取材前、入江さんが長年愛用しているバッグや憧れのタイムピースなど、スタッフを交えてファッションの話題で盛り上がるなか、和やかなムードでインタビューが始まった。
アメリカ滞在時と現在で変わったクルマとの付き合い方

−入江さんご自身は、何かを突き詰める性格だったり、例えば時計のようなコレクションされているものはありますか?
これまでは水泳ばかりだったので、コレクションとかは特にないのですが、これからは楽しみですね。何か趣味に出会えたら嬉しいですし、旅行もどんどん行きたいなと思っています。海外も好きですが、日本にもまだ行ったことない場所がたくさんありますしね。やっぱり自国のことをもっと知るべきだなと思うので、時間があれば(日本にある)世界遺産にも行ってみたいなと思っています。

−クルマを運転して旅行に行かれることもあるんですか?
アメリカに何年か住んでいたことがあって、向こうではクルマがないと生活できないので、日常的に運転していたんですが、帰国してから自家用車がないこともあってあまり運転できていないんですよね。もっと運転したいなと思いながらも、いま住んでいる家が立体駐車場しかないので、クルマのサイズ感が限られるんですよね。外に借りるとしても、数が少ないですし、仮に見つかったとしてもすごく狭い道に入った先にあるとかで……
−アメリカは道が広い分、運転はしやすいですもんね。
アメリカだと合流する時にみんな本気でベタ踏みしてバァ――って飛ばすんですよ。だから、初めて日本で高速に乗って合流するときに、その感覚のままスピード出し過ぎそうになったりして(笑)
−向こうでは、どのあたりに住んでいらしたんですか?
僕はもともとノースカロライナ州にいたんですけど、東海岸のほうで。そこは割と短くて、最後の2年ぐらいはサンディエゴにしました。夕方とかは、ロサンゼルス方面が、めちゃくちゃ混むエリアで渋滞がすごかったですね。

−そういうときも、車の中で音楽を聴いたりするんですか?
よく聴いていましたね。それこそ、自分で作ったプレイリストを流したりとか。アメリカにいるときは、あえて日本の曲を聴かないようにもしていました。でもアメリカも日本と一緒で、ラジオをつけてると、同じ曲ばっかり流れるんですよ。だから歌詞もわからないけど、とりあえず聴いたりしていましたね(笑)
番組での対談をきっかけに、もっと好きになったMrs. GREEN APPLE
−さて、今回のプレイリストですが、幅が広く、抑揚まで考えられていて、すごく興味深く拝見しました。全体的にはどんなドライブシチュエーションを想像して作られましたか?
ほとんどが普段から聴いているリアルなプレイリストです。全部で50曲くらいある中でも、どのシーンにもハマるというか……去年、夏に友達とドライブに行った時にも車内で流していますね。「あえて」そのために選曲したものではなく、元々自分のプレイリストに収められている楽曲から選びました。
−ルーティーンのようにプレイリストも作られているんですね。
そうなんです。一度プレイリストに入れるとあまり消さないタイプなので、今回の10曲はもう何年も入ったままだと思います。新しいお気に入りの曲が見つかると追加するという感じですね。
− 1曲目『青と夏』、2曲目『ライラック』はMrs. GREEN APPLEです。
なんかもう、単純にアガる曲というか、ドライブの最初にふさわしい、テンションがアガる曲ですよね。
−大ファンであることを公言されていますが、そのきっかけや魅力は何ですか?
元々、好きで聴いてはいたんです。でも、ミセスも1度活動休止して、“フェーズ(phase)2”(注:1)のタイミングで、活動休止明けのライブが始まった時に、改めて聴くようになりました。あと、個人的には昨年NHKの番組で対談もさせていただいて、それもきっかけで、より聴くようになって、ライブも頻繁に行くようになりましたね。

−その対談は入江さんからのオファーですか?
はい、こちらから希望させていただいたのですが、本当にタイミングが合ってよかったというか。オファーをした段階では、まだレコード大賞を獲られる前だったので、もしタイミングが合わなければ、おそらくお忙しくて受けていただけなかったかもしれませんね。
−最初に聴き始めたきっかけはあったんですか?
ミセスの曲ってすごくキャッチーで、結構耳に残るじゃないですか。昔から知ってる曲も多かったけど、最近になってより好きな楽曲が増えましたね。それこそ『青と夏』は活動休止前の曲ですし、『ライラック』に関しては、活動休止明けに発表されたサマーソングで、両方とも夏によく聴いていました。
−3曲目のケツメイシ『仲間』は、日本競泳界を牽引してきた入江さんらしい選曲だと感じました。どんな“仲間”を思い浮かべて選んだ曲でしょうか。
『仲間』は、歌詞も含めてすごく熱い曲なんですよ。僕自身、カラオケでもよく歌うのですが、周りのアスリートの間でも「この曲を好き」っていう選手は多いですね。イメージ的にもチーム感を感じる曲です。
−4曲目のYOASOBI『アイドル』は、ちょっとテンポの違う、意外な選曲です。どんな時にこの曲を聴くのでしょうか?
YOASOBIは、去年のドームや一昨年もライブに行かせていただいたりと、すごく好きなんです。今回のプレイリストには入れてないですけど、オリンピックのテーマ曲(注:2)をやられていましたし。『アイドル』は、ライブですごく盛り上がるんですよ。より観客との一体感が増すというか、自分自身、気持ちを高める時に聴いたりしますね。
−ライブに行ったら声をかけられたりするんですか? 普段見られないような入江さんの姿が見られるとか。
どうですかね(笑)でも皆さんそのアーティストを求めて来ていらっしゃるので、とくに声をかけられたりとかはないですけど。僕自身、そこまで激しく盛り上がっているわけじゃないですしね(笑)でも、ライブに行くのはすごく好きです。

−これまで紹介して下さった熱い曲や 夏っぽい曲に比べて、次の『アイドル』は、どういった時に聴かれますか?
結構テンションを上げたい時に聴く感じですかね。僕、電車とかもよく乗るんですけど、たとえば車内が混んでいたり、ちょっと憂鬱になる時ってあるじゃないですか。だから、乗り換えする時や移動時間に聴いたりすると、なんか明るい気持ちになって乗り換えですら楽しめるというか(笑)
− 5曲目は、SEVENTEEN『VERY NICE』(注:3)、6曲目は、TWICE『Feel Special』。K-POPも聴かれたり、男女問わずバランス良く選んでいらっしゃるのも印象的です?
元々TWICEが大好きで、今年はライブにも行きましたね。TWICEもずっと見たかったのですが、時期的になかなか行けなくて。今年、念願叶って味の素スタジアムで開催されたライブに行くことができました。
−k-popにハマったきっかけもTWICEだったんですか?
僕はいま35歳なんですけど、世代的にはBIGBANGですかね。やっぱり、BIGBANGはk-popの中でも、パイオニア感がありますよね。そこから、なんか徐々に広がっていった感じですね。SEVENTEENもたまたま知りました。なんかよく耳にする曲が「あ、これSEVENTEENなんだ」って気付いて。今でもTWICEが1番好きですけど、あとはもう、流行りの曲はだいたい好きみたいな!そのアーティストの曲なら全部っていうよりは、曲単位で好きなものが多いです。
−新しいアーティストや楽曲はどうやって見つけられるんですか?
テレビもそうですし、やっぱりSNSとかで今は曲がすごく流れてくるので、ストーリーズのBGMとして使われていたり、リールとかでよく聴く曲が「あ、この曲はあのアーティストだったんだ」って気付いたりとか。SNSきっかけで知ることも多いですね。何か知らないうちにずっと耳に残っているみたいな。k-popはSNSでもかなり流れてきますもんね。
−7曲目の平井大『永遠に続く日々の階段を』は、ラブソングですね。
平井大さんは、この曲が1番好きです。2023年の冬ぐらいに、すごい自分の頭の中で流れていて、それからハマって、今年の冬は本当によく聴きましたね。平井さんは基本、夏を感じさせる人なんですが、これはバラード調というか、冬を感じる楽曲でそこがまた素敵なんですよね。
−8曲目のSaucy Dog(注:4)『シンデレラボーイ』は、結構切ないストーリーの曲ですね。
そうですね。Saucy Dogもライブは去年か一昨年に行って。そう考えると、ほんとに僕かなり行ってますね(笑)。好きになったらとりあえずライブに行きたくなるんですよね。生の音を聴きたくなるというか。『シンデレラボーイ』は一昨年とかその前くらいに、よく流れていたんですよね。この曲でさらに爆発的な人気が出たと思うのですが、正直僕もこの曲でSaucy Dogを知りました。この曲をきっかけに他の曲もどんどん好きになっていったので、僕の中のSaucy Dogといえば、これですね。なんかこうグッとくる部分もあるんですよね。

−ラブソングってどんな時に聴くことが多いですか?
意外と何も考えずに聴いていたりします(笑)。歌詞を見ると結構切なかったりしますけど、「音」として聴くことも多いので。それこそk-popとかも正直歌詞だけでは理解できない部分も多いのですが、やっぱり好きになるってことは、音楽に惹かれる部分が大きいのかなって。なんかそういう意味では、Saucy Dogのこの落ち着くメロディーが好きですね。移動の時とかは、プレイリストをシャッフルして聴いているので、急に明るい曲になる時もあるし、バラードになる時もあるし……自ら感傷に浸りにいく感じでバラードを聴くことはないのですが(笑)
−終盤にかけて、選ばれたのは秦基博の『鱗』。この曲がリリースされたのは、16年も前になるんですね。
この曲って懐かしさを感じませんか? 何年か前に水泳繋がりの後輩の結婚式で流れていたんですよ。友人の結婚式で聴く曲ってすごく特別じゃないですか。元々知っている曲でしたけど、そこからなんかタイミングが合えばよく聴いています。やっぱり名曲ですし、思い出とかエピソードと重なりますね。
引退する日に頭の中でずっと流れていた思い出の一曲
−最後に、大好きな Mrs. GREEN APPLE『僕のこと』を選ばれています。
僕自身がすごくこの曲を好きで。『この歌詞が刺さった!グッとフレーズ』(TBS系)というテレビ番組でも紹介させてもらいました。引退会見の日に、自分の頭の中でずっとこの曲が流れていましたね。当日、いろんなプレイリストを流しながら準備している時に、偶然この曲が流れてきて、すごく歌詞がグッと来たんです。

−記者会見を私も拝見させていただいて、涙をこらえている入江さんの姿を拝見して、こっちもグッときました。こういった新しいアーティストとかは、聴いてみようってチャレンジしてみる感じですか?
そうですね。最近だと結構k-popの女性グループが多いじゃないですか。正直、失礼ながら全員は顔と名前が一致しないのですが、やはり曲を聴いてみると、「あぁ、この曲か」みたいに思い出すことも多いですし、流行りにはちゃんと1回乗るタイプですね。最近はk-popを聴く機会がとくに多くて、逆に他の洋楽でいま何が流行っているのかがよくわからなくなりましたね。
−入江さんはピアノを幼少期から習われていたんですよね?
もう今はやっていないんですけど、中3まではクラシックピアノを続けていましたね。当時は、将来のこととかそこまで深くは考えてなかったですけど、音楽科がある高校も1つの選択肢に入れていた時期もありました。
−色々な一面があるんだなと思ってちょっとびっくりしていたのですが、入江さんにとって、音楽とはどういった存在ですか?
音楽は、僕自身やっぱり幼少期から触れ合っていたものですし、自分の気持ちを高めることも、抑えることもできて、その時代やエピソードを思い出させてくれます。さっきの結婚式の曲もそうですが、思い出と共にあるじゃないですか。ちょうどこの時にこの曲を聴いていたなとか、当時の時代背景だったり、人との繋がりも含めて思い出させてくれるものというのが、僕にとっては音楽だなって思います。
−遠征されている時とか、海外で、あの時すごく聴いていたなって曲はありますか?
すごく前なんですが、Pitbullの『International Love』(注:5)っていう盛り上がる曲があるんですね(笑)、クラブヒットみたいな。別にクラブに行っていたわけじゃないんですけど(笑)、なんか一時期ハマってたというか、やっぱり遠征中だと1人部屋ではなく2人部屋とかになるので、とりあえず部屋で流してたりしてましたね。テンションを上げたり、モチベーション向上のために聴くとなると、やはりアガる曲が多いですね。ただ、試合前はアガりすぎてもよくないので、僕の場合は逆にリラックスするために、結構落ち着いた曲やバラードを聴くこともありますね。
−入江さんといえば「オリンピック4大会連続出場!」というイメージが強いのですが、この年のオリンピックではこんな曲を聴いたなとかってあるんですか?
ロンドンオリンピックの時は、いきものがかりさんの『風が吹いている』がNHKロンドンオリンピック・パラリンピックのテーマ曲だったので、僕の中ではすごくオリンピックを思い出させる曲ですね。2016年は、安室奈美恵さんの『Hero』がNHKリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックのテーマ曲でした。その2曲は自分の中ではすごい印象に残っていますね。まさにオリンピックソングといえば、というイメージ。あとは、ゆずさんの『栄光の架橋』(注:6)もそうですね。日本でもたくさん流れていたと思うので、多分皆さんにとっても(オリンピックを)イメージする曲ではないでしょうか。
−視聴者やファンと一緒の気持ちで、同じ曲を聴いてくださったんですね。

記事注釈
(注:1)デビュー5周年記念日となる2020年7月8日に活動休止と“フェーズ1”の完結を宣言。そこから1年8ヶ月後の3月18日に3人体制での活動再開および“フェーズ2”をスタートさせた。
(注:2)2024パリオリンピックのNHKテーマソングにYOASOBIの『舞台に立って』が使用された。
(注:3)韓国の13人組男性アイドルグループ SEVENTEENが、2016年4月に発売したアルバム『Love&Letter: Seventeen Vol.1 (Repackage)』のタイトル曲。
(注:4)2013年に結成された石原慎也、秋澤和貴、せとゆいかから成る3ピースロックバンド。
(注:5)マイアミ出身のシンガー/ラッパー Pitbullの5thアルバム『Planet Pit』収録曲。クリス・ブラウンをボーカルに迎えたこの楽曲は、全米・全英でチャートインするなど、スマッシュヒットを記録。
(注:6)2004年アテネオリンピックのNHK公式テーマソング。
入江陵介(いりえりょうすけ)
1990年1月、大阪府生まれ。
競泳男子で4大会連続五輪出場。2012年ロンドンオリンピック100m背泳ぎ銅メダリスト、200m背泳ぎ銀メダリスト、400mメドレーリレー銀メダリスト。2006年から18年間にわたり日本代表を務め、2021年の東京五輪では日本競泳陣の主将を務めた。2024年4月をもって現役引退。現在はメディア出演や講演会など、様々な形で水泳の普及活動を行なっている。
