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入江陵介

江の島から箱根を目指した思い出のロングドライブ

−お話を聞いていると、かなりクルマがお好きなんですね。いま気になっている車種とかありますか?

SUVが好きなんで、ポルシェだとカイエンとかマカンは憧れます。一時期は大きな車をめちゃくちゃ調べていましたね。それこそ数年前にマセラッティがレヴァンテを出したじゃないですか。欲しいなと思いながらずっと調べていました。結局、調べるだけで、乗ることはなかったんですけど(笑)ポルシェのカイエンやマカンもデザイン的にちょっと丸みがあるじゃないですか。グラマラスでありながら、シャープな顔を備えたかっこよさがありますよね。同じようなタイプだと、レクサスのRXとか、LXとかも好きで。あと、ベントレーのベンテイガと、もうひとつ気になるSUVがあったんだよな…なんだったかな。

−アストンのSUV(注:DBX)ですかね?

Aston Martin DBX 04

そうだと思います。ただ、どれもまあ高いんですよ!高級車なので、まあ高い(笑)。やっぱりポルシェとか、フェラーリとかって、どちらかというとセダンタイプが主流というか、スポーツカータイプが多いと思うんですけど。僕が好きなSUVは結構少ないんですよね、メーカーの中でも2種類くらいとか。

−他の人と被らなそうでいいですね。ちなみに、海外では日常的に運転されていたとおっしゃっていましたが、思い出に残っている場所はありますか?

僕はサンディエゴに住んでいたので、海沿いを走る気持ちよさはありましたね。練習に向かう道中なんですけど、すがすがしい、晴れ渡る空の下で運転すると、また頑張ろうと思えたんですよね。サンディエゴは比較的年中暖かい場所だったので、天気も良くて、運転も気持ちよかったですね。朝は明るくて、夜は夕日が綺麗だったり。帰りは混んでいると、車のテールランプがずらっと連なっている様子も、ひとつの景色というか、印象深いですね。

©Jules PT

−選手時代と現在では、運転するシーンも変わってきたんでしょうね。

選手時代は、アメリカで生活しているときと、あと、日本で練習に行くときもちょっと遠方になると車で通っていました。最近は、逆にプライベートがメインですね。今は友達とどこかに行く時とかにレンタカーを借りて、僕が運転することもありますし、友達の車に乗るときは、交代交代で運転したり。

−最近だとどんな場所に行かれましたか?

結構前になるんですが、夏に友達と江ノ島に行きました。もう「the!」って感じですが。さらに江の島から箱根まで足を伸ばして(笑)

−江の島からの箱根!? 結構な距離ですね。

はい(笑)、江の島に行って、「温泉に行こうか」って友達が言いだしたので、そのまま箱根まで行っちゃって。日帰り入浴して帰ってくるみたいな。その友人が結構飽き性なんですよ。初めての江の島なのに一瞬で終わって、朝はそんなに早く出ていないのに、夕方4時、5時くらいには東京に帰ってきました。箱根でしっかり温泉にも浸かっているのに(笑)。江の島もパッパッパッと、海見て、はい、名所に寄って綺麗だね、みたいな。さすがに、名物くらいは……と、しらすを食べましたが。

人生におけるひとつの夢だったホノルルマラソンへの挑戦

−これまで熱量が高い現役生活を18年間やっていらしたので、引退されてから、その熱量をどこに向けるか、決まっていますか?

今年(2024年)で言うと、ちょうどホノルルマラソンから帰ってきたところなんです(注:1)

−ニュースでも拝見していたので、ホノルルマラソンのこと、すごく伺いたかったんです。完走した時はやはり気持ちよかったですか?

気持ちよかったですねー! 10月に「東京レガシーハーフ」という大会で21キロのハーフマラソンを走って、ホノルルはその後にオファーをいただいたんです。僕自身、ハーフを走り終わった後、「もう2度と走りたくない!」と思っていたんですが、まさか1週間後にフルマラソンのお話をいただくとは(笑)。人生で一度はホノルルマラソンは経験したいと思っていたのと、せっかく20キロ走れる力をつけていたから、もう今しかないな!と思って。

ホノルル 写真:入江陵介

−倍の距離でも走れるって確信があったんですか?

ハーフが終わったあとに、あと10キロは全然走れるなって感覚でいたんですよ。でも、そこからの10キロが……マラソンって30キロを超えた後が本当にしんどいって経験者がみんな言っていて、その通り、30キロ過ぎから足も痛くなりましたし、ホノルルなので、日差しも強いじゃないですか。結構暑くなってきたりして。きつかったですけど、本当にすがすがしく走り切れましたね。楽しみながら、景色も満喫して、すごく達成感がありました。引退会見でもフルマラソンにチャレンジしたいと言ったのですが。こんなすぐ叶うと思わなくて(笑)。夢というか、目標を叶えることが出来ました。引退したあとも、何か目標のために生活できるっていうのはありがたいですね。

−スイマーの練習にランのトレーニングはないんですね?

やっている選手もいますけど、基本はないですね。バイクが多いかな。競泳選手は比較的、足首とか膝が緩いので、痛めやすいと言われているんですよ。しなやかに動かすので、足首とかがゆるい……ゆるいって言い方をするんですけど、そうすると、陸上とかの衝撃に耐えられないんです。それで足首を痛めちゃう人が多いので、僕もホノルルを目標にトレーニングしていました。今はまた体づくりのためにウエイトを始めたとこなので、結構バキバキなんですよ。

女性陣:かっこいい(笑)!

バキバキっていうのは、そういう表現じゃなくて、筋肉痛のことです(笑)!  僕、自分でマッチョ売りしないですよ(笑)!

−引退会見のときに水着を持たないで旅行に行ったことがない。とおっしゃっていたのが印象的でした。今後、プライベートで水着を持たずに行くとしたら、どこに行きたいですか?

どこだろう。スイスとかに行きたいですね。スイスは一度行ったのですが、自然というよりかは、街の中でしたから。大会で訪れたので、全然スイスらしさは感じられなかったです。だから、『アルプスの少女ハイジ』が出てくるような自然いっぱいの場所で、高原列車に乗って旅するというのが夢というか。

沖縄 写真:入江陵介

−オリンピックの舞台裏で、印象に残っているシーンがあれば教えて下さい。

自分の中では、初めてメダル(注:2)を獲った大会でもあったので、2012年のロンドンオリンピックが一番思い出に残っていますね。東京オリンピックも違う意味で、思い出というか、一生忘れられません。一年延期になりましたし、コロナ禍のために無観客で、自分が知っているオリンピックじゃなかった。オリンピックって、人がすごくたくさん溢れて、活気に満ちていて、街もオリンピックムード一色っていうのが、自分の中でのイメージだったんですね。東京はコロナ禍ということもあって、もちろん反対される方もいらっしゃいましたし、ネガティブな要素も多かったので、自分自身、色々なオリンピックに出場したなかでも、一つの経験として、東京オリンピックっていうのは思い出深いですね。

−2021年の東京オリンピックは、主将として参加されましたよね。選手の士気だったりとか何か感じるものがありましたか?

選手の士気もそうですし、世間からの見られ方も全然違いましたね。こんな大変な時期にオリンピックを開催するのかっていう声もいただきましたし、オリンピックを中止しろっていう意見もおそらくかなりあったので……そんな中で、僕ら選手もオリンピックで成績を残したい、オリンピックを楽しみたい、と口にできない状況でした。選手たちも、本当になんのためにやっているんだろうとか、オリンピックで盛り上がることができないとか、応援も来られない状況ですし。チームワークを高めるために合宿を行なってもマスクをしてパーテーション越しのコミュニケーションだったりとか、コロナ対策は徹底していたので、選手同士が顔を見る機会もあまりなかったんです。人が集まることがネガティブだったので、やはりチームビルディングという意味では難しかったですね。

−色々な意味で特別なオリンピックだったということですね。ほかのインタビューで拝見して「行き詰ると、水泳のことばかり考えちゃうので、息抜きが必要だ」という風におっしゃっていたのですが、入江さんにとってはどんなことが息抜きですか?

友達と外食に行くこととか、好きなコーヒーを飲みに行ったりとか。現役中は、オフ前でも、試合が近いとお酒とかもなかなか呑みに行く機会が少なかったんですね。その中でも、それこそコンサートや映画に行くなど、自分のなかで “水泳を考えない時間”を意識的に作るようにしていました。水泳のことばかり考えすぎると、疲れてしまうので、自然と水泳のことから離れられる環境を作っていましたね。

引退を決意した瞬間。そして、競技を離れたいまだからできること

−2024年4月に現役引退発表されて、引退を決意されたときのお気持ちは?

3月の代表選考会に敗れたことで(注:3)、結局パリオリンピックに行けないことが決まって、その時点で、引退しようと決めました。自分の中では元々パリオリンピックまでで引退すると決めていて、その夢が叶わなかったので、もう引退だなと決意しました。実は、東京オリンピック後に引退を考えたこともあったんです。せっかくの地元開催と意気込んでいたのですが、さっきもお話ししたように特別な大会で、無観客でしたし、なんかオリンピックじゃないような大会だったので……やはり、僕の中では最後、たくさんのお客さんの前でオリンピックの舞台で泳いで引退したいなという目標があったので、パリ大会に向けて頑張ってきました。結果としては、ダメだったんですけど、でも東京で開催された選考会で敗れはしたのですが、映像も含めて最後のレースをたくさんの人に見守られながら泳げたというのは、自分の中で一つ大きかったかなと思いますね。

−これまでは水泳を中心とした人生だったと思いますが、今後挑戦したいことは?

僕は小学生のときの夢がアナウンサーだったんですよ。いまも、スポーツキャスターじゃないですけど、僕自身いろんなスポーツを見に行くことも結構あるので。水泳だけでなくスポーツを伝えてもらう立場から伝える立場になりたいなと思ったりしますね。それは水泳だけでなく、もちろん、水泳も盛り上げれるような取り組みを、今後できたらいいなと思っています。

−内側から見てきた方だからこそ、できることがありますね。

そうですね、今後は外から競技を支えていきたいと思っています。自分の第二の人生がスタートしたばかりですが、やはりスポーツに携わる仕事は続けていきたいですね。今は出社しているわけではないですけど、スイミングスクールの会社員でもあるので、後進の育成だったり、コーチとはちょっと違う立場になりますが、選手にアドバイスしたりとか、大会に出場する選手に寄り添ったりとかして、良い結果が残せるような環境づくりという形でサポートしていきたいなと思っています。

−今でも選手のみなさんで集まられたりしているんですか?

最近まで、みんなパリに行っていたのですが、競泳のメンバーとは引退した後もよく食事に行きますし。それこそ現役中はライバルだった選手とも一緒にご飯に行ったりだとか、先輩とかとご一緒することも、結構多いですね。引退してからもみんなすごく仲いいと思いますね。

−北島(康介)さん(注:4)も仲がいいですよね?

そうですね!引退会見にも来ていただいて、その後のお仕事の現場だったり、地方でも食事に行かせていただいたりとか。僕自身、初めて日本代表に入った時から、すでに活躍されている大先輩でありながらも、チームメイトでもあり、戦友でもあるという、すごく特別な存在ですね。

−今後はクルマに乗られる機会も増えると思いますが、例えば一泊二日ぐらいの距離感で、クルマで行ってみたい場所はありますか? 最初に日本には世界遺産がたくさんあるってお話もされていましたし。

あまり東北のほうに行ったことがなくて、新潟とかはあるんですけど、東北方面に行ってみたいですね。東京とか、横浜方面とか、名古屋方面に行くことは多いですけど、東北に出掛けて温泉に行きたいかな。温泉も有名なところがたくさんありますし、今の時期はクルマだと雪がちょっと怖いですけどね。気持ちいい時期に東北のあたりで、おいしいものを食べて、泊まりならクルマで行ってもお酒が呑めますし、ゆっくりと温泉に浸かりたいですね。

記事注釈

(注:1)2024年12月8日に行われたホノルルマラソンに参加。5時間2分のタイムで無事完走したことを、自身のインスタグラムで報告した。

(注:2)2012年ロンドンオリンピックでは、200m背泳ぎで銀、100m背泳ぎで銅、男子400mメドレーリレーで銀のメダル3個を獲得した。

(注:3)日本競泳初の5大会連続出場を目指したが、100m、200m共に五輪内定条件を満たすことができず、パリオリンピック出場が絶たれた。

(注:4)2004年アテネオリンピック、2008年北京オリンピックと連続出場し、ともに100m、200m平泳ぎで金メダルを獲得。入江さんとは、2012年に開催されたロンドンオリンピックの男子400メートルメドレーリレーで銀メダルを獲得したチームメイトである。

入江陵介(いりえりょうすけ)

1990年1月、大阪府生まれ。

競泳男子で4大会連続五輪出場。2012年ロンドンオリンピック100m背泳ぎ銅メダリスト、200m背泳ぎ銀メダリスト、400mメドレーリレー銀メダリスト。2006年から18年間にわたり日本代表を務め、2021年の東京五輪では日本競泳陣の主将を務めた。2024年4月をもって現役引退。現在はメディア出演や講演会など、様々な形で水泳の普及活動を行なっている。

−My Playlist for Driving−入江陵介さんが選ぶ「わたしのドライブミュージック」【前編】

ドライブにおいて「音楽」が果たす役割は大きい。いつもの見慣れた道でさえお気に入りの曲がかかれば、車窓に映る風景は鮮やかに色付き、気分の高揚とともに別世界へと誘う。また、車内で流れていたグッドミュージックは、記憶と紐づいて、当時の思い出を呼び起こす起動装置にもなる。本連載では、毎回、クルマを愛するゲストを招いて、ドライブを想定したオリジナルプレイリストを作成。本人による選曲の解説に加え、クルマとの付き合い方から仕事やプライベートに至るまで、その知られざる素顔を探っていく。第3回は、競泳選手として4大会連続オリンピックに出場した入江陵介さんが選ぶドライブミュージック。
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