軽井沢への移住のきっかけは、
ディフェンダーのファッション撮影だった

山本

今日も、タケちゃんとお呼びしていいのかな。渡辺剛さんとは、私が「アエラスタイルマガジン」を創刊しときに表紙モデルとして登場してもらってからのお付き合いなので、もう15年です。アエラスタイルマガジンだけではなく、「メンズクラブ」「オーシャンズ」そしてロンドンの雑誌「モノクル」にも出ていますよね。雑誌だけではなくて、パリやミラノでコレクションのランウェイを歩いたりニューヨークで広告の仕事をしたり、国際的に活躍をしています。じつは、いま剛さんは軽井沢にお住まいですよね。

そうです。2022年の4月から移住しました。

山本

シティライフがすごく似合うモデルさんのイメージがあったので、軽井沢への移住、びっくりしました。それは、何かきっかけがあったのですか?

19年間モデルを続けてきて、仕事や、これからの人生を考えました。コロナ禍もあって、家族のことを考えると、移住したいなと思うようになりました。

山本

なるほど。軽井沢以外にも候補がありましたか?

モデルの活動は続けていて、東京まですぐ出向ける距離感じゃないと難しいので、電車で1時間ぐらいのところ。那須や熱海、箱根なども、候補にあがっていました。

山本

移住のタイミングでクルマも購入されたそうですが、何に乗っているんですか?

ディフェンダーです。

山本

それまでは、クルマを所有したことなかったのですか?

ないですね。ペーパードライバーでした。

山本

いま43歳だから、41歳で初めてクルマのオーナーになったんだね。軽井沢ライフとディフェンダーはイメージがぴったり合いますが、選んだ理由を教えてください。

まずは、デザイン。これまでクルマのオーナーになったことがなかったので、比較する対象やスペックも分からず、外観で選ぶしかなかったのもあります。軽井沢という街は冬に雪が降って、いずれは畑もやりたいと思っていたので、タフで悪路の走破性もあるクルマを選ぼうとしていました。

山本

なるほど。他にも候補はありました? 例えば、ベンツのゲレンデヴァーゲンとか。

まさしく。ゲレンデも候補に考えて、カタログを取り寄せていました。

山本

そうした候補からディフェンダーに決めたのは、何か理由があったのかな?

ちょうどその頃、「GQ」という雑誌のWEB版でディフェンダーのタイアップ広告のモデル撮影があったんです。まさしく、撮影場所が軽井沢。まだ移住する前で、もちろんディフェンダーも購入する前で、そういった話は誰にも伝えていなかったんですけどね。

山本

偶然に、ディフェンダーと撮影する仕事のオファーがあったわけですね。

モデルの仕事は、相手が考えているイメージに近づいて、擦り寄せていく作業が必要です。自分は、そういうふうに見られているんだなぁと、一気に具体的になりました。

山本

このクルマに乗って軽井沢で生活する自分の人生って、どうなんだろうという気持ちが起こったわけですね。いま地方に移住する人も増えて、中でも軽井沢は非常に人気が高い。理想のライフスタイル、あるいはファッションのスタイル、それを体現していくのがモデルの仕事だとすると 自分自身がそれに近づきたいと思ったと。

そうですね。

山本

ディフェンダーは四角っぽいデザインが特徴ですが、クラッシックなのに、モダンにも見える。そういう意味では、タケちゃんのイメージのままじゃないですか。

ありがとうございます。自分もそうなりたいと思っています。

山本

2008年に「アエラスタイルマガジン」を創刊する前に、100人近くのモデルさんをオーディションしたんです。私は「メンズクラブ」や「GQ」も編集していたので、そういった雑誌に出たことのないモデルさんで、日本のビジネスパーソンを代表するようなスタイルを提示できる方がいないかと探していました。そのときに現れたのがタケちゃんで、まさに侍のようなクラッシックな佇まいがありながら、モダンな装いが似合う素敵なモデルさんだなぁと思った記憶があります。今日は、ちょっと特別にほめていますけど(笑)

ありがとうございます。

山本

いま、そういった自分に近づきたいと思ったときに、ディフェンダーがぴったり来たと。

そうですね。

農作業をする畑に向かい、娘の学校の送り迎え
軽井沢ライフに、クルマは欠かせな

山本

実際に乗ってみてどうですか? 乗り味とかは?

1年半ほど乗っていますが、乗る前に抱いていたイメージ通りです。農作業をする自分の畑に向かったり、雪山を走ったり。走破性や快適性にまったく不自由はありません。

山本

タケちゃんは追分にお住まいで、畑は御代田。クルマでどれくらいかかりますか?

クルマだと15分です。

山本

小学4年生の娘さんがいらっしゃいますが、学校の送り向かえもするんですか?

そうですね。いまは、妻が運転できるようになって。僕と同じペーパードライバーだったんですが、半年前に自分用のジムニーを購入しました。それからは、娘の送迎は奥さんが担当することが多いです。軽井沢では学校まで徒歩で50分とか普通なのですが、娘が慣れていなかった最初のころは僕がクルマで送り迎えしていました。雨の日もあるし、林道に熊が出たりもするので、それあってクルマで送迎していました。

山本

このインタビューは「クルマ、家族、そして旅を語ろう」というシリーズなのですが、軽井沢にご家族で暮らしていくなかで、ディフェンダーや奥さまが乗っているジムニーは、なくてはならないものでしょうか?

もう、なくてはならないですね。

山本

旅に行ったりもされますか?ご自身が子供のころ、クルマで旅に行かれたりしました?

あまりクルマで旅行した記憶がなくって。周りの人も、特にファッション業界にはクルマ好きの人が多いのですが、自分は乗ったことがなくて、これまではクルマに興味がわかなかったんですよね。でも移住のためにクルマが必要になって、ディフェンダーに出会って、そこからは、いままで見えなかった景色が見えるようになりました。

山本

いいフレーズを言ってくれますね。

はい、考えていました(笑)

山本

やっぱり、クルマがないと見えない景色ってありますよね。移住しないと見えない景色もあるし。景色というのは、人生の景色でもあるわけで。最近は、ご家族とクルマで旅行に行かれたりしますか?

軽井沢から石川県や富山県にお寿司を食べに行ったりします。移住をひとつのきっかけとして、自分が思い立ったことをやりたかったので、新しい挑戦をする意味で、スキーを始めたり、釣りに行ったり。余暇の過ごし方も変わってきて、それに付き合ってもらっている感じですね。

山本

そうか。軽井沢への移住、そしてディフェンダーの購入。それがタケちゃんにとっては、人生を変える、あるいは自分自身を変えることにつながったんですね。

変化は、いろいろと大変ですが、それを楽しめている感じです。

山本

富山や新潟って美味しいお店がいっぱいあって、最近ちょっとブームになっています。そういったところに出かけるときには、クルマの中ではどう座るんですか、家族では。

僕が運転、助手席に奥さんが乗って、その後ろに娘、あと犬を飼っているので。

山本

幸せな家族の風景ですね。

そう、変わったんです(笑)

山本

クルマが家族との関係も変えるんですね。お父さんが前で運転してパートナーとお子さんが後ろに乗っているパターンも見かけますが、できればパートナーには助手席に乗って欲しいですよね。

そうですね。最初は乗り慣れていなかったので、奥さんも気が気ではなかったと思うんですが、最近では自分も運転が慣れてきたので、横で口を開けて寝ています。

山本

もう少し軽井沢ライフの話を聞きたいです。畑以外にも、パン屋さんで働いていると聞いたのですが、それもやりたいことの一つだったわけ?

そうですね。もともと十代のころから、趣味で自家焙煎のコーヒーを淹れていて。

山本

それは早いね。いまコーヒーのブームだけれど。

いまだに、機械を使わずに手回しで豆を焙煎しているんです。いずれはそういった喫茶店をやりたくて、それも移住のひとつのきっかけです。コーヒーとパンとちょっとした焼き菓子を作れるようになれたらと思って。移住したからには、モデルという肩書を捨てて、まったく新しい職業に挑戦したかったので、パン屋で修行させてもらっています。

山本

軽井沢の有名なパン屋さん沢村で働いているらしいね。私も沢村のパンが好きで、東京の広尾や中目黒にある沢村でよく食べているんですが、タケちゃんが作っている可能性もあるよね?

ありますね。

クルマがもたらした、自分自身や家族の変化
さて、この先どこへ向けて走る

山本

そうか。軽井沢では、まったく新しい渡辺剛になっていて、モデルであると知らない方も多いわけですか?

そうですね。いままで、いい意味でも悪い意味でもモデルということに依存してきて、そこから脱却したかった。自分のなかでは、一回モデルを引退している気持ちです。

山本

日本のメンズモデルを代表する“ザ・プロフェッショナル”の渡辺剛が、そんな思い切った選択をしたわけですね。

「モデルがする何々」みたいな仕事にしたくなかったので、農業もパン屋も本気で向き合いたかったんです。

山本

なるほど。そうすると将来は、おいしいパンとコーヒーが出るタケちゃんの店を軽井沢に開くこともあるわけですね。

あり得ますね。そして、モデルとしてもまだ頑張りたいです。

山本

モデルとしては何か予定がありますか?

冬の間は農作業も閑散期に入って、パン屋もだいぶ落ち着くので、2024年の1月から3月の間は、海外に挑戦したいと思っています。

山本

日本のメンズモデルが海外にチャレンジしていますが、タケちゃんはその先駆者というか、いろいろなところで活躍をしてきました。来年は、どこに行かれるんですか?

1月に香港に行って、そのあとロンドンに行こうと思っています。

山本

アジアでファッションを提案する場所として、香港とかシンガポールとか、その辺りの仕事が活況を呈しているという話を、最近ではよく聞きますよね。

若いころには、アジア圏には仕事でよく行っていたんです。ニューヨークもそうだし、パリやミラノも。いまの自分がどこまで通用するのかに、また挑戦したくなったのもあります。たぶんそれも、東京にいたら躊躇していたかなと思うので、いい機会だと思ってまた頑張りたいです。

山本

クルマのインタビューのはずが、軽井沢移住の話とタケちゃんのキャリアプランの話が多くなってしまいました。いま、クルマに乗るのは好きですか?

好きですね。もう、なくてはならない。長距離も乗れて、快適性もあって。

山本

最近では、東京にクルマで来られることも多いんですか?

ありますね。2日前にも、クルマで東京に行きました。

山本

2年前までペーパードライバーだったのに、もうすっかりクルマライフじゃないですか。

変わるんです。

山本

そうですね。やっぱり、クルマって人の人生を変えたり、見える景色が変わったり、自分自身を変えたりしてくれる。大事な相棒みたいなものですかね?

軽井沢での生活は、実際問題としては大変なことも多いんですけれど、それも含めて変化というか、楽しめる。そのきっかけを作ってくれたのがクルマだと思います。

山本

このあと、家族とどこか旅行に行かれるご予定あったりしますか?

剛 

新潟か長野のスキー場、温泉とかもありますし。

山本

軽井沢だと、近場でいくつもいいスキー場や温泉ありますよね。

けっこういろいろと行くんですが、やっぱり最終的に長野がいいねって話になるんです。

山本

娘さんもクルマが来て、クルマと過ごす生活に変わって喜んでるんじゃないですか?

喜んでいます。できることが増えたと思っているようで。2日前の東京も、仕事ではなくて、娘を連れてクルマで友達に会いに行ってきたんです。2時間ぐらい走れば東京に行けるっていうのもあるので。

山本

タケちゃんけっこう口下手だけど、クルマの中で娘さんとどういう話をするの?

学校の話が多いですね。

山本

クルマの中って意外と親密な空間になって、じっくりと話ができるよね。

できますね。やっぱり運転している人が主導権を握るというか、パーソナルスペースを作れるんで。

山本

そうか。聞かれる側じゃなくて、質問をしたり話をまわしたりする役になるんだ。

普段、娘は答えてくれないのに、クルマの中では答えてくれる(笑)

山本

クルマにはそういった役割があります。タケちゃんと私の付き合いも15年ですが、クルマを手に入れたことで、そして軽井沢に行ったことで、ずいぶんと変わりましたね。

変わりましたね。

山本

いや素晴らしい。 この後も、クルマでタケちゃんが新しい人生に向かっていくのを応援していますよ。久しぶりにゆっくりとお話できて楽しかったです。ありがとうございます。

ありがとうございます。

タケちゃんことモデルの渡辺剛さんと初めて出会ったのは、彼が29歳のとき。幾多のファッション雑誌の表紙を飾り、海外のコレクションで活躍し、それでも、もっと違う何かを探すかのように走り続けてきた。東京では照れ笑いくらいしか見せないストイックなタケちゃんが、軽井沢では和やかなスマイルで、これまでにないくらい能弁に、移住のことやこれからの夢を語ってくれた。あれから15年。44歳となった彼は、ディフェンダーと共に向かった軽井沢で居場所を見つけたのかもしれない。それでも別れ際に、「僕はまだ道の途上です」と言う。建築中だった追分の新居が建つ丘からも、トラクターで耕していた御代田の畑からも、遠くに浅間山が見えた。その先に向かって、クルマを走らせ続ける渡辺剛さんが、果たして、この先どんな景色を見て、どんな人生を送るのか。15年後にまた、インタビューしてみたいと思った。

渡辺剛(わたなべたけし)

1979年生まれ。愛知県出身。大学を卒業後はいったんSEとしてビジネスパーソンとして働くも、20代後半からモデルの活動を開始する。海外の事務所にも所属し、パリやミラノのコレクションでも活躍。人気モデルとして、メンズファッション雑誌「アエラスタイルマガジン」「オーシャンズ」「メンズクラブ」などの表紙を飾る。2022年春に、妻、娘、愛犬と共に軽井沢に移住。モデルの活動を継続しながら、農業にいそしみ、パン職人としても働いている。

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