りました。このプレイリストを作るにあたって、ジム・オルークを入れたいなと思っていて……最初は、カエルのジャケットのアルバム(注:『HALFWAY TO A THREEWAY』)の曲を入れようと探していたら、偶然この曲がトップリストで入っていたので聴いてみたら……すごく良くてリストに追加しました。細野(晴臣)さんのボーカルも素敵ですよね。
−原田知世さんの「ロマンス」も名曲ですね。
これは、ちょうどTHE CARDIGANSとかが流行っていた時代ですよね。とにかく曲が良くて、ノスタルジックな気分にもなるし。何より、知世さんの声が可愛くて、大好きな曲です。
−原田さんとはご共演はあるんですか?
はい、あります。角川映画でずっと観ていた方なので、いざお会いしたら「きゃー」と心の中で大興奮しました。すごくお優しいですし、可愛らしい方です。ライブにも行かせていただきました。
−共演のご経験でいうと、電気グルーヴの(ピエール)瀧さんもですよね?
はい、そうです。瀧さんとは「ファブリーズ」のCMなどで、何度かご一緒させていただきました。この曲(『N.O』)はなんだか元気が出るんですよね。一緒に歌えますし。でも実は、『富士山』(注:9)と迷いました(笑)あと、『Shangri-La』も好きです。
−Natural Calamity(注:10)は名盤『PEACH HEAD』に収録されている曲ですね。
森(俊二)さんは、友達が知り合いで、確かこのアルバムをいただいたのかな……好きでよく聴いていました。
−Flippers Guitarからは『Cloudy』を選ばれていますが……
私が東京に出てきたばかりの時、フリッパーズギターは2人組じゃなくて。オムニバスのアルバムに参加しているのを聴いたんです。歌詞も日本語ではなかったんですけど、かっこいいなと思って。私が好きだったネオアコの系譜というか、自分的にもスッと入りやすい感じがありました。お二人とは面識はないのですが、どなたかのライブに行ったときに偶然お見かけしたことがありました。
−この曲は、再発のリマスター限定版に収録されている曲ですし、どちらかというと目立たない楽曲ですよね?
今回プレイリストを作るにあたり、メジャーすぎる曲や分かりやすい曲でない方がいいのかな?という基準が何となく私の中であって(笑)実は、このプレイリストを作成する前にいくつかプレイリストを作って夫に聴いてもらいました。そうしたら「分かりやす過ぎない?」と言われたので、どれくらいのテンションがいいのか悩みました。「メジャーとかマイナーとか関係なく、自分が本当に好きなものを選んだ方がいいと思う」というアドバイスもあり、再度プレゼンしました(笑)。
−初対面なのに失礼かもしれませんが、西田さんらしい選曲だなと思いました。大変うがった見方で恥ずかしいのですが、こういうレコメンド企画って人によっては「これ本当にご本人が選んだのかな?」とか「何か作為的に“幅”を演出してないか?」なんて意地悪なことを思ったりもするのですが、間違いなくご本人が吟味されたんだろうなというのが伝わりましたよ。
えー、そうですか? 作為的だと思われたら嫌だなぁ……ですが、私なりの“幅”は見せたつもりです(笑)
−失礼いたしました(笑)。最後の曲は、THE MONOCHROME SETの『The Ruling Class』(注:11)です。
はい。やはりモノクロームセットのロカビリーぽい感じが「あの頃」を思い出させるというか。でも、それは全然ネガティブな思い出ではなくて、ぐっと気持ちを高めて(目的地である)山の頂きを目指すのにぴったり合っている気がしたので。
記事注釈
(注:1)同名のレコードショップを母体とするイギリスのレーベル。西田さんのリストにあったTHE MONOCHROME SETやAztec Cameraなどを輩出し、現在もBell & SebastianやThe Strokesなどの音源をリリースしている。
(注:2)1971年に創設されたロンドンのレコードレーベル。本文内でも触れたEverything but the girlやMomusなどに加え、過去にはCorneliusも同レーベルからアルバム『SENSUOUS』を海外リリースしている。
(注:3)イギリスのロック/ニューウェイブ・バンド。1980年代初頭に勃興したネオ・アコースティック ムーブメントを代表するバンドのひとつ。
(注:4)スコットランドのポスト・パンク/ニューウェイブ・バンド。前述したネオ・アコースティック ムーブメントを象徴するバンドとして日本でも人気に。フロントマンであるエドウィン・コリンズは、バンド解散後ソロとしても活躍。
(注:5)1980年にスコットランドで結成されたロック/ニューウェイブ・バンド。こちらもネオ・アコースティック ムーブメントを代表するバンドであり、ラフトレードから1stアルバム『High Land, Hard Rain』をリリースした。
(注:6)ポール・ウェラーとミック・タルボットが中心となって1982年に結成。ニューウェイブやブルーアイド・ソウル、JAZZなどを咀嚼した雑食的なサウンドと、洗練されたファッションスタイルで人気を博した。
(注:7)アメリカ・シカゴ出身のミュージシャン/プロデューサー/エンジニア。その音楽性は、アヴァン・ポップ、JAZZ、ノイズなど多岐に渡る。親日家として知られ、過去にはくるりやカヒミ・カリィなどのプロデュースも手掛けた。
(注:8)2010年にリリースされたジム・オルークによるバート・バカラックのカヴァーアルバム。細野晴臣をはじめ、小坂忠、ソニックユースのサーストン・ムーア、やくしまるえつこなど、全11人のヴォーカリストをフィーチャーした楽曲を収録。
(注:9)4thアルバム『VITAMIN』収録曲。作詞、作曲をピエール瀧が手掛けた。
(注:10)森俊二と杉本邦人のユニットで、1991年に1stアルバム『Dawn In The Valley』でデビュー(現在は、森俊二のソロプロジェクト)。森はギタリストとしても活躍しており、ジャック・ジョンソンが制作したムービーのサントラに楽曲が採用されるなど、国内外で高く評価されている。
(注:11)3rdアルバム『ELIGIBLE BACHELORS』に収録。なお、同曲をエゴラッピンがカバーしたヴァージョンもSpotifyに登録されており、こちらも素晴らしいのでぜひご一聴を。
西田尚美(にしだなおみ)
1970年広島県福山市生まれ。
文化服装学院在学中にモデルとしての活動をスタートし、『non-no』(集英社)などで活躍。1993年にドラマ『オレたちのオーレ!』で俳優デビューを果たすと、初主演映画『ひみつの花園』(1997年)では、第21回日本アカデミー賞新人賞を受賞。近年の主な出演作に、テレビ『カムカムエヴリバディ』(2021年)、『うきわー友達以上、不倫未満ー』(2021年)、『くすぶり女とすん止め女』(2023年)、『ひだまりが聴こえる』(2024年)、『海のはじまり』(2024年)、映画『青葉家のテーブル』(2021年)、『ヴィレッジ』(2023年)、2024年は『言えない秘密』、『傲慢と善良』、『アイミタガイ』、『十一人の賊軍』、『正体』などに出演。2025年は、ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系 1月24日(金)22:00〜初回スタート)、『HEART ATTACK』(FOD)、映画『大きな玉ねぎの下で』(2月7日公開)。2023年からは『オレンジページ』にてエッセイ「西田尚美の今日もお天気」を連載中。
:ニット ¥47,300/スズキ タカユキ(スズキ タカユキ)03-6821-6701
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その他、スタイリスト私物